相談室日誌 連載610 自立しても競馬で浪費 本人と家族の権利の狭間で(東京)
娘からの「父の成年後見をすすめたいのですが」という相談がはじまりでした。Aさんは妻が亡くなったこともわかっていません。競馬で毎月10数万円の浪費、このままだと数カ月で預金が底を尽きるため、娘が生活費の管理を申し出ましたが本人は激怒。年金は2カ月35万円、生活費の他に固定資産税で年間40万円の支払い、Aさんの親が残した億に近い財産はすでに使い果たしました。馬券はインターネットで購入し、競馬をやめる気はまったくありません。このままなら妻の遺産も将来施設に入るお金も生活費も使い果たしてしまいます。
成年後見制度の申立てができると、権利擁護センターと連携し訪問、面談を重ねました。Aさんは食事を自分で摂り、トイレの失敗もなく、毎日入浴し着替え、清潔感漂う様相です。私たちにも至ってジェントルマン。妻の遺産相続の話をすると「奥方が? 亡くなったの? 寂しい…」と。しかし競馬は「金額を決めてやるなんて面白くないでしょ」ときっぱり答えました。
娘は車で1時間程かけて仕事を早く切り上げ毎日訪問。毎日行かないと本人が「食べるものがないんだけど」と学生時代の友人、知人にまで電話をかけまくります。他の弟妹は愛想をつかしてしまいました。しばらくして娘の家族から「仕事を断って介護しているのでこのままではこっちの生活が破綻してしまう」と相談がありました。
かかりつけ医は成年後見申し立ての意見は書いたことがないので書けないと断り、初診の精神科では「現段階では保佐であればすぐに作成できる」と言われました。今も娘は毎月発覚するさまざまな契約のクーリングオフの手続きに追われています。
今年6月、民法の成年後見制度の改正案が可決。「後見・保佐・補助」の類型が「補助」に一本化し、本人の同意が原則になります。意思疎通に問題がなく、身の回りの行為は自立しているものの、元々の素因があるケースは、本人が専門医にかかること自体が難しく、家族が自分の時間や財産を費やし介護してきた末の相談が多いです。本人の権利がより守られる法改正は必要ですが、介護者の犠牲で成り立つ側面があることも事実。今後もその狭間で私たちは思い悩むことになりそうです。
(民医連新聞 第1860号 2026年9月21日号)
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