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民医連新聞

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相談室日誌 連載603 安心して治療できる権利 無定診でつないだ事例(東京)

 大森中診療所では、毎日午前中によろず相談を開催しています。社会保険労務士、介護支援専門員、元職員、看護師、SWなどが交代で相談ブースを担当しています。弁護士相談もできて予約制です。
 10年前、Aさん夫婦は突然よろず相談に現れました。「少しお話を聞いてもらえますか?」と言って椅子に座り、夫婦で顔を見合わせて言いにくそうに話してくれました。「6年前に他の病院で乳がんの手術をしました。昨日化学療法だったけど、医療費が払えなくて行かなかったんです。60代まで生きたし悔いはない。病状も厳しいことを言われたし自然な治療をしたいんです。もういいです、覚悟できていますから」と言って、突然泣き出してしまいました。もう少し話を聞くとAさんはパート、夫は集団就職で上京し、見習いの後、家具職人として定年まで仕事をしていました。注文を受けてていねいにひとつひとつすべて手でつくる職人だったようです。
 夫は定年の60歳まで仕事をして厚生年金なのに年金がかなり低額で驚きました。もちろんAさんは扶養だったので、もっと低額。Aさんはしきりに「もう何も望みません」と何度も何度も私に言っていました。そんなAさんに「経済的なことが解決できれば治療をしたいですか?」と聞くと、表情が一変し、黙り、夫婦で顔を見合わせていました。後日、Aさん夫婦に無料低額診療事業の手続きをしました。Aさんは医師と相談をして、もう一度、化学療法を受けることになりました。「もう一度挑戦してみます。あきらめたことだったけど、みんなから優しくしてもらって決めました」と話がありました。
 Aさん夫婦とは、その後も入院や外来に来た時に話をすることがあります。その度に「SWに会っていなかったらどうなっていたかな? 治療していなかったよね?」と言われ、胸が痛くなります。
 日本の世界に誇れる国民皆保険制度のはずが安心して治療できない、治療をあきらめてしまうってどうなのでしょう。低額で仕事を辞めてから生活ができない年金制度ってどうなのでしょう。Aさんとの出会いから10年、今では「お互い年をとりましたね」と言い合えるようになりました。

(民医連新聞 第1853号 2026年6月1日号)