47期運動方針を学ぼう 「人権とケア」が息づく地域社会の構築へ
全日本民医連第47期定期総会(今年2月)では、深刻な経営危機と人員不足、2040年を見据えた医療提供体制の再構築を目的とした新たな地域医療構想について、民医連綱領に立ち返る実践を掲げました。医療・介護を取り巻く環境が激変するなかで、医療部部長の山本明広さん(副会長、医師)に今期の重点課題と展望を聞きました。(髙瀬佐之記者)
医療部長 山本明広さんに聞く
経営危機のなかで民医連らしさを守る仕組みを
経営が厳しくなると、どうしても目の前の数字を追うことになりがちです。そのなかでも私たちは、民医連らしさを失わずにとりくみをすすめる方針を打ち出し、運動を推進していかなければいけません。
しかし、民医連の理念と現場には乖離があるのも事実です。「理念は美しいが、現場では実践が難しい」という声も多いです。だからこそ理念は掲げるだけでなく、日常業務のなかに仕組み化する必要があります。
たとえば人権・倫理の「タイムアウト」。昨年から提起されている「タイムアウト」ですが、実際に現場へ根づかせるのは容易ではありません。救急の現場や多忙な病棟では特に難しく、気になる患者訪問など地域に出むく実践を積み重ねてきた職場でも、日常のカンファレンスに組み込もうとすると「意外と難しい」というのが率直なところです。だからこそ、外来終了後にふり返りの時間を持つなど、まず立ち止まることを、できる形にしていくことが重要です。
医師の前では「困っていない」と言う患者の、ふとした生活の困りごとに気づけるのは、多くの場合、医療事務や看護スタッフです。その気づきをスタッフ間で共有し対話につなげる仕組みをつくること。職員一人ひとりの感性を組織の力にしていく。これが人権を守る実践の深化につながります。
民医連の「治し、ささえる医療」新たな地域医療構想に対する実践
患者の人権を守る医療と運動をすすめようとすれば、経営面で困難に直面することがあり、どこの事業所でも葛藤を抱えていると思います。
国は2027年以降、「新たな地域医療構想」として、入院だけでなく、外来・在宅・救急を含めた地域医療・介護の最適化を焦点にしています。
「最適化」と言いますが、昨今の健康保険法改正や後期高齢者の窓口負担割合増加などの動きを見ると、2040年にむけて国がすすめる「治し、ささえる医療」に、「高齢者には安あがりな医療を」という思想が背景にあるのではないかという懸念もあります。
世代間での分断も深刻です。若者のなかには、高齢者が医療費を使いすぎていると感じている人も多いです。しかし誰もが歳を取り、ささえられる側になります。医療現場ではいのちに世代差はありません。民医連はそのあたり前を守る存在であるべきです。
そして、「治し、ささえる医療」が、いのちの選別になってはなりません。民医連はこれまでも、治すだけではなく「ささえる医療」を大切にしてきました。今後も、私たちは、認知症、フレイル、誤嚥性肺炎といった「正解のない医療」に正面からむき合い、病気だけでなく、その人の居場所や生きがいをささえ抜くモデルをめざしていきます。
全日本民医連として、全国の知恵を結集し、超高齢社会にふさわしい「治し、ささえる医療」を社会に発信していきます。
「医療・介護活動の2つの柱」提起から10年
第42回定期総会(2016年)で、「医療・介護活動の新しい2つの柱」を提起してから10年がたちました。これは当時、医療部として整理した考え方ですが、現在においても「間違っていない柱」として再確認しています。
新しい「2つの柱」とは、(1)「貧困と格差、超高齢社会に立ちむかう無差別・平等の医療・介護の実践」、(2)「安全、倫理、共同のいとなみを軸とした総合的な医療・介護の質の向上」です。
この「2つの柱」を実践していくと、必然的に医科・介護・歯科・薬局がいっしょになります。「連携」が目的ではなく、患者をささえようと思うと、結果的に医療と介護は「つながるしかない」ということです。そして、人権・倫理の「タイムアウト」は「2つの柱」の入口でもあります。
たとえば、フレイル予防においては、リハビリ・栄養・口腔の三位一体のアプローチが不可欠です。岡山民医連では、病院に歯科がなくても、地域の開業医と連携して口腔ケアをしており、精神科や訪問診療でも歯科連携がすすんでいます。病院内に歯科がなくても地域の開業医とつながり、地域住民や入院患者をささえるネットワークがあります。
こうした連携は「目的」ではなく「結果」です。フレイルを抱えた患者をささえようとすれば、リハビリだけでは足りない。栄養管理が必要になり、口腔ケアが必要になり、自然と多職種がつながっていく。「連携しよう」と声をかけるより、目の前の患者を真んなかに置いて考えることが、「2つの柱」を実践する出発点です。
47期は、民医連全体での経営対応が喫緊の課題です。しかし経営が困難なタイミングだからこそ、今一度人権、ケアの倫理、社会的包摂を基礎に据えながら、民医連の役割を実践していくことが重要です。
誰も取り残さないDX推進情報共有と発信を
電子カルテ、オンライン診療、決済システム、ICT機器などの、医療DXへの対応も避けて通れない今期の重大課題です。
情報共有や、チーム医療を加速させるためにはデジタル化が必要です。しかし導入費用や維持費は高く、未導入の病院が多いのも現実です。このままでは情報共有のネットワークから民医連の事業所も取り残される危険性があります。
デジタルにくわしくない人を排除しないという患者の視点を持ちながら、質向上と業務改善に前むきにとりくむ「民医連らしいDX」を推進します。
次世代へつなぐ「誇り」と多職種協働「対話」の場
かつて私は、受診が途切れがちだった患者に対し、生活状況や家族関係、経済面まで含めて支援し、治療継続につながったということを経験しました。単に「通院できない人」と見るのではなく、「なぜ通えないのか」「何があればささえられるのか」をみんなで考えたことが印象的です。
そして、このような成功事例を全国で共有することが必要です。現場にはすごい実践がたくさんありますが、埋もれてしまっています。その事業所や法人、地域だけにとどめずに、全国の財産にしていくことが大事です。
医療の場でありながら、社会的孤立や生活困難にも目をむけ、地域ともつながりながら支援する。「気になる患者訪問」など地域に出るこの姿勢は、他にはない民医連の大きな強みであり、価値です。
そして、人を育てるには、安心して意見を言える機会や、場所が必要です。若い職員は、場があればしっかり考え、伸びていきます。若い職員の皆さんが、自分の仕事に誇りを持ち、意見を言葉にできる「場」が必要です。
参加者自身がテーマを提案し、自由に討論して、どのように行動すればよいか決めていくOST(オープンスペーステクノロジー)という討論の方法があります。このOSTのように、職種を超えて語り合い、学び合う文化こそが、次世代のリーダーを育てる土壌になります。
「ここにあってよかった」存在であり続けるために
民医連は単に「親切な医療」をするだけの組織ではありません。だからこそ、この実践を次世代につなげていかなければいけないのです。
組織が危機になった時こそ、理念の意味が問われます。「自分をふり返った時に、誇れる仕事だったか」。民医連は、その誇りを持てる実践があります。だからこそ若い職員や、現場でがんばる職員にスポットライトを当て続けていくことが大事です。
私個人としては、患者の生活背景を意識し、多職種との協同を大切にする一人の医師であり続けたいと考えています。
全国の民医連が、それぞれの地域で「ここにあってよかった」と思われる存在であり続けるために。各地の実践をつなぎ、励まし合い、ともに歩みをすすめていきましょう。
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(民医連新聞 第1853号 2026年6月1日号)
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