「声でつなぐケアの倫理」職場に配信ラジオ企画 気軽に身近に自分と向き合う時間 大阪淀川勤労者厚生協会
大阪・淀川勤労者厚生協会(以下、淀協)は、7月から「声でつなぐケアの倫理」と題し、昼の15分、WEB配信をしています。“耳で聴くだけ”のラジオ形式で39事業所へ生配信しています。全9回シリーズで配信しているこの企画。今回、第8回目を取材しました。(高瀬佐之記者)
「難しい」見方を変える
「皆さんこんにちは! 声でつなぐケアの倫理の時間です―」お手製のマイクを通して、明るい声が会議室に響きます。配信をしているのは、法人教育委員の石橋薫さん(看護師)と安達夕紀子さん(事務)です。
淀協では、2025年4月から職場や委員会などで「ケアの倫理」caféの学習を始めました。しかし、「ケアの倫理」学習には明確なゴール設定はなく、参加している職員は漠然と、難しい印象を持っているという意見も寄せられていました。また、各事業所、部署では温度差もあり、法人の教育委員会では、「ケアの倫理」を深めるcaféの企画や実践方法を模索していました。
「まずはケアの倫理を身近なものに感じてほしい」「忙しさで学習時間が確保できない職場も、気楽に参加できるように」。そんな思いからラジオ形式の活動を、7月から始めました。
初回放送では、WEB接続が50を超え、職員は様ざまな工夫をしながら配信を聞きました。休憩スペースのテレビで放送する部署や、原水禁平和カレーをつくりながら放送する部署も。「聴くだけでOK」のスタイルに、「短時間なので気軽に参加できた」という声が寄せられました。
第2回からはゲストを呼び、プロさながらの雰囲気で、現場の職員へ「ケア」を届けています。
ゲストには、事前ミーティングで、テーマに沿ったエピソードを聞き取り、対話をしながら当日の台本を構成していきます。放送回数が続くと、職員からは「この放送が流れる昼休みは楽しみ」との声も届きました。安達さんは、「そういう声にうれしく、ホッとする。これもケアの一つですよね」と笑顔で話します。
互いに助け合う
第8回は「できない自分をどう扱う?」をテーマに配信。ゲストは専務理事の穴井勉さん(事務)です。質問形式で、過去に自身が感じた「できない自分と向き合う」エピソードで話題をひろげます。就職当時に感じた葛藤や悩み話から、当時声をかけてもらった言葉などを紹介。穴井さんは「人って、できなかったことに敏感だけど、できたことには意外と鈍感」とふり返り、「たいしたことのない自分を受け入れる。ケアされる存在として互いに助け合うことが大切」とリスナー(職員)へ呼びかけます。終盤には「これまでつらい時に声をかけてもらって印象に残っている言葉はありますか?」とリスナーへ問いかけ、「自分の『できない』を許せると、誰かが苦しい時に助けられる。失敗が自分や相手にやさしくなれるきっかけになるのでは」と語ります。
語り合うプロセスに意味
石橋さんは「ケアの倫理を知るまでは、無意識に自分の中の当たり前を、自分にも他者にも押し付けていたかもしれない」と言います。「『子育ては親だから当たり前。介護するのは家族だから当たり前』とそう思っていた自分に気付かされた。家族だけでは解決できないこと、社会に声をあげなければいけないことがたくさんあると気づいた。ケアの倫理の学習や、こうした活動がなければ気づかなかったかもしれない」。
安達さんは「医療従事者として、『ケアをするのが仕事』と思っていたけれど、ケアの倫理について学ぶことで、自分たちもケアされる存在だと気づいた」と。
また、二人は「ケアの倫理の答えや、模範解答はないが、モヤモヤ葛藤しながら語り合うこと、このプロセスに意味がある。学習会や講義ではこの思いやケアの倫理を伝えるのは難しいが、日々の職場での経験談を語ると、伝わりやすいのでは。ラジオを通して、自分や相手に少しだけ優しくなれるような。ケアを気軽に、身近に感じてほしい」と言います。
「声でつなぐケアの倫理」のラジオ企画は第9回をもって終了しますが、今後も新たな企画を考えたいと二人は意気込みを語りました。
(民医連新聞 第1839号 2025年10月20日号)
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