口から食べる幸せ 人生ささえる院内歯科衛生士の活動
岡山・コープリハビリテーション病院
岡山・コープリハビリテーション病院は2017年の移転時から院内に歯科部門を設け、歯科衛生士たちが日々、奮闘しています。6月16日、取材しました。(髙瀬佐之記者)
「がんばりましょう。きれいになりますからね」。病棟のベッドサイドから、やわらかな声が聞こえます。入院患者に、急かすことなく寄り添いながら、口腔ケアをする岸美江さん(歯科衛生士)の姿が。病棟に入院している患者に、本人や家族の同意を得て口腔ケアを行います。巡回で気になることがあれば、歯科医師や病棟の看護師などにしっかりと伝えます。
同院の1階には歯科診察室があります。病棟スタッフが患者を車いすで連れてくると、「今日は入れ歯を調整しました」と声をかけ合う様子も。歯科と病棟の情報共有は日常的に行われています。
医科の記録を共有
歯科衛生士は口のなかを見るだけではなく、事前に医科側の記録から生活歴や家族構成、経済状況を読み、口腔内チェックを行います。片山浩子さん(歯科衛生士)は「患者の背景を知り、社会的弱者や制度構造にむき合う実践は民医連ならでは」と話します。
「新入院・新入所者検診」も、衛生士の大切な仕事です。新しく入院した患者の病室を、歯科医師と歯科衛生士で回り、虫歯や義歯の状態、口腔機能をアセスメント用紙に記録していきます。ちょうどお昼すぎ、ついさっき入れ歯を治した患者が昼食をとっていました。通りすがりに「○○さん、今日はご飯が食べやすいそうです」とナースステーションから声が。業務用エレベーターのなかで、歯科スタッフたちは顔を見合わせ、「良かった」と笑顔をみせました。「院内に歯科があるからこそできる多職種のアプローチ。これが当院の大きな強み」と牟田口桂子さん(歯科衛生士)は語ります。
「天と地ほど違う」退院の選択肢
院長の鍜本真一郎さん(医師)は「当院の医科歯科介護連携は、音楽に例えるならば、ジョイント(独奏)ではなく、コラボレーション(合演)。一つの曲をそれぞれの楽器(専門職)でどう演奏するか。リハビリテーションにおいて連携は必須」と訴えます。口腔ケアの効果は、食事だけにとどまりません。「奥歯でしっかり噛めると、踏み込む力が変わって転倒リスクが下がる」と病棟師長の山田小百合さん(看護師)は話します。口腔内が整い、嚥下機能があがれば、自宅に退院できる可能性も高まります。事務部次長の佐藤雅昭さん(理学療法士)は「口でご飯を食べられるまで改善すると退院先の選択肢が、天と地ほど変わる」と力を込めます。
しかし、院内歯科に対する国の診療報酬は充分ではなく、院内歯科には経営的なメリットが出にくい構造になっています。その結果、歯科併設の病院は全国でも2割弱にとどまっている現状です。滝本博さん(歯科医師)は「直近の改定は院内歯科ではなく、院外の歯科(主に開業医)の連携評価にシフトしている」と指摘します。
柳根友美さん(歯科衛生士)は入職して30年を超えるベテラン衛生士。「歯科衛生士は、その人が生まれてから亡くなるその時まで、ずっと自分の口で食べられるようにささえる仕事。歯科衛生士になって良かった」と前をむきます。入職二年目の松浦由奈さん(歯科衛生士)は「患者とともに、その人の現状に合わせた治療を考えられる衛生士になりたい」と意気込みを語ります。
「目下の課題は人材確保と育成。民医連歯科衛生士の魅力を発信し続けていきたい」と牟田口さん。滝本さんは「医科や介護と歯科をつなげるキーワーカーが歯科衛生士。病棟や地域へ、衛生士が出ていくことは、日本の歯科医療の発展へつながる」と期待を話しました。
2040年にむけ、85歳以上の高齢者がさらに増えるなか、「口から食べる幸せ」を最期まで守り抜く民医連歯科衛生士の存在感はますます高まっています。
(民医連新聞 第1855号 2026年7月6日号)
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