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民医連新聞

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死者・行方不明者30万人推定 南海トラフ地震に備える

 全日本民医連は10月4~5日、第2回南海トラフ地震(広範囲の災害)を想定した学習交流集会を開催し、33県連から61人、全体で72人が参加しました。政府の地震調査研究推進本部・地震調査委員会委員長で東京大学名誉教授の平田直さんの学習講演と各地のとりくみを紹介します。(長野典右記者)

学習講演 地域のいのちを守るためBCP策定は急務

 平田さんは「最近の地震を知って、震災を減らす」をテーマに、この間に起きた3つの地震、新しい南海トラフ地震被害想定と地震防災対策、揺れと津波からいのちを守るため、どうとりくむのかを講演しました。

この間の3つの地震

 今年7月30日8時24分に発生したM8・8のロシア・カムチャッカ半島東方沖地震で、根室市花咲に10時17分、津波の第一波が到着、13時52分には岩手の久慈港で1・4メートルを観測しました。津波は沖合では時速600キロのスピードで伝わり、沿岸部では30センチの津波でも大人もさらわれる強さ、1メートルを超えると致死率は100%におよびます。カムチャッカ沖では同月7月20日にもM7・5の地震がありました。
 昨年8月8日に発生した日向灘の地震はM7・1。政府は南海トラフ地震臨時情報を出し、日ごろからの地震への備えを再確認するよう呼びかけました。2011年3月11日、M9・0の東日本大震災の発生前の3月9日に同じ場所でM7・3の地震が発生。世界で起きた1904~2014年のM7・0以上の地震1437回のうち、7日以内に6回、M7・8以上の地震が起きていました。こうしたこともあり中央防災会議のガイドラインにもとづき実施されました。
 2024年1月1日に起きたM7・6の能登半島地震は、内陸で起きる地震としては最大クラスの地震。M7・3の1995年の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災を起こした地震)、2016年の熊本地震で放出されたエネルギーの約3倍。犠牲者の死因の42%は家屋の倒壊による圧死、窒息・呼吸不全は22%、外傷性ショック・クラッシュ症候群などは16%でした。

51万人が事前避難者

 地震調査委員会の新しい南海トラフ地震の想定では30年以内に発生する確率は3ランク(高い)とされています。中央防災会議は、もしM9・0の地震が起きれば、震度6弱以上が神奈川県西部から鹿児島にかけてのひろい範囲におよび、死者・行方不明者は29万8000人と推定。うち21万5000人(72%)が津波によるもの。南海トラフ地震事前避難対象者数は51万6000人。しかし今年8月現在、自治体の住民事前避難対象地域を指定しているのは、南海トラフ地震防災対策推進地域の市町村の1割、検討の結果指定していない地域は約6割、検討中・未検討は約4分の1となっています。一刻も早くすべての地域で検討する必要があります。
 過去の南海トラフ地震は時間差で発生したことがありました。1854年12月の安政東海地震は約30時間後に安政南海地震が発生、1944年12月の昭和東南海地震の2年後、昭和南海地震が起きました。世界で起きたM8・0以上の地震発生後に隣接領域でM8クラスの地震が発生したのは、103事例中7事例ありました。10回に1回は起きるということです。

日ごろからの備え

 平田さんは「揺れと津波からいのちを守るための事前対応として、直接死を防ぐための耐震化、避難所の環境改善、生活を守るための建物の機能維持」を指摘しました。2024年1月1日の能登半島地震でも2000年以降の耐震基準を満たした木造住宅の6割が無被害でした。病院の耐震化率は2023年で80・5%、災害拠点病院および救命救急センターは96%です。
 応急対応・避難として、「日ごろからの地震の備えは、どこに逃げるか、どの経路で逃げるか、誰と逃げるか、何をもって逃げるかを再確認することが大切」とのべました。
 病院の業務継続計画(BCP)は2019年時点で災害拠点病院は71・2%ですが、全病院の25%にとどまっています。また介護施設・事業所では、今年4月から業務継続計画が未策定の場合は介護報酬が減算されるので、事実上の義務化がはかられています。
 最後に平田さんは「医療機関の場合、地震が発災すると患者が増える。人材、物資、情報などが減少するなかでどのように機能を維持、回復していくのか、患者のいのちを守るうえでのBCPは重要」とのべました。

指定報告から

東京民医連・大田病院 首都直下型地震にも備え

 東京民医連事務局長の西坂昌美さん(事務)が、東京民医連の防災対策の基本を報告しました。首都直下型地震への備えが南海トラフ地震の備えとなり、各法人・事業所(加盟280)のBCPと県連対策本部による対策をすすめます。
 大田病院事務長の杉山耕佑さん(事務)が同院のとりくみを報告。南海トラフ地震では震度6強以上の揺れはなく、大田区で2・3メートルの津波が想定されています。都心南部直下型地震では最大震度が7となり、大田区と品川区を合わせた区南部地域での死者は1014人、負傷者は1万2307人の被害。ライフラインの被害も甚大で、復旧までの日数は電気で7日、下水道で16日、上水道で31日、ガスで57日と想定されています。そうしたなか、区南部地域では21病院が救急受け入れを行います。大田病院にも医療救護所を開設し、トリアージポストと処置エリアを設置します。大田区から資材、薬剤の提供、通信機(衛星電波で通話可)などの提供を受け、地域から医師、薬剤師らが駆けつけます。医療救護所の開設・運営訓練を毎年行っています。

三重民医連 災害の備えにゴールなし

 三重民医連事務局次長で津生協病院事務長の岩崎吉樹さん(事務)が報告しました。
 三重民医連の事業所は南海トラフ最大クラスの強震動で6強が想定される地域に位置しています。津生協病院はハザードマップ上で5メートルの津波が最短40分で到達すると想定。1階は水没を前提とした設計で他の階よりも天井を高くし、外来は2階、病棟は3階、4階に設置、1階エレベーターには止水板を設置しています。3カ月に1回訓練を実施し、訓練ごとにマニュアルの予習とブラッシュアップをすすめています。
 当院の3階職員ルームが地域の津波一時避難所に指定されているので、地域の防災訓練への参加や近隣保育園の備蓄を当院に行っています。新入職員へは入職オリエンテーションでマニュアル説明と災害時の地域状況を把握するワークを実施。数日間の籠城となった際の準備、BCPの観点の「再建計画」などの課題を解決していきます。災害の備えにゴールはありません。これからも訓練・改善・周知をくり返し、リアルで質のともなった準備をすすめていきます。

大阪民医連 職員守ること基本的な視野に

 大阪民医連事務局の武内智子さん(事務)が報告しました。
 大阪は7つの法人と4つの病院があります。南海トラフ巨大地震が起きた場合、大阪府の被害想定は13万4000人が死亡し、約9割が大阪市内で亡くなるとの推計が出ています。津波到達予想時間は堺市で最短101分、大阪市で110分、大阪市内は海抜マイナス1メートル、津波で浸水のリスクがあります。県連事務局が十分に対応できなくなる可能性が高いと考えています。
 2018年策定の災害対策活動指針を南海トラフ地震に対応できる改定が必要になっています。改定では、職員を守ることを基本的な視野に入れる、県連事務局の倒壊で機能不全のおそれがあり、シミュレーションや、法人との連携強化を盛り込みます。
 阪神・淡路大震災から30年、災害の備えを強化し、BCP作成、役割遂行を考えるために、看護主任研修会をあべの防災センターで開催。災害時に主任が果たすべき役割をテーマに100人が参加。地震の揺れ体験、自職場のBCPに関する課題の発見、定期的訓練の必要性を再認識しました。
 原発をなくす運動、「震災時に医療機関が必要」と、地域医療を守る緊急署名にもとりくんでいます。

高知民医連 津波から職員住民守る

 高知医療生協の吉本拓生さん(事務)が報告。南海トラフ地震の被害想定で、高知県の東の室戸市と東洋町には3分で津波が到達。土佐清水市と黒潮町には34メートルの津波が押し寄せます。同生協の9事業所のうち、潮江診療所に60分で、高さは2~3メートルの津波到達と予想。デイサービスやまももは今年9月に津波到達時間が早い地域から移転しましたが、2~3メートルの浸水地域に。デイサービス四万十は液状化の被害が予想されています。同生協の災害対策方針では、震度6弱以上が発生した場合に災害対策本部を設置。第一次避難や対応終了後、高知生協病院の医療継続や対策本部の指示にもとづく支援のため、同病院に参集となっています。
 この間、高知市災害時用通信機器取り扱い訓練、トリアージ訓練、全職員防災学習会などの災害訓練などを実施。高知生協病院はBCPの簡易版を完成させ、災害対策マニュアルをベースに見直しています。また自治体主催の訓練や学習会に参加。潮江診療所は高知生協病院のBCPを参考に作成予定。訓練は山越えでの避難を含め、定期的に実施しています。介護事業所では簡易型も含め作成済み。訓練も定期的に実施しています。

宮崎民医連 持続的な学習と訓練

 宮崎生協病院の井上友香さん(看護師)が報告。地震発生から十数分以内に津波が沿岸部に押し寄せ、串間市は高さ17メートルになります。冬季の深夜想定の死者数は3万9000人。宮崎民医連は1つの病院、4つの診療所などが加盟しています。県連・法人合同、事業所ごとのBCPを作成し、訓練や学習会を行ってきました。
 このはな生協クリニックは、海から1・2キロメートルに位置し、津波到達に約30分を想定しています。当クリニックで高台、避難ビルへの移動訓練を実施、10人のデイサービス利用者が参加しました。避難には時間がかかることなどがわかり、継続的な学習と訓練が必要だと認識しました。
 宮崎生協病院では、熊本地震をきっかけに災害対策委員会を本格始動。大規模災害訓練を5回実施。第2回大規模災害訓練は群馬・利根中央病院のDMAT医師と看護師長に指導してもらう機会になりました。知識や技能の取得が課題になり、トリアージNS養成講座を2019年2~5月まで実施。養成講座修了者が法人内で32人になりました。
 今後も、患者を守る、職員を守る、地域を守るために必要な準備をすすめていきます

(民医連新聞 第1842号 2025年12月1日・15日合併号)