新連載 これで学ぶ 暮らしのなかの社会保障 ①社会保障は、私たちが抱える生活問題を緩和・解決してくれる
いま私たちが暮らしている日本は、いわゆる資本主義社会と言われる経済システムのなかにあり、当然私たちのほとんどは「自らの労働力を切り売り」しない限りは生きていけません。それは、ほとんどの国民が、商品を生産するための工場、機械、原料などの「生産手段」を持っていないことから、生活を維持するためには、生産手段を所有する資本家に雇われ働かざるを得ないからです。
しかし、私たちはいつ病気や怪我をするか、会社から解雇されるかも分かりません。もちろん、恋愛し家族を持つかもしれません。また、人はいずれ年老いていきます。ただ年老いたからといって、みんなが要介護状態になるわけではありません。特定の人が要支援になったり、要介護状態になったり、あるいは生まれながらに障害を持っていたり、あるいは人生の途中で障害者になるとか、私たちは人生を歩むなかでさまざまな「生活問題」を抱えます。
私たちの多くは、労働力だけを切り売りして生きているのに、疾病・障害・高齢などで働けなくなり収入が減り、また、家族の疾病・障害・高齢を要因としてそのケアの費用が嵩(かさ)んだり、家族が増えて支出が増したりすることがしばしばあります。
しかし、支出が増えるからといって、雇用者側が「生活問題を抱える一労働者を不(ふ)憫(びん)だ」と考えて、その人の賃金を上げることはありません。つまりは、「労働力」は働けるとするその能力に応じて賃金として支払われることから、働けないことや予測不可能な支出増に臨機応変に対応してくれることはありません。
私たちが暮らしている社会では、労働者が常に失業、疾病、介護などの生活問題に直面せざるを得ません。残念ながら、私たちの得る賃金収入だけでは、不測の事態の費用を賄(まかな)うことはできません。だからこそ、社会保障が生活問題に起因するさまざまな困難を緩和・解決する制度として機能しているのです。
たとえば、失業したら雇用保険、病気になったら医療保険、障害であれば支援費制度、子どもが生まれたら保育などの社会福祉制度、高齢期の介護であれば介護保険が対応するなど、様ざまなメニューが用意されています。
私たちが暮らしている社会においては、社会保障は生活には欠かせない必須の制度です。医療保険がなかったら当然10割負担ですから、病院に掛かるたびに大変な出費となります。社会福祉制度として保育所が位置づけられていなければ、保育費用を捻出できない人が続出し、保護者は働きに出ることもできないし、子どもを社会的に育てる手立てもなくなります。この事実からも、生活問題に対して社会保障制度があることが、現代社会、とくに資本主義社会においては極めて重要なことなのだと言えます。
社会保障研究者・水彩画家
芝田英昭
(民医連新聞 第1851号 2026年5月4日号)
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