診察室から 残された2枚の写真(その1)
Aさんは75歳。長野県の地方都市で長らく運送ドライバーとして働いてきました。昨年6月に突然呼吸困難に襲われ、近くの病院を受診。簡易検査の結果、PSA値が著明に高いことが判明し、精査、加療のため、近隣のS医療センターに救急搬送されました。泌尿器科での精査の結果、前立腺がんの多発リンパ節転移、骨転移、肺転移と判明。すぐにホルモン治療が開始されました。一時はPSA値が下がったものの、その後徐々に増加し始め、緩和治療に移行することに。10月に頸椎と腰椎に緩和的な放射線照射が行われ、痛みに対して麻薬も開始。
Aさんは独身で、自宅で3頭の大型犬とくらしており、「最期は痛みもなく、家で犬たちとくらしていたい」と希望。愛犬家グループつながりの友人が、たまたま所沢診療所に1週間に1回出張販売に来ているお花屋さんで、その人から「所沢で1軒屋を借りて、犬ともどもお世話をしてあげたい」との相談がありました。早速、この願いを何とかかなえたいとの思いから、みんなが動き始めました。
予後2カ月くらいとの情報もあり、まず2週間程度で簡単な精査を実施。薬の調整と在宅サービスの調整を行い、できるだけ早く在宅療養に移行することに。そして今年2月に長野から福祉タクシーのストレッチャーに乗って転院しました。入院時の採血検査で、ヘモグロビン4・3g/dlと著明な貧血とわかり、3回の輸血を行い、退院前にはなんとか7・7g/dlまで上げることができました。犬仲間の友人、訪問診療を開始する所沢診療所の看護師、ケアセンター「とこしん」のケアマネジャー、訪問看護師・介護士、福祉用具の業者、調剤薬局の薬剤師などが集まり対応を協議しました。予定通り2週間後に所沢市内の新居に退院しました。
退院日、所沢診療所から「無事に着きました」という短い文章とともに、介護スタッフと愛犬に囲まれベッドの上で寛(くつろ)ぐAさんの1枚の写真が届きました。
(福庭勲、埼玉西協同病院)
(民医連新聞 第1859号 2026年9月7日号)
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