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民医連新聞

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地協・県連拡大医療介護活動委員長会議 学習講演 生きることをささえる仕組みづくり 福岡国際医療福祉大学教授 松田晋哉さん

 9月20~21日、全日本民医連は都内で、第46期地協・県連拡大医療介護活動委員長会議を11年ぶりに開催。福岡国際医療福祉大学の松田晋哉さん(ヘルスサービスリサーチセンター所長)が「2040年の医療提供体制からみて、今後求められてくる医療介護活動を考える ~民医連に期待すること~」の学習講演を行いました。概要を紹介します。(髙瀬佐之記者)

■生きる未来を考える

 団塊の世代が75歳を超え、高齢化が急速にすすむ今、医療や介護をめぐる課題が鮮明になってきています。在宅診療の拡大、医療技術の進歩は感じるものの、65歳以上の高齢者は、2040年前後に4000万人になると言われています。現在の医療介護サービス量で計算すると、2040年には追加で200万人の労働者が必要になります。公的財源への不安や経済格差もひろがり、社会保障のありかたが問われています。
 松田さんは、医療現場で、高齢者の低栄養が肺炎や死亡リスクを高めることを指摘しました。また、65歳以上の脳梗塞や心不全、肺炎など、急性期病院への入院前後の介護サービス利用状況データを示し、「急性期医療は介護保険との連携や総合診療的な対応が重要」と話し、入院中のリハビリや口腔ケアの重要性を強調しました。青森県の調査を例に出し、入院患者の約2割(施設入所者では4~5割)が低栄養状態にあること、認知症との併発も多いことを示し「医療と介護を切り離さず、プライマリケアや栄養改善を地域包括ケアシステムの整備を柱に、すすめる必要がある」とのべました。
 そして今後、高齢者救急はさらに増加することが予想されています。松田さんは、急性期病院と在宅支援型病院が役割を分担する仕組みが求められていることを強調し「高齢社会において、民医連の事業所が多くあてはまる、在宅支援型病院の役割が重要。社会全体でその共通認識が必要」と言います。

■その先のくらしを見る

 函館や福岡では、医療と介護情報を共有する「連携サマリー」が導入され、重症化予防や業務効率化に成果をあげています。今後は訪問診療体制の拡充や、1CTを活用した標準化が求められます。しかし、医療介護の連携において地域包括ケアシステムの構築は大前提の課題です。松田さんは「生きることの基本である、食べること、休むこと、他者と交流することなどの機会が地域から失われてきている」と指摘します。背景には、地域の少子高齢化の他に、格差拡大による高齢者の貧困問題があります。非正規雇用や基礎年金のみでくらす層は増え、介護を受けられない人も少なくありません。特に所得が低い高齢者ほど、賃貸住まいの割合が高く、生活の不安は深刻化しています。「民医連の皆さんには、現在すでに起こっている、高齢者の貧困問題についても考えてほしい」と松田さん
は、参加者に強く訴えかけまし
た。
 海外では、医療・介護施設が地域住民に生活の場を提供するとりくみをすすめています。松田さんは「医療機関や介護施設が持つ『生活保障機能』を地域に開放できないだろうか」と問いかけ、日本でも、元気な高齢者の就労支援や地域交流の仕組みづくりが求められていることを強調しました。

■世代間対立を超えて

 高齢者医療への財源集中を理由に、世代間対立をあおる特定の政党やメディアの声も大きくなっています。しかし、高齢者の介護や医療を減らすということは、現役世代である自分たちも将来に使うものが減るということにつながります。また、若い現役世代の人たちにも問題意識を持ってもらうことが急務となります。松田さんは「具体的な問題意識を持っている研究者や医療従事者が事例を発信し、現場のリアルを社会全体に共有する努力が必要」と話します。
 世代間での対立を考える上で、高齢者の貧困問題をどう捉え、行動していくかということも同時に求められています。松田さんは「高齢者には、現役時代に専業主婦だった人、非正規雇用だった人も多い。そのような人たちが今、国民基礎年金だけで生活が成り立っているか」と問いかけ、「『医療の前後には生活がある』。この視点を忘れず、医療と介護を複合的に捉え直すことや、福祉政策の改革が重要課題になる。私たち研究者も声をあげ続けるが、現場で働く人たちの声が力になる。目の当たりにしている現状に声をあげてほしい。社会保障制度の理念を今こそ再確認し、『生きることをささえる』仕組みを次世代につなぐ責任が、私たち全員に問われている」とのべました。

(民医連新聞 第1840号 2025年11月3日号)