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民医連新聞

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認知症への理解と支援 寸劇で地域にひろめる 東京・健友会

「認知症の患者を舞台にあげるなんて」。観客からそんな声が漏れるほど、その演技は真に迫っていました。東京・健友会の認知症多職種チームはオレンジカフェきょうりつ(認知症カフェ)を主催する傍ら、共同組織(友の会)といっしょに認知症への理解をひろめるため「あるある」を凝縮した寸劇で啓蒙活動を行っています。専門職の知識が生み出すリアリティ。その様子を取材しました。(松本宣行記者)

 今回の寸劇の舞台は、同法人の西荻窪診療所の外来待合室。認知症の高齢者、中野花子さんが、娘とともにオレンジカフェきょうりつを訪れる場面からはじまります。
 笑顔で迎えるオレンジカフェきょうりつスタッフ兼ケアマネジャー役の大出珠江さん(法人介護福祉事業部長兼ケアマネジャー)。しかし、花子さんは意味が理解できず戸惑うばかりです。娘役の窪田麻美さん(中野共立病院ケアマネジャー)は「お母さんの担当のケアマネさんでしょ!」と語気を強め「連れてくるのが大変」と溜まった不満をケアマネジャーにぶつけます。
 「私は認知症じゃない」と拒絶する花子さんに「今日も財布がないって騒いだ」とたたみかける娘。100円の参加費の支払いで、1万円札を出そうとする花子さんに対し、娘が「財布は小銭でパンパンなのに…」となげきます。さらに、朝食を食べたことを忘れてしまった花子さんに「いっしょに食べたでしょ!」と必死に説得する娘のやり取りなどを通じ、認知症ケアの難しさと重要性をリアルに描いていました。
 寸劇のなかでは、ケアマネジャーが、娘に認知症看護認定看護師への相談をうながすなど、支援の道筋も提示する場面も。

多職種でみがくリアルなシナリオ

 この寸劇が誕生したのは2014年。大出さんが杉並区地域包括支援センターケア24西荻に勤務していたときに主催した、認知症サポーター養成講座での、認知症の対応についてのロールプレイがきっかけでした。西荻健康友の会役員の菅井房子さんが見せた真に迫る演技が周囲を圧倒。本格的な活動へと発展したのです。
 シナリオを執筆するのは大出さんです。自身の担当ケースをベースに、認知症看護認定看護師、リハビリ職、事務、組織部など、多様な視点を取り入れて内容をみがきあげていきます。重くなりがちなテーマを前むきに捉えてもらうための工夫も欠かしません。大出さんのギター伴奏で声楽経験者の窪田さんの歌や、コグニサイズを交え、観客が一体となって楽しめる工夫が凝らされています。これらの芸事に代役を確保していることも、活動継続の秘けつです。
 花子さん役の主演、菅井さんは94歳。書道教室を主宰し、現在3カ所の通所介護施設で書道のボランティアを通じて、認知症患者の特徴を学んだといいます。
 寸劇は警察官が対象の認知症サポーター養成講座のロールプレイでも上演。認知症患者を保護する警察官たちから、再現性に驚嘆の声があがったと大出さんはふり返ります。これまでに十数回の公演を重ねるなかで、菅井さんのあまりにもリアルな演技に「本物の認知症の患者を舞台にあげるなんてひどい」というクレームが来たこともありました。また、「鬼娘」を演じる窪田さんも、専門職として相談現場で見てきた家族のいら立ちを再現。「悪役ゆえに観客からの視線が痛い」と苦笑しますが、それだけ家族の切実な心理が伝わっている証しでもあります。

社会資源へのアクセス道筋をしめす

 寸劇は認知症の症状や特徴を知ってもらうだけではありません。
 「今回はオレンジカフェや専門職への相談を描いたが、地域包括支援センター、介護保険申請、デイケアなどのシナリオもある。社会資源へのアクセスの道筋を知らせることも目的」と大出さん。
 菅井さん自身も家族介護の経験者です。「私もきつい言葉をかけていたかもしれない」と当時をふり返りつつ、新しいシナリオへの挑戦を活力にしています。
 「寸劇を通して、演者も観客もたのしく地域に認知症の知識と、ケアへの道筋をひろめていければ」と大出さんは前を見据えます。
 多職種の専門性と住民の熱意が結びつき生まれた寸劇は、認知症当事者と孤立しがちな家族を、地域全体でささえるための大切な学びの場となっています。

(民医連新聞 第1851号 2026年5月4日号)