診察室から 残された2枚の写真(その2)
早速Aさんの所沢の新居での在宅療養が始まりましたが、それと同時に病状は急速に悪化していきました。着いたその夜から鼻出血が始まり、止まらなくなりました。心身ともに消耗したAさんは食事摂取も思うようにできず、本人からも「明日昼ごろに最後の1頭が長野から到着するので、その子に会ったら入院したい」との希望がありました。しかし残念ながらその前に再入院となってしまいました。3頭のなかでも、もっともかわいがっていた愛犬「マリリン」は直前に犬の品評会に参加することが決まり、長野を出発するのが遅くなっていました。品評会では見事に優勝を飾ることができました。そして、奇しくもマリリンのお腹には新しいいのちが宿っていることもわかりました。Aさんは、このことをことのほか喜んでいました。
入院時の検査では、鼻出血のためヘモグロビンはふたたび4・5g/dlに下がっていました。明らかな肺炎像は認めないものの低酸素状態が続き、酸素吸入も開始されました。鼻出血はボスミンガーゼのタンポンでなんとか止まりましたが、意識が朦朧とする状態が続き、食事摂取もおぼつかないような状態でした。「遅れて到着してきた愛犬マリリンに会わせてあげたい」との友人の申し出に、何とかしたいとみんなが考えました。当院では犬の病院内の出入りは禁止となっており、苦肉の策で「外来の風除室なら大丈夫じゃない?」となり、外来患者が少ない午後の時間帯にAさんをベッドに寝かせたまま風除室に下ろし、そこに友人が愛犬を連れてきて会わせる手配をしました。
当日は短い時間でしたがAさんは愛犬と会うことができました。愛犬に会うことができて安堵したのか、その後バイタルは急激に悪化の一途をたどり、その翌日にAさんは安らかに息を引き取られました。
Aさんの眠るベッドの枕元には、軽く微笑むAさんと愛犬が頬をすり寄せるように写った1枚の写真が貼られていました。
(福庭勲、埼玉西協同病院)
(民医連新聞 第1860号 2026年9月21日号)
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