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民医連新聞

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本当に必要? 憲法の緊急事態条項

明日の自由を守る若手弁護士の会 共同代表 黒澤いつきさん

 高市早苗政権は、改憲論議を加速させ、緊急事態条項を突破口にしようとしています。緊急事態条項って何? 黒澤いつきさんの解説です。

 与党はじめ、複数の政党が憲法改正へ前のめりだということは、ご存じの人も多いと思います。一番話題になるのは9条の改正ですが、9条よりも先にねらわれているのが「緊急事態条項の創設」です。今回は、緊急事態条項がどのようなリスクを持つのか、お話しようと思います。

■国会議員の任期延長

 憲法に緊急事態条項を創設する案は、すでに複数政党の指示で衆議院法制局がイメージ案をつくり、衆院憲法審査会に提出されています。
 大きな柱の1つめは、大災害などで国政選挙が実施困難になった際に選挙を延期し、国会議員の任期を延長するシステムです。イメージ案では、こういった「選挙困難事態」の例として、(1)地震等による大規模な自然災害、(2)感染症の大規模なまん延、(3)内乱等による社会秩序の混乱、(4)外部からの武力攻撃などを列挙しています。
 しかしこれらの例は、恣意的に判断できそうだと思いませんか。緊急事態を選挙困難事態とするシステムは、よく考えてみれば“非常時”を言い訳にして国民の参政権を奪うものです。国民主権が根本から崩れ、独裁につながりかねません。
 私たちはむしろ「非常時の政治をこの政権に任せていいのか」ときちんと民意を問うべきです。「・非常時だから」と不安にあおられることなく、「いかなる非常時でも確実に選挙を実施し、民主主義の政治を維持できる選挙制度を構築すべきでは?」という視点が大事です。

■緊急政令

 また「国会機能の維持が困難になった場合」に、内閣が法律と同等の効果を持つ「緊急政令」などを制定できる規定も、大きな柱の1つです。内閣が国会の立法権と同等の権限を持つことができ、内閣の一存で三権分立を止める「独裁のスイッチ」です。
 かつてドイツで政権を握ったナチスが、同様のシステムを恣意的に使い、独裁体制を築いたことを忘れてはなりません。濫用の危険があまりにも大きすぎます。
 「大規模災害が発生した際には、こういうシステムがあった方が」と主張されていますが、実は災害大国・日本にはすでに災害対策基本法や災害救助法はじめ、緻密な災害法制が整っています。また災害時は、内閣の独裁よりも、権限を災害の現場に下ろす方がよほど大事です。

■要らないし、危険!

 日本国憲法に緊急事態条項や戒厳令など「非常時には独裁で!」というシステムがないのは、制定時に政府が「要らない」と判断したから、という歴史的な経緯があります(表)。大日本帝国憲法下では、この緊急事態条項に似た「緊急勅令」が乱発され、軍の暴走(朝鮮人・中国人の虐殺)が起きたり、国の政治に意見する人を弾圧する治安維持法を凶悪なものへ変えるために使うなどしました。現在の憲法を制定した際の政府は、緊急勅令の危険性をわかっていたわけです。
 というわけで、どこからどう見ても、このような憲法改正は要らないし危険です。そんな改憲に前のめりになる政治も要りません。


(表)現憲法の制定論議で緊急事態条項の危険性を指摘した金森徳次郎国務大臣
「民主政治を徹底させて国民の権利を十分擁護致しますためには、左様な場合の政府一存において行いまする処置は、極力之を防止しなければならぬのであります。言葉を非常といふことにかりて、その大いなる途を残して置きますなら、どんなに精緻なる憲法を定めましても、口実を其処に入れて又破壊せられるおそれ絶無とは断言し難い」(第90回帝国議会)

(民医連新聞 第1855号 2026年7月6日号)