いつでも元気

2011年2月1日

元気スペシャル 大西洋の島に「9条の碑」 スペイン・カナリア諸島テルデ市を訪ねて 不戦の誓いは海を越えた 写真家・山本耕二

genki232_01_01 非核宣言をおこない、広場に日本の憲法九条を掲げている都市が、大西洋に浮かぶ島にあるのをご存じだろうか。スペイン・カナリア諸島のグラン・カナリア島にあるテルデ市だ。私はこのことを数年前、テレビ番組で知った。
 どのようなところなのだろうか。自分の目で確かめたくて、成田を飛び立った。

「授業で9条習った」

 フランスで飛行機を乗り継いで約四時間、アフリカ大陸の北西部、モロッコの西一二〇キロ沖合いに位置するカナリア諸島が見えてきた。コロンブスが新大陸 を発見したときの寄港地として古くから知られているが、一九八二年にスペインの自治州(カナリア自治州)となり、七つの島に二〇〇万人が暮らしている。
 グラン・カナリア島の空港に到着し、外に出るとシュロの木が立ち並び、太陽の光がさんさんと降り注いだ。カナリア諸島は常夏で、雨が降るのは一年に数えるほどだ。

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インタビューに答えてくれた高校生たち。「九条の碑」の前で(テルデ市)

 交通網が整備されており、町から町への移動はもっぱらバスである。さっそくバスに乗り、少し内陸に入ったテルデ市に向かった。テルデ市は一五世紀末にカ スティリア王国(スペイン)が島の統治を確立していったときの中心地だっただけに、古い建物や通りにもかつてを思わせる雰囲気が残っている。
 バスから降りると、地図を片手に「九条の碑」が掲げられた広場を探し当てた。その名も「ヒロシマ・ナガサキ広場」。こじんまりとしているが、管理の行き届いた清潔な感じを受けた。
 お昼の休憩時間なのか、隣接する高校の女生徒が二人、「九条の碑」前のベンチに座って話していた。これはよい機会だ。「九条の碑」について質問してみた。
 二人はニコニコ笑顔を絶やさずに、学校で日本国憲法第九条の「戦争放棄」について学んだこと、広島・長崎の原爆投下もテレビのドキュメンタリー番組を見 て知っていることなどを話してくれた。 碑の前で写真を撮りたいと頼むと、「どうぞ」と快く被写体になってくれた。

 

「戦争放棄」に市長が感動

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「憲法通り」で談笑する人たち(テルデ市)

 日本から遠く離れたテルデ市に憲法九条が掲げられているのには訳がある。
 一九八二年にスペインはNATO(北大西洋条約機構)に加盟したが、スペイン全土で加盟反対の運動が盛り上がった。テルデ市は当時の市長、議会が反対を表明して非核都市を宣言した。
 その後、市長となったアウレリーノ・フランシスコ・サンチャゴ氏は、日本国憲法第九条に示された「戦争放棄」を知って感動し、一九九六年、ついに「ヒロ シマ・ナガサキ広場」をつくり、スペイン語の「九条の碑」を掲げた。落成式には、日本総領事や在留日本人も出席し、広島・長崎市長のメッセージも届けられ た。サンチャゴ市長はさらに平和市長会議のメンバーとなり、二〇〇八年に開かれた九条世界会議の国際賛同人になったのである。
 サンチャゴ市長に会うため、市庁舎を訪ねた。日本から事前に面会を申し込んだが、出発前に返事を受け取れなかった。市庁舎入り口で面会を申し込んだとこ ろ、市長室に案内された。市長は不在だったが、秘書が「市長は警察関係者の式典に出席している。そこに行けば会えるでしょう」と教えてくれた。
 式典会場のサン・グレゴリオ寺院前の広場には、一〇〇名ほどの人々が集まっていた。ひと通りの行事を終えると市長は広場横のカフェでひと休みし、市民と 談笑していた。私は日本から来たことを告げ、かつて撮影した長崎の「原爆絵巻」の本を贈り、市長と議会が日本国憲法第九条の「戦争放棄」を掲げていること に対する敬意を伝えることができた。市長は「ありがとう」とにっこり笑ってくれた。

港に日本や中国の漁船も

 州都のラスパルマスには、NATOの海軍基地があり、港には機関砲を備えた四~五隻の監視船らしき船があった。港を歩いていると、日本や中国の船も。
 「日本の船がどうしてここに?」
 ちょうど日本船から出てきた関係者に聞くと、「以前は遠洋漁業の基地として、日本のマグロ漁船がこの港を利用していたのです。現在では基地は南アフリカ に移って、ここでは定期的な船の整備だけをおこなっているのですよ」と教えてくれた。カナリア諸島は、こんなところでも日本とつながっていたのだ。
 カナリア諸島でも漁業が盛んだったが、アフリカ諸国の漁業におされて漁民は減っている。グラン・カナリア島南部にある漁港プエルト・デ・モガンでは、漁 を終えた漁師たちがブリほどの大きさの魚を水揚げしていた。仕事が終わると漁師たちは自分たちの家族のために一本ずつ魚を手に提げて帰っていった。

平和市長会議、4402都市に

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ダンスに興ずる市民たち(カナリアスの日。ラスパルマス)

 カナリア諸島には、バカンスの時期になると欧米からどっと人々が繰り出してくる。安定した気候で住みやすいこともあって、ヨーロッパの年金生活者が移住し、ドイツ人、イギリス人だけでも人口の二五%を占める。
 訪れた時は、ちょうど「カナリアスの日」(カナリア諸島の記念日)と重なった。収穫を祝うパレードが賑やかにおこなわれ、あちこちの広場で市民がダンス に興じ、子どもたちも着飾って家族や友達と楽しんでいた。ゆっくりとした時間が流れ、音楽のリズムや人々の表情から、この祭りを心から楽しんでいるようす がうかがえた。
 白い家々の周りにはブーゲンビリアの花が咲き乱れ、広島の平和公園にも咲いている夾竹桃の花も満開だった。
 テルデ市長や市民の平和への思いに共感するように、平和市長会議に加盟する都市は二〇一〇年一二月一日で一五〇カ国、四四〇二都市を数え、現在でも参加を希望する都市は増え続けている。
 日本の「憲法九条」の精神は、今や日本だけでなく世界の人々にとっても大きな励ましとなっている。テルデ市を訪れて、私たち日本人が憲法九条を守り、「戦争放棄」を世界中に発信し続けることがどれだけ大切か、あらためて実感した。

いつでも元気 2011.2 No.232

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