• メールロゴ
  • Xロゴ
  • フェイスブックロゴ
  • YouTube
  • TikTok

民医連新聞

民医連新聞

全日本民医連 第17回学術・運動交流集会in東京 テーマ別セッション 子どもの貧困と人権、食べることの多職種協働、戦争と健康権など3つのテーマで学びあう

セッションⅠ 子どもの人権と未来を守るソーシャルアクション

 約200人が参加。「子どもが幸福追求を達成できる人権保障を―選別する貧困対策から権利保障へ―」と題し、大分大学准教授の志賀信夫さんが記念講演しました。

子どもの貧困対策は投資ではない

 志賀さんは、子どもの貧困が注目される理由に▽慈悲心に訴えやすく、▽自己責任を回避でき、▽投資とみなされやすい点を指摘。しかし貧困対策は慈悲心ではなく「権利」「自由」に依拠すべきで、子どもの貧困だけに着目すると「大人の貧困を自己責任とする言説を助長する可能性がある」とのべました。投資とみなす考えもリターンを求めることなどから「投資に値する人とそうでない人の選別を助長する可能性」があり、「子どもの貧困対策は投資ではない」と強調。「経済的投資アプローチ」ではなく、人間そのものが目的の「権利アプローチ」が求められると語りました。
 さらに志賀さんは、貧困を「あってはならない生活状態」と解説。また貧困の概念は「社会の人たちの持つ批判、社会運動によって変わる」とのべ、貧困の概念の変遷に言及するとともに、現代では単に生存できるだけでなく、幸福を追求するための「自由」「選択肢の束」の必要性も話しました。
 続けて「未受診妊婦の症例を通して考える社会的ハイリスク妊娠」と題し、東京・立川相互病院の柿田祐望さん(医師)がビデオ出演し、15歳女性(高校生)の事例を報告しました。女性は5人きょうだいの末っ子。一人親家庭で、母親の勤務時間は不定期。母親は腹部膨満に気づきながら、妊娠をはっきり指摘できなかったなど複雑な家庭環境も見えました。

安心して相談できるいろんなチャンネルを

 その後、パネルディスカッション。全日本民医連産婦人科医療委員会の深澤喜直さん(医師)は、未受診妊婦は貧困が背景にあることが多い上、偏見による非難の対象となり、高校退学の理由にもされるため、誰にも相談できない状態に陥ると指摘。親以外の支援者や相談先が必要と語りました。
 同小児医療委員会の本間丈成さん(医師)は、柿田さんの報告事例について、「一時的に受けていた生活保護が切れたことで、支援も切れた」。また「望まない妊娠でも、学校に通い続けられるようにするのが本来の姿で、生まれた子どもも捨てられたというスティグマにならないように守っていくことが必要」とのべました。
 同社保運動・政策部員の富岡真理子さん(SW)は「トイレに行ったら(赤ちゃんの)足が出てきてしまった」シングルマザーの事例を紹介。富岡さんも生活保護申請に同行しましたが、「やっと岸にたどり着こうとしている女性に対して、市役所は説教から入る。背中が凍り付くようだった」と告発。「私たちも含めて、安心して相談できるいろんなチャンネル、社会のシステムが必要」と語りました。
 シンポジウムの次に、医療福祉生協おおさかの梶真実さん(組合員)が、子ども班会「コペルくん」の実践を報告。子どもの貧困は食事だけでなく、「どこにも連れていってもらえない」など、「体験の乏しさにも現れる」と考えた居場所づくりが注目を集めました。(多田重正記者)

セッションⅡ どうする? 食べることの多職種協働〜現場の工夫や気づきと専門職の力を融合させよう〜

 約370人が参加。入院中から退院後の在宅や施設で、口から食べる支援を強化するために、多職種連携でなにができるのかを考え、交流しました。開会あいさつでは全日本民医連副会長で歯科部長の岩下明夫さん(歯科医師)が「本セッションは医療部・介護福祉部・歯科部・栄養委員会による横断的な企画。連携でうまくいかなかったこともあると思う。解決の糸口になれば」とのべました。

歯科治療の重要性と医科歯科介護連携

 学習講演は井上誠さん(新潟大学大学院歯学総合研究科)の「医科歯科連携の中で歯科に求められるもの・知ってほしい歯科のこと」。井上さんは「摂食嚥下(えんげ)障害で困っているのは後期高齢者だが、欧米では嚥下障害の原因となる疾患が対象」と、日米の患者層の違いを説明。口腔機能を起点とした臨床やリハビリテーションは日本独自に発展してきたと解説しました。井上さんは「オーラルフレイルの根本原因は口腔ケアと栄養」として、日本老年歯科医学会が提唱する「OF5」(Oral frailty 5-item Checklist)の普及を訴えました。「歯痛がなければ歯科受診せず、歯を失い、やわらかい食べ物になる。ミキサー食は水分が多く低栄養になる」と、歯科治療の重要性をのべました。
 また、ふだんはミキサー食の高齢者に対し「嚥下の状態が悪くても咀嚼(そしゃく)できる」と判断した井上さんが、本人了承の上で米菓を食べてもらった動画を紹介。バリバリと食べることができた様子が流れると、会場に静かな衝撃が。
 さらにコロナ禍で、施設の訪問歯科診療が各地で中断されましたが、肺炎発症、入院、死亡いずれの割合も優位に下がっていたのは、訪問歯科診療を継続した施設だったと、井上さんは報告。医科歯科介護連携による食支援をすすめるには、トップが方針を持ち、臨床や介護現場での歯科の重要性を理解する歯科医を育て、ミールラウンドと継続性を重視したチーム形成を行うことだと訴えて、講演を結びました。

多職種協働を報告し意見交換

 基調報告は、兵庫・生協歯科の冨澤洪基さん(歯科医師)。指定報告は、山梨・竜王共立診療所の平田理さん(医師)、埼玉・大井協同診療所の河上亮子さん(保健師)、北海道・看護小規模多機能居宅介護こもれびの五十嵐修平さん(介護福祉士)、大分・けんせい歯科クリニックの佐藤千代子さん(歯科衛生士)など7人。食べることの多職種協働を報告しました。指定報告者によるセッションでは、権威こう配をなくす、民医連内外の連携など、様ざまな意見が交わされました。
 閉会のあいさつでは、全日本民医連副会長の根岸京田さん(医師)が「患者・利用者の変化に、私たちの嚥下機能評価が追いついていないのではないか。家族や介護職の試行錯誤が、本人のQOL(生活の質)向上につながるのでは。今日の学びを持ち帰って、明日からいかしてほしい」と締めくくりました。(松本宣行記者)

セッションⅢ 戦後・被ばく80年、戦争と医療・介護従事者の倫理~健康権の実現めざすアジアの連帯を

ガザ地区 深刻さ増す人道危機

 約270人が参加。日本国際ボランティアセンター東京事務所の高橋千絢さんがパレスチナ・ガザ緊急支援の支援内容を報告。「ガザ地区での人道危機は日々深刻さを増しており、イスラエルの度重なる攻撃、物資搬入と支援の制限で医薬品・食料などあらゆる物資が枯渇、6万7000人以上のいのちが奪われた」と話しました。現地代表の大澤みずほさんは映像で出演し、「中東で飢饉がおきている」と現状を報告。現在は粉ミルクや医薬品の配布などの医療支援と3歳以下の子ども、妊産婦の栄養支援を実施しているとのべました。

医学界の戦争犯罪「過去の問題ではない」

 京都民医連中央病院名誉院長の吉中丈志さん(医師)が「731部隊と医療・介護従事者の論理」を報告。731部隊は終戦までの15年間、中国で人体実験を行い、犠牲者は3000人超。「医師・医学者が犯した最大の戦争犯罪」と指摘しました。医学界は731部隊について反省せず、日本国憲法とのかい離が今も継続しており、「過去の問題ではない」と吉中さんは語りました。
 東大阪生協病院の橘田亜由美さん(医師)は「中国(旧満州)旧日本軍遺棄毒ガス被害の実態解明」のとりくみを報告。旧日本軍が中国に遺棄した毒ガスは、2023年度末までに11万6000発が回収されたものの、40万発が残っています。2003年8月にチチハル市内の団地地下駐車場建設現場で古いドラム缶が5つ掘り起こされ、液体から有毒ガスが発生し、44人(1人死亡)が被害に。橘田さんは被害者検診を実施し、自律神経障害、高次脳機能障害、PTSD、うつ症状が被害者の健康をいまも損ねていることを語りました。

戦争は予防可能な公衆衛生問題

 韓国の健康権実現のための保健医療団体連合共同代表のイ・サンユンさん(医師)は「増加する東アジアの戦争リスクと健康権運動の課題」を報告。戦争は食料、水、医療インフラを破壊し、長期的な公衆衛生危機を引き起こすこと、女性や子どもなど脆弱(ぜいじゃく)な立場の人びとが戦闘による被害者よりも多くいのちを失うとのべました。医療従事者は戦争被害を記録・証言し、戦争を予防可能な公衆衛生問題ととらえ、平和擁護と国際連帯で人間の尊厳をまもる特別な役割をもつと訴えました。
 元人道主義実践医師協議会企画局長のピョン・ヘジンさんは、「韓国の反戦平和運動と課題」について報告。パレスチナ・ガザ地区の緊急支援のため、募金活動を実施。ガザに爆弾でなく、水、医薬品をと訴えました。イスラエル大使館前での抗議集会も行ったことも紹介し、国際連帯が大切な時期であることを強調しました。
 元人道主義実践医師協議会代表のウ・ソクキュンさん(医師)は映像メッセージで、健康権の実現に向けてアジア全体の連帯を呼びかけました。(長野典右記者)

(民医連新聞 第1840号 2025年11月3日号)