新春インタビュー 石川 優実さん 「当たり前」はだれのため? 構造的差別に声をあげて
#KuToo運動を切り口に、俳優・エッセイスト・アクティビストの石川優実さんへ、ケア労働の価値についてたずねると、構造的差別と抑圧、ケアとアクティビズム(積極行動主義)について、横断的に語ってくれました。
(文・松本宣行、写真・大橋愛)
#KuToo運動で社会の問題と指摘
2019年に私がSNSで発信した#KuToo運動は、パンプスの着用強要が性差別であると訴えました。「女性の脚をきれいに見せる」という、仕事と無関係な価値観を、社会が女性のマナーとして押し付けてきた結果です。この運動は、問題が特定企業や個人ではなく、社会の問題であることを指摘できた点で前進でした。
「外見の強制」の根本は、社会が女性に一方的に求めているものです。男性は清潔感が基準であるのに対し、女性は清潔感に加えて「きれい」に近づけることを求められます。このような構造的な差別を指摘し続け、変えていかなければなりません。
女性の自立を阻む性差別と経済的抑圧
根強い男女間賃金格差や、女性の経済的な不安定さの原因は、日本社会に残る性差別です。「女性は結婚して家庭に入るのが幸せ」という価値観は、女性の自立の欲求を抑圧します。教育を通してこの抑圧をなくすことが必要です。
女性の心身の健康が守られることも不可欠で、性差別や性被害で気力が奪われ、自立を妨げているケースは相当数あるはずです。経済的な不安定さもDV被害や貧困に直結します。女性が仕事を手放すことは非常に危険です。女性が男性に支配されない社会にするため、女性が安心して人生設計できるよう、社会で支援すべきです。
ケア労働の価値を低く見る社会構造
ケアワーカーは低賃金だと知りました。7割が女性で男女の賃金格差を前提に、低い方に賃金が合わせられているという、性別に無関係な構造的問題です。私自身、かつては「女性が一人で生きていくのは難しい」というアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)を内面化していましたが、社会運動を通して「当たり前」がつくられた価値観だと気づきました。
特に介護が「誰にでもできる」と軽視されがちなのは、これまで家庭内で、女性が無償で担ってきた労働に「賃金が発生しなくても仕方ない」という価値観が刷り込まれたためです。その結果、ケア労働の価値が低く見なされてきたのではないでしょうか。
弱い立場への一方的な強制・排除
私の父は沖縄出身で、基地問題を深く考えるようになりました。私が辺野古へ行ったとき、沖縄に住む祖母は「戦争がくる」と不安そうでした。基地問題はイデオロギーではなく、いのちとくらしの問題です。基地を押し付けている側の本土に住む私たちが、声をあげなければ、解決できません。
昨今の高まる排外主義ムードも危険だと考えています。選挙でのヘイトスピーチや、外国人デマが現実のように受け止められる社会の空気は、日本に住む外国人にとって、たいへんな恐怖でしょう。不安をあおられた人たちへ事実を伝え、不安をあおる人たちへ抗議し続ける必要があります。
ケアとアクティビズムはつながっている
社会運動と表現活動は地続きです。ババカヲルコさんと宮澤もえみさんと私の女性3人で、音楽ユニット「公園でchill」を結成し、活動しています。社会運動に興味を持たない人にも、音楽を通じてメッセージを届けています。歌詞を手話にした曲もあります。
昨年末に出版した新著『私が私を取り戻すまで 性暴力被害のその後を生きる』(新日本出版社)では、性暴力の被害当事者として、後遺症についてまとめました。ケアワーカーのみなさんは、現場で困った患者・利用者と出会うと思います。その人の行動だけを見るのではなく、背景に性暴力や差別によるトラウマが潜んでいる可能性に気づいてもらえるヒントになれば、うれしいです。
声をあげることをためらっている人たちに伝えたいのは「無理しなくていい」ということです。SNSに匿名でも投稿すること、声をあげた人に「いいね」をすることも、声をあげるのと同じです。負担が少なく、できることを続けることが大切だと思っています。
私をふくむ社会を変えようとしている人たちが、活動だけでなく、自分の心身のケアにも時間や労力をつかえる社会をつくっていくことが、今年の抱負です。心身ともに健康でいられる時間を積極的に確保することが、長く活動を続ける鍵だと考えています。ケアとアクティビズムはつながっているということを、これからも伝えていきたいです。
いしかわ・ゆみ
1987年生まれ。2017年、芸能界で受けた性被害を#MeTooで告発。2019年、職場で女性にヒールやパンプスを強要するのは女性差別とSNSでの発信が#KuToo運動としてひろがり、注目を集め「ユーキャン新語・流行語大賞」で「#KuToo」がトップ10入り。同年英国BBCの世界の人びとに影響を与えた「100Women」に選ばれた。
(民医連新聞 第1843号 2026年1月5日号)
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