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民医連新聞

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誰もがお金の心配をせず医療を受けられる社会へ

2025年経済的事由による手遅れ死亡事例調査

 6月24日、全日本民医連は厚生労働記者会で、「2025年経済的事由による手遅れ死亡事例調査結果」記者会見を行いました。(奥山千佳記者)

 手遅れ死亡事例調査は、その年の1~12月の期間、経済的事由から治療が手遅れになって死亡した事例を、全国の事業所が報告し、集計したもの。全日本民医連が2005年から毎年行っています。
 記者会見では冒頭で、全日本民医連事務局長の入江敬一さんがあいさつ。「お金がないため、我慢を重ね、孤独のなかで亡くなるということは、憲法25条の観点からもあってはならない。今回成立した健康保険法等改悪(患者の医療費負担増)は、今現実に起こっている手遅れ死亡事例のさらなる増加につながる恐れがある」と指摘しました。
 2025年は、18の都道府県から42事例の報告がありました。男性が32件(76%)、女性が10件(24%)で、年代では60~70代が31件(74%)、世帯構成では、独居が24件(57%)と最多。雇用形態は、正規雇用が3人のみで、無職が16人と最多でした。
 症状が出てから1~2年受診していなかった事例は5件。多くは悪化してから救急搬送されており、治療開始から死亡まで、1カ月以内だった事例が20件と最多でした。死亡原因の67%はがん。相当症状が悪化してからようやく受診、もしくはずっと我慢して受診せず、救急搬送されてから9日後に亡くなった事例もありました。死因が不明のうち、1件は、自宅での孤独死。無料低額診療事業についても、周知がすすんでおらず、制度を知って受診したのは10件だけでした。

受診するのが怖い

 ある70代男性は、国保の保険料を滞納して資格証明書に。1月に息切れなどの症状が出て、3月に無料低額診療事業実施病院を受診。右肺がんで入院。実はすでに数年前に肺の影を指摘されていましたが、「怖いから」と精密検査を拒否し、受診していませんでした。3月に入院した時には肺がんは進行しており、4月に死亡退院となりました。「低い年金だけでは暮らせず、医療費の支払いも困難。肺の影を指摘された時の『怖いから』という言葉にどういう思いがこめられていたのか。単に病気についてだけではなく、病気で働けなくなる、収入がなくなるという不安もこめられていたのではないか」と全日本民医連事務局次長の山本淑子さんは話します。

正規の保険証があっても

 過去の事例と比較し、今回は無保険より、正規の保険証を持っていた事例が多かったことが特徴。正規の保険証を持っていても、窓口一部負担や薬代の負担を心配しての治療中断や受診控えが少なくないことが考えられます。
 ある60代女性は、国保。50歳の時に腎臓がんで片方の腎臓を摘出。そのまま骨転移が確認され抗がん剤治療を受けましたが、医療費の負担が大きく中断。夫のDVもあり、避難的に子ども宅へ。1カ月前から状態悪化。しかし、子どもたちも経済的支援は難しく、他県の親族から、無料低額診療事業を行っている病院へ相談。なだれ込むように外来へ、当日入院。入院後、一旦無料低額診療事業の適応とし、同時に生活保護利用の相談もして受給決定。がんは残存している腎臓に多発転移しており、ホスピス系の住宅型有料老人ホームに入居後、看取りとなりました。この事例では、ご本人が受診を拒んだ一番の原因は医療費の問題だったということが報告されています。

様ざまな事例から

 その他にも、20年以上無保険で受診できずにいた肺がん患者の事例や、無保険で友人宅を転々とし、警備の仕事で生活をつないでいた事例など、無保険の事例も見られました。山本さんは、「無保険に至る経緯は様ざまだが、個人の努力が足りない、病気になった人が悪い、などといった自己責任で切り捨てることはできない。政治や社会のありようがいのちを奪うようなことはあってはならない」と訴えます。
 さらに、今回の事例調査の結果をふまえ、「誰もが安全して医療にアクセスできるよう、憲法に掲げられている国民の権利に基づき、薬剤費の自己負担の軽減、国民健康保険制度の改善、そして医療だけではなく物価高騰対策など、全世代の生活困難への対策など様ざまな項目を掲げて厚労省に要請していきたい」と山本さんは力をこめます。

薬剤師の立場から

 群馬保険企画の薬剤師、野口陽一さんは、今回の報告を通して、「保険証を持っているだけでは、必ずしもいのちが守れるわけではない」と強調。保険に加入していても、経済的負担や生活状況から受診を先送りにし、手遅れになってしまう事例をくり返し経験していることを踏まえ、健康保険法の改定による患者行動の変化を懸念。医療費に追加負担が生じれば、我慢やあきらめという選択につながる可能性を指摘しました。「必要な医療を受けられず、いのちを落とす人が生まれる社会であってはならない」と強調しました。

いのちと健康守る
山梨民医連でも会見

 6月1日、山梨民医連は勤医協駅前ビルで「2025年経済的事由による手遅れ死亡事例調査」の記者会見を行い、7件の事例があったことを報告。20年間行ってきた同調査で7件という数字は、最多(タイ)となっています。
 山梨民医連事務局長の河野智彦さんは、今回の事例の特徴について、受診時、7人中6人は保険証を持っており、そのうち一人は国保の「特別療養の資格確認証(10割負担)であったこと、受診時・入院時の医療費(窓口負担)を恐れて受診を控えた「手遅れ」が共通していたこと、7人中6人が救急搬送、うち5人は搬送から1カ月以内に死亡、家庭内・社会的に孤立状態で、相談相手がなく、必要な支援が得られなかった事例があったことなどを報告しました。

医療従事者の手遅れ死亡事例

 派遣労働者として医療に従事していたAさんは、身体に異変を感じ、受診。医師が入院を指示しましたが、本人から「お金を払えるか心配で入院できない」と申し出が。SWから高額療養費制度などについて説明し、入院の同意に至りましたが、その後急変し、救急搬送から10日程度で死亡。本人が最後に会社の健康診断を受けたのが3~4年前でした。

いのちと健康を守る提言

 事例検討をふまえ、河野さんは、いのちと健康を守るための対策について、(1)お金の心配なく必要な医療を受けられる制度にすること、(2)保険料の引き下げと負担の軽減、(3)「いのち最優先」の対応、医療アクセスの保障、(4)困窮者への親身な相談対応と、必要な支援につなげる仕組みづくりの4つを提言しました。

氷山の一角

 山梨民医連会長の平田理さんは、「今回の報告事例はあくまでも氷山の一角。他の医療機関でも一定数はいるのではないか。お金の心配で受診をためらい、いのちを落とすことがなくなってほしい。こういった悲しい事例があるということをきちんと世に伝えていきたい」と強く語りました。
(奥山千佳記者)

(民医連新聞 第1856号 2026年7月20日号)