私たちが求めるケア ③認知症の人と家族に認知症の旅の選択肢を 文/川井 元晴
もの忘れをはじめとした、認知機能低下の徴候に、本人あるいは家族が気づき、「認知症かもしれない」という不安と、「年齢相応で、認知症でなかったら良いのに」というかすかな期待を胸に医療機関を受診し、医師に診断された時から、認知症の人と家族の「認知症の旅」が始まります。
旅はいきなり始まるので、心構えもなんの準備もなく、ただ片道切符を渡されて行きたくもない旅行先に今から行くように、と強制されるようなものです。ピアサポートを含めた支援は旅の必需品ですが、遅れることもしばしばです。とりあえず出発し、乗車したあと、途中の駅や休憩所で携行品を買いそろえる感じで、介護保険を活用し、旅の途中から同行してくれるケアスタッフから必要な支援を「受け」ながら認知症とむき合い旅を続けることになります。
座席は指定され、途中でやめることはできません。車窓からは実った果実が手を伸ばせば届きそうですが窓は開きませんし、お祭りやきれいな景色が見えますが、立ち寄ることもできないようです。なんの楽しみもなくずっと同じ席に座り続けていては、いくら家族といっても嫌気が差すことや感情的になることもあります。
同乗者のケアスタッフや受診先の医療従事者と、ちょっと安らぐ話もしてみたいものです。長い旅ですのでいったん下車して、良い景色を見たりお祭りに参加したりして気分転換することも許して欲しいです。
認知症の人と家族が隣の席同士でいることが難しくなったら、別の車両や別便に移って、同じ行き先で同じ境遇の人といっしょに悩みや困難を分かち合いながら終着までむかうのも必要ではないでしょうか。
認知症の人と家族の会は、時にはこのような「細やかな選択肢」を受け身ではなく本人と家族が主体的に使いながら、「認知症の旅」をすすむ人生も悪いことばかりではないなと感じられる寛容な社会になればと願い活動しています。
かわい・もとはる 認知症の人と家族の会 共同代表理事
(民医連新聞 第1851号 2026年5月4日号)
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