私がここにいるワケ ケアする人たちをケア 苦悩する声を傾聴し寄り添う
民医連で働く多職種のみなさんに、その思いを聞くシリーズ17回目は、東京・健生会の産業保健師、福島早織さんです。
(松本宣行記者)
産業保健師の役割は、働く人たちの心と健康を守ることです。一般企業で働く産業保健師は約4000人。病院の産業保健師は希少で、福島さんはその1人。産業保健師は患者と直接かかわりませんが「働く人が元気でなければ、患者も元気になれない」という信念のもと「ケアする人たち」をささえています。
■予防の重要性、保健師へ転身
福島さんが通った大学は保健師カリキュラムが必須で、資格は自然に取得しました。地域医療に関心があり、当初は訪問看護を志し、2007年に訪問看護が充実している健生会へ入職。着任した整形外科病棟で、糖尿病の合併症により下肢切断にいたる患者を見て、心境が変化します。「自分らしく生きるためには、予防が重要」と考えるようになったのです。2012年、民医連が地域に根差し、患者の生活背景まで見つめる姿勢に共感するようになっていた福島さんは、法人の保健師増員を機に健診部門へ異動しました。「保健師として受診者の行動変容を実感できることに、やりがいを感じた」とふり返ります。
■変化する相談内容
法人の職員の心と健康を守る方針と、福島さんの相談窓口をつくりたいとの思いが一致。2019年、労務課へ異動し、窓口を開設。2021年、コロナ禍で疲弊する職員のストレス緩和を目的としたカウンセリング&リフレッシュルーム「スマイルハート」が立川相互病院内に開設されました。相談内容は医療従事者をとりまく状況とともに、変化していきます。コロナ禍以前は、働き方の相談が中心でしたが、パンデミック初期は、医療従事者への差別の悩みが増加。最近はコロナ禍に学生時代を過ごし、実習の機会を奪われた世代から、苦悩する声も聞きます。福島さんがもっとも大切にしているのは傾聴です。
「相談者は、まずたいへんな思いを聞いてほしい。助言は求められたときだけ」と、相手の心に寄り添い続けています。
■多職種協働で抱え込まない
福島さんの活動は院内にとどまりません。法人の機関紙「健康のいずみ」での連載「暮らしの健康教室」は、2025年10月に100回を迎えました。地域住民から「読んだよ」との声が活動の原動力です。
この連載も1人で抱え込まず、多職種と協働して執筆しています。かつては「私の患者にさわらないで」という勢いで仕事を抱え込んでいた福島さん。しかし、産業保健師という「1人職場」を経験したことで、協働の重要性を痛感したといいます。
「困難にはグラデーションがある。もっとも困っている人に焦点を当てて解決すれば、その周辺の人たちも救われるはず」。
個人の問題を組織や地域の課題として捉え直す視点を、重視しています。
■平和こそが医療の土台
演劇好きの福島さんは、市民参加型の憲法ミュージカルに出演。平和への気づきになりました。沖縄出身の母を持つ福島さんは、ミュージカルを通じて辺野古支援連帯行動に参加し、沖縄戦の歴史に触れます。野戦病院で手足を切断する戦争と医療の歴史を学び、自身の整形外科での経験が重なったのです。「平和でなければ、自分のやりたい医療はできない」と。
大学での保健師養成の制度は2012年ごろから必須カリキュラムではなく、選択制に移行する大学が増えました。保健師が1人という現場も多いのが現状です。
「1人で抱え込まないで」。1人職場を経験し、協働に活路を見いだした福島さんは語ります。
福島さん自身も、多忙な日々のなかでセルフケアを欠かしません。自転車で湖まで走り、自分と対話し、考えを整理しています。
相談時に「辞めたい」とこぼした職員が再び元気に働く姿を見守り、地域へ貢献し続けることを大切に、地道な実践を積み重ね、今日もケアする人たちをケアしています。
東京・健生会 産業保健師 福島早織さん
(民医連新聞 第1845号 2026年2月2日号)
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