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民医連新聞

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世界は共鳴し合っている戦争のない国際社会実現 2026年 新春対談

ピースボート共同代表 畠山 澄子さん × 全日本民医連 増田 剛会長

 軍拡が叫ばれる今日、すべての人びとのいのちが大切にされる社会実現のために何ができるのか。今年の新春対談は、世界各地をまわっている最中のピースボート共同代表、畠山澄子さんとWEBで行いました。(多田重正記者)

増田 よろしくお願いします。今、畠山さんはどこですか?
畠山 数日前にペルーを出て、イースター島に向かう船の中です。
増田 海の上なんですね。畠山さんはなぜピースボートに?
畠山 選んだつもりはなくて、いつの間にか、いたんです(笑)。
 高校進学前にふと「これからも勉強ばかりするのか」と窮屈に感じたことがあって「自分の所属する場所を変えないと、ずっとこのままだ」と思って、留学に興味を持つようになりました。それで17歳の時、高校を中退して、イタリアの学校に入学したんです。
増田 すごい行動力ですね。
畠山 その学校は世界各地にあり、私の行ったイタリア校は約80カ国の生徒が集まっていました。
 そこでの体験が衝撃的で、イラク出身のウィッサムは「戦争を知りたい」と言った戦争を知らない国の私たちに「同じ世界で起こっているのに、なぜ戦争について知らないのか」と怒りました。パレスチナ・ガザ地区出身のネビンは、今この瞬間も家族が空爆に遭うかもしれない恐怖を泣きながら語りました。この時から「傍観者ではなく、紛争地や戦時下にいる人たちとどう向き合うか」考えるようになりました。
 イタリアの学校を卒業後もすぐには大学に行かず、もう少し世界を見たり考える時間がほしいと思っていた時に見つけたのが、ピースボートの通訳ボランティアです。その時は100人の被爆者を招待したクルーズで、いっしょに世界をまわり、被爆証言をたくさん聞いて通訳しました。
 当時私は19歳。私が生きてきた時間よりもずっと長い間、活動を続けている人に初めて出会いました。これにも衝撃を受けて、仕事やお金などではなく、もっと大きなことのために人間は動けるんだと知りました。その延長線上にピースボートがある感じですね。
増田 他の人の証言を聞いて、疑似体験し、自分に何ができるかを考えて選択してきたんですね。

恐怖に直面する戦地・紛争地の人々

増田 今もガザやウクライナでは侵略や武力攻撃による被害が続いています。畠山さんは現地の状況をどのように見つめていますか。
畠山 耐え難いですね。無差別に人が殺されていく。ガザでは、国境前まで食料が届いているのに入れられない。この状況を許している自分たちへの怒りすら感じます。
 ウクライナでもガザでも、現地の人たちから入る情報は、テレビやネットで流れる戦況とは違います。「どうすれば明日生き延びられるのか」「自分は死んでしまうのか」という恐怖に直面している。その人たちが、私たちと同じ世界のなかで生きている事実がのみこめないまま数年が過ぎています。
増田 日本にいる私たちのもとに届く情報は、西側諸国からの情報が多い。でも、現地ではいのちが次々奪われています。
 民医連の仲間もロシアのウクライナ侵略やイスラエルのガザ攻撃をやめさせようと、全国でスタンディングをしていますが、もっとできることはないのかと、もどかしい思いになることもあります。

国・地域によって違うガザ攻撃へのスタンス

増田 ところでウクライナと比べてもイスラエルのガザ攻撃に対する見方は国や地域で違いますね。
畠山 全然違います。抑圧された歴史を持つ国や地域の人びとのパレスチナに関する訴えはすごい。南アフリカでは、街のあちこちにガザへの連帯のメッセージがある。自分たちも差別的な人種隔離政策に抵抗し、変えた歴史があって、その恐ろしさを知っているからだと思います。侵略され、差別された国ぐにの多いグローバルサウスの方がガザへの攻撃を何とかやめさせようとしている印象です。
 ドイツはホロコースト(第二次世界大戦中にユダヤ人を大量虐殺したこと)の歴史があるからか、イスラエルに対して声をあげにくい空気がある。アメリカも政府がイスラエルと協力関係にあり、国内のユダヤ人の影響力が強いことも複雑に絡まって、反対の声をあげにくい現状があります。それでも、ドイツでもアメリカでも声をあげている人はいますが。

「平和のための軍拡」に騙されない言論を

増田 ガザの事態は、ジェノサイド(特定の民族や集団の全滅を目的とした大量虐殺)ですよね。ドイツは日本と同じ敗戦国ですが、ホロコーストの反省など、戦争との向き合い方には学ぶ点がたくさんある国だと思ってきました。ところがガザの事態に直面しても国はイスラエルを批判できない。それどころかロシアのウクライナ侵攻を受けて「ドイツが軍備力を持つ方がヨーロッパの安心・安全をもたらす」と言うなど、スタンスが変わってきています。日本も影響を受けて、ほとんどの国会議員が軍拡派になってしまいました。
畠山 一気に軍拡に振れてしまう空気が怖い。日本も防衛費ではすでに世界10位に入る国で、他国から見れば軍事大国なのですが。
 「平和のための軍拡」というレトリック(巧みな言いまわし)に騙されないことが大事です。軍拡した国は戦争します。かつての日本もそうです。「軍事力を強くすれば平和になる」という口調にのまれずに、踏みとどまる言論を私たちはもっと持たないといけません。
 日本を見ても、人びとが安心してくらせるようにするには、教育、社会保障など、政府の予算を使うべきところはたくさんあります。予算には限りがあって、防衛費が上がれば社会保障など、他の予算にしわ寄せが来ます。この点が、あまり理解されていませんよね。
増田 軍事費ねん出のために医療・介護も標的になっています。その結果、医療機関や介護施設の経営も非常に厳しくなっています。
 地域の医師の集まりでも、どこの病院も「経営がたいへんだよね」という話になるんです。でも「あんなに軍事費を増やさなくていいのでは」と言うと「いや、中国は危険だから軍拡しなければ」という声が出てきます。
畠山 「軍事力には軍事力」という話はわかりやすいですから。

問いを小さく分解し具体的に投げかけて

増田 一方で「国の防衛」と言いながら、日本海に面して、何基も原発がならんでいます。一発でもミサイルがあたったら大変なことになるのに。日本の政治の中心を担っている人たちは原発の被害を想定しているのか不安になります。どうしてそこで考えがとまってしまう人が多いのか、悩んでいます。
畠山 問いを小さく分解して具体的にすることが大事ですね。軍事費を上げて、自衛隊員も増やせと言いますが、誰が行くのか。ウクライナもロシアも、徴兵された現役世代が行っています。「軍事国家になるということは、自分がそのシステムの一員になること。そこをわかっていますか」と投げかけ、いっしょに考えないといけない。
 もう一つは、冷静に国際政治を見つめ、考え直すことです。たとえば中国との関係では「戦争する・しない」の二元論のような言説がひろがっています。でも国家と国家の関係を築くには、条約締結や経済協力など、さまざまな方法があります。戦争の前に、非軍事の外交手段がたくさんあることを語っていかなくてはいけません。
 軍隊も基地も、沖縄や、ロシア兵によるウクライナの性被害などのように、被害が女性に偏ることが多い。力で従わせる、説き伏せる政治は、フェミニズムの視点から見てもゆがんでいます。意見が違っても、社会を成り立たせるしくみを考えていくのが理想だと思います。
 アジアの国ぐには日本に侵略された過去があるため、軍拡に対し、厳しい目で見ていることも、忘れてはいけません。

市民のたたかいが他国の市民を励ます

増田 アメリカのニューヨークでは2025年、家賃値上げの凍結、保育料無料などを掲げたイスラム系のマムダニさんが市長に当選するなど大きな変化が生まれています。どうしたら日本でああいう大きな変化をつくれるでしょうか。
畠山 私も答えが知りたい(笑)。でも世界には国や社会が変わった事例はたくさんあります。先ほどの南アフリカもそうですし、軍事政権を倒した韓国もそうです。イギリスも核保有国ですが、女性たちが立ち上がり、核ミサイル配備を止めた歴史があります。
 2025年、フランスがパレスチナを国家承認しました。アメリカの圧力があったはずなのに、政治家は運動の規模を見て「手を打たないと、次の選挙で勝てないぞ」と思ったのではないでしょうか。日本では運動の規模が小さい。でも世界では変えている国があるんだから、日本も変えられるはず。世界とつながりながら変える方法を見つけていきたいです。
 今回のクルーズには船長をはじめ、パナマ出身のクルーが何人かいて、パナマの歴史を教えてくれました。パナマは中南米の国で、太平洋と大西洋をつなぐ運河の管理権をアメリカに握られていました。収入も全部奪われていたのですが、何十年もたたかって、管理権を取り戻したんです。そして20年かけて、管理のノウハウを引き継いだ。いまではパナマの重要な収入源になっているそうです。
 だから私はピースボートで世界をまわるのが好き。すごく勇気をもらっています。
増田 私も韓国の医療団体の人たちに、「韓国ではキャンドル革命(2016~2017年の大統領贈収賄事件への抗議行動)で大きなたたかいがあった。なぜあんなに多くの人が集まれるのか」と聞いたことがあります。返ってきた答えは「日本のたたかいに触発されたから」でした。
 2015年、戦争法(安保法制)案反対の国会前集会に12万人が押し寄せました。その時の映像が、韓国で何度も放映されたそうです。
畠山 世界は共鳴し合っていると思います。「結果が出なかった」とあきらめる必要はありません。日本のたたかいが他の国を励まし、励まされた国のたたかいがさらに別の国を刺激するかもしれません。

世界の人たちとつながって

増田 最後に、民医連職員にメッセージを。
畠山 今は、インターネットでも世界とつながることのできる時代です。ぜひ世界の人たちとつながってほしいなと思います。
 世界とつながることで、得られるものは大きい。おたがいに理解し合い、刺激し合いながら、平和な世界を実現するために力を合わせていけたらいいですね。
増田 私たちも、いのちが大切にされる日本と世界の実現に向けて、すすんでいきたいと思います。ありがとうございました。


はたけやま・すみこ
国際交流NGOピースボート共同代表。TBS『サンデーモーニング』コメンテーター。ペンシルベニア大学博士課程修了(博士)。専門は科学技術史。

(民医連新聞 第1843号 2026年1月5日号)