47期 運動方針を学ぼう 職員育成は民医連の土台 高い倫理観と変革の視点を
職員育成部長・川上和美さんに聞く
全日本民医連第47回定期総会(今年2月)は、気候危機の深刻化、経済格差の拡大、戦争や軍拡の進行など、世界と日本が「危機的な新しいフェーズ」に入ったことを確認するとともに、困難な情勢に立ち向かう運動方針の要のひとつに、「高い倫理観と変革の視点を養う職員育成の前進」を掲げました。職員育成部長の川上和美さん(副会長、看護師)に聞きました。(多田重正記者)
―総会でいちばん多かった発言は、職員育成に触れたものでした。
職員育成は、民医連の事業と運動の土台です。総会でも、医療・介護実践、人材確保、経営、まちづくり、社会保障・平和のとりくみなど、あらゆる分野で、職員育成の課題と実践が語られました。
国際的な人権規範基礎に学び続けることが必要
―「高い倫理観と変革の視点」を掲げたのはなぜですか。
44期は運動方針で「平和と個人の尊厳が大切にされる2020年代へ」「人権と『共同のいとなみ』を価値とする組織文化」「高い倫理観と変革の視点を育む職員育成」を掲げ、育成指針2021年版を策定しました。危機的なフェーズに入った今こそ、指針の実践をさらに前へすすめるときです。
さらに「高い倫理観」を掲げた背景のなかに、旧優生保護法下の強制不妊手術の問題点に、民医連も気づけなかったという痛恨の経験もあります。医療・介護などのケアのいとなみは、誤った使い方をすれば人を傷つける暴力になり得ます。コロナ禍ではジェンダー差別といった構造的な不平等や「いのちの選別」などの問題が可視化され、医療や介護の現場でも社会の偏りがそのまま患者・利用者、私たちの苦しみとなって現れました。
家に帰れない、必要な医療につながれない、孤立し声をあげられない…そうした患者・利用者、地域の人びとの困難の背景には、社会保障制度の問題や地域のつながりの弱体化があります。
さらに今、戦争する国づくりがすすみ、平和がいっそう脅かされています。戦争が始まれば、いのちもくらしも守れず、ケアそのものが成り立たなくなります。だからこそ、私たちは国際的な人権規範を学び、日々の実践から制度や社会のあり方をケアの倫理で問いなおし、現場から声をあげて変えていく力、変革の視点も必要です。
新たな視点を育んだケアの倫理café
―前期(46期)にとりくんだ、ケアの倫理caféも、民医連のなかに変化を起こしつつありますね。
ケアの倫理caféでは、対話を重視し、語りあうなかで「悩んでいるのは自分だけじゃない」「自分も声を出していいんだ」と気づき、「職場があたたかくなった」などの声も多く寄せられています。
ケアを通じて患者・利用者が元気になる様子や笑顔、言葉から「自分たちもケアされていると感じた」という気づきもあります。職員同士もケアしあい、ささえあう関係にあり、気づきあい、学びあう仲間がいるから成長できるという確信がひろがっています。
私自身、熊本地震(2016年4月)の際、全国の仲間にささえられて今があります。被災しながらも、全国支援のおかげで医療・介護を止めることなく、患者や地域のいのち・くらしを守り続けるために力を尽くすことができた。地域から「民医連があってよかった」と声が寄せられ、多くの職員が「民医連で本当によかった」と思えた経験は、私たちの大きな力になっています。ふり返れば、これも全国の仲間のケアの力だったのだと思います。
同年代の職員によるピアサポートもひろがっています。新入職員たちの「わからない」や「困った」に寄り添い、いっしょに答えを探る、そんな関係性と「心理的安全性」のとりくみも大切です。
動画も活用して運動方針の学習を
―47期運動方針の学習月間(3~6月)も行われています。
職責者はもちろん、全職員が方針を学び、感想や意見を交流してほしいと思います。
全日本民医連のホームページに約12~16分の動画を4本アップしました(関連記事は左に)。運動方針の核心を各地のとりくみを交えて、わかりやすく学べるものになっています。職場の会議やお昼休みなどに、動画を活用し、感想や意見を出し合い、対話を通して学びを深めてもらえればと思います。学び続ける組織こそが前進し、地域のいのちとくらしを守る力を発揮するものと確信しています。
第47回定期総会 運動方針学習動画
『未来へのカルテ2026』
職場・事業所で視聴し感想や気づきを共有しよう
全日本民医連は47期運動方針の学習のため、動画『未来へのカルテ2026』を作成。ホームページ(職員専用ページ)からダウンロードできます(通達第ア―49号、4月10日)。Partごとに、関心のあるキーワードでcafé(対話)の時間を持とうと呼びかけています。
Part1 情勢の特徴
47期の運動方針は第1章で、世界と日本が「新しい危機的なフェーズ」に入ったと指摘しています。
アメリカは今年1月、ベネズエラを空爆。2月からはアメリカとイスラエルがイランに軍事攻撃。日本はアメリカの東アジア最大の軍事拠点に位置づけられ、日本政府も軍拡、改憲をすすめています。
総会では平和が脅かされている危機感を共有しスローガンの一部を「改憲を許さず」に変更。全国で共同組織と憲法9条の碑を建立し、非戦の意志をしめしています。
2024年には、日本被団協がノーベル平和賞を受賞。民医連は、日本政府に核兵器禁止条約への署名・批准を求めています。核戦争の危機が高まるなか、2026年4月のNPT(核兵器不拡散条約)再検討会議を節目に、国際的な共同行動の発展が求められます。
大軍拡とともにOTC類似薬の一部保険外負担化、高額療養費の負担増などによる医療費の削減がねらわれ、国民皆保険制度の維持も危ぶまれます。
医療機関、介護事業所の倒産・廃業も史上最大規模に。全日本民医連も診療報酬・介護報酬の引き上げをもとめて運動し、診療報酬は2026年度、本体3・09%のプラス改定に。しかしまだ不十分で、いのちとケアを優先する社会に転換する運動が求められます。
このほかPart1では気候変動に対する愛知・はみんぐ歯科のスタンディングや学習会、原発再稼働に反対する新潟民医連のとりくみ、発がん性などの健康被害が指摘されるPFAS(有機フッ素化合物)の環境汚染に立ちむかう大阪の活動などを紹介しています。
Part2 2つの柱を深化させよう
Part2からは46期のとりくみの概要と47期の方針(第3章)について解説しています。
民医連は「結婚の自由をすべての人に」訴訟、被爆者運動、旧優生保護法下における強制不妊手術国賠訴訟など、当事者とともに基本的人権や個人の尊厳をまもるたたかいに参加。憲法13条(個人の尊厳)、14条(法の下の平等)、24条(個人の尊厳と両性の平等)に対する理解やフェミニズムの視点、ケアの倫理を深めました。動画では「無差別・平等の地域包括ケア」の実現をめざし、「2つの柱」(※)を深化させようと呼びかけます。
「事業活動とコミュニティ活動の行動をすすめ、まちづくりの発展をめざそう」では、栃木の「みんなの食堂」、和歌山の「フードバンクとなんでも相談会」を紹介。
「医科・歯科・介護の連携でフレイルを予防し、食支援の体系化をすすめよう」では、地域の病院と連携する香川・生協へいわ歯科の活動を紹介しています。
「医療・介護労働者をケアする政治への転換と地域医療を守り、患者の受療権を保障するための連帯のたたかい」では、長野の介護ウエーブを紹介しています。
※新しい「2つの柱」…(1)「貧困と格差、超高齢社会に立ち向かう無差別・平等の医療・介護の実践」、(2)「安全、倫理、共同のいとなみを軸とした総合的な医療・介護の質の向上」。第42回総会で決定。
Part3 共同をひろげ、平和とくらしを守り、人権としての社会保障へ前進を
生活保護基準引き下げを違法とし、生活保護利用者が全国で立ち上がった「いのちのとりで裁判」。昨年6月、最高裁は引き下げを違法とし、処分取り消しを認める画期的な判決を出しました。
群馬県桐生市では2023年、生活保護費を全額支給しないなどの人権侵害が発覚。群馬民医連は被害の実態を調べるため、情報提供を呼びかけるチラシを配りました。調査結果をもとに民医連は他団体と「桐生市生活保護違法支給国家賠償訴訟」をたたかい、昨年11月に和解しました。
動画では奈良の「生活保護行政をよくする会」のとりくみも紹介。吉田病院では、生活保護や無料低額診療事業を利用している人たちと班会を開き、班会がきっかけで「いのちのとりで裁判」原告になった人もいます。
千葉・南浜ファミリークリニックでは、無保険や難民支援が必要な人など、困っている患者について感じた気づきを出し合う時間をとっています。47期運動方針は、日常業務のなかで気づいたことを共有する人権・倫理の「タイムアウト」を呼びかけています。
このほかPart3は、看護師の確保や養成を国に求めるナースアクション、ケアの倫理café、健康で働き続けられる職場づくり、全国青年ジャンボリー(昨年11月、兵庫)などを紹介しています。
Part4 経営問題、後継者確保、多様性の尊重、共同組織の前進を
物価高、人材不足などで、事業所経営はかつてない危機に。「身近な病院がなくなると、受療権を侵害する」と岡山・倉敷医療生協専務理事の亀山真一さん(事務)。民医連は地域医療崩壊をくい止める「緊急行動」を提起し、82万筆を国会に提出するなど運動をひろげました。
医師の後継者確保と育成も重要。46期は「ケアの倫理と人権の視点の医師養成時代における医学対活動方針案」を提起し、「民医連との出会いの場をつくる」「医学生運動との協力共同」「奨学生をはじめ民医連運動を担う後継者の確保と育成」の議論を呼びかけました。
世界では多様性を認め、誰もが公平な扱いをうける組織や社会をめざすDEIがすすんでいます。
民医連でもSOGIEに関するとりくみがひろがっています。福岡・千代診療所では性的マイノリティなど、フルネームで呼んでほしくない患者への配慮から、番号と名字での呼び出しに切り替えています。香川民医連はジェンダーやSOGIEを考える「ミライ委員会」を設立しています。
2024年7月には、旧優生保護法の被害者を救済する最高裁判決。運動方針は、ケアの倫理と国際基準の人権について学びつづけることを強調しています。
最後に石川県健康友の会奥能登ブロックのとりくみを紹介。被災者の医療費一部負担と介護利用料の免除継続を求める運動や、健康教室を行い、被災者を孤立させず、ささえ合う実践を重ねています。
(民医連新聞 第1851号 2026年5月4日号)
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