市民を監視処罰するスパイ防止法異論を排除、戦争する国づくりに
衆議院の解散総選挙になりました。次期国会でも浮上してくる「スパイ防止法」。ねらいと危険性について、名古屋共同法律事務所の弁護士、中谷雄二さんが解説します。
高市政権は、「スパイ防止法」の制定を維新との連立合意のなかで明記。昨年の臨時国会に、参政党と国民民主党が基本法案を議員立法で提出しました。
■国がスパイを定義
高市首相は、総理選出の前に、「外国政府勢力によるスパイ活動を想定し、監視し、必要があれば逮捕ができる法律が必要だ」と発言。自民党と日本維新の会との連立合意書で「わが国のインテリジェンス機能が脆弱であり、強化が急務だ」とし、この通常国会から2027年度末までに、(1)「国家情報局」の創設(日本版CIA)、(2)インテリジェンス・スパイ防止関連法制(基本法、外国人代理人登録法およびロビー活動公開法など)について検討を開始。速やかに法案を成立させることや、(3)独立した対外情報庁の創設、(4)情報要員の養成機関の創設を予定しています。
「スパイ防止法」制定を求める各党の共通点は、スパイを定義し、スパイとみなした者をサイバー空間も含め、監視・逮捕して、厳罰にすること。「極端な思想の持ち主」をあぶり出し、スパイ交換の要員にすることを想定しています。
■「極端な思想の持主」と迫害
これまでも日本の公安警察は、戦前の特高警察の捜査手法である尾行や監視などで、市民の情報を秘密裏に収集してきました。
昨年、名古屋高裁が違憲・違法と認定し、収集した情報の抹消と損害賠償を命じた、大垣警察市民監視事件の判決(確定)では、市民が環境問題の学習会を開催したことを「秩序を乱す」行為と危険視し、無関係な人の人間関係や学歴、病歴、活動歴などまで調べあげ、それを民間企業に伝えていました。裁判所は、この情報収集行為を違憲だと判決。しかし政府は、反省するどころか、密かに外国人や市民を監視し処罰する法律を新たにつくろうとしているのです。
米国は1917年、第一次世界大戦参戦時にスパイ防止法を制定。徴兵反対や反戦の呼びかけすら犯罪としました。異論を排除する目的で、政府に反対する労働組合役員、外国人や黒人がリンチにあい、逮捕・投獄され、強制送還などされました。
日本も戦前、軍機保護法や国防保安法など、家庭で妻に戦争批判の発言をした、学生が旅先で見た基地整備の話を先生にした、勤務先の自動車工場の生産台数を同僚に話したことなどを理由に、スパイとして処罰されました。
スパイ防止法は、敵を想定します。敵・味方を区別する考えは、一度関係を疑われたら職場や地域で「極端な思想の持ち主」として、差別され迫害されます。差別・排外主義は、その社会に暴力の蔓延をもたらします。メディアの言論も萎縮し、民主主義が破壊されます。これが歴史の教訓です。
■裏に統一協会
1985年、統一協会=勝共連合が、日本はスパイ天国だと宣伝し「スパイ防止法」制定運動をすすめました。法案は国会に上程されましたが、メディアや日弁連、労働組合、野党などの大運動により、実質審議もなく廃案に追い込みました。その後、特定秘密保護法が制定されましたが、成立後も廃止をめざす反対運動が続き、昨今の「スパイ防止法」制定の動きが出るまで長らく発動されませんでした(元上司に元部下が特定秘密を漏らした自衛官の例を除き〈不起訴〉)。石破前首相も「わが国は、スパイ天国で野放しだという状況にはない」と、昨年8月、れいわ新選組・山本太郎議員の質問主意書に答弁しています。現在もスパイ防止法制定促進国民会議は、「発行協力:国際勝共連合」と明記して「スパイ防止法」制定促進のパンフレットを作成。背後には統一協会=勝共連合がいるのです。
安保法制と安保三文書以降、この国は急速に戦争する国にむかっています。「スパイ防止法」の制定はその一環です。多くの国民に危険性を知らせる必要があります。
名古屋共同法律事務所 弁護士 中谷雄二さん
(民医連新聞 第1845号 2026年2月2日号)
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