いつでも元気

2013年11月1日

特集2 全身性エリテマトーデス 膠原病の代表的な病気の一つ

治療は主にステロイド・免疫抑制剤で

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松本 巧
北海道勤医協中央病院
運動器リウマチセンター
リウマチ膠原病内科

「膠原病って何ですか?」

 みなさんは、「膠原病」という言葉を聞いたことはありますか。外来や病棟で診療をしていると、 たまに患者さんから「私は膠原病でしょうか?」という質問を受けます。その際、多くの患者さんは「膠原病」という言葉に、「まれな病気」「難病」「一度か かると治らない」といったイメージを持っているようです。
 実は「膠原病」という言葉は、一つの病気を意味する病名ではありません。もう少し知名度の高い、脳の病気で例えてみましょう。主に脳の外側に出血を起こ す「くも膜下出血」や脳の中の血管が詰まる「脳梗塞」、主に脳の中に出血を起こす「脳出血」は、それぞれ一つの病名ですが、まとめて「脳卒中」と言いま す。「膠原病」はこの「脳卒中」のように、たくさんの病名をまとめた言葉です。
 これからご紹介する、全身性エリテマトーデス(Systemic Lupus Erythematosus=以下SLE)は、いわゆる「膠原病」の代表的な病気の一つです。その他の膠原病としては、関節が腫れて痛む関節リウマチ、涙 や唾液が少なくなって目や口が渇くシェーグレン症候群など、20以上の病気があります(図1)。ですから膠原病と一口で言っても、病状や治療法はさまざまです。
 SLEが一つの病気として知られるようになってから、まだ200年も経っていません。1851年、フランス人が「ループス・エリテマトーデス」という用 語でSLEの顔面紅斑(赤い斑点)について報告し、この頃からSLEについての症状が次第に明らかにされてきました。
 ループスとはラテン語でオオカミ、エリテマトーデスとは紅斑を意味します。ほほにオオカミに噛まれたような紅斑が現れることから付けられた病名です。
 1904年にはウイリアム・オスラーという医学史上有名な医師がSLEは心臓、肺、脳、腎臓、関節などにも症状が出る全身性の病気であることを明らかに し、報告しました。医療現場でSLEの症状が知られ始めてからまだ110年程度しか経っていないことになります。

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どんな人がかかる?

 男女比は1:9または1:10と圧倒的に女性に多い病気です。なぜ女性に多いのかは、性ホルモンの影響などが考えられていますが、はっきりとしたことは分かっていません。
 発症年齢は20~40歳代が一番多く、単純に言うと妊娠可能な世代の女性に多い病気といえます。ただしSLE自体はそれほど多い病気ではなく、有病率は人口10万人あたり10~100人(0・01~0・1%)です。

SLEは遺伝する?

 遺伝子がまったく同じである一卵性双生児の一人がSLEである場合、もう一人もSLEとなる率は30%前後です。これはSLEの有病率と比べるととても高い確率ですが、まったく同じ遺伝子を持っているのに半数以上は発症しないということでもあります。
 また、近親者(両親、子、兄弟姉妹、祖父母、孫、叔父、叔母、甥、姪、異父母兄弟)での発症率は0・4~5%といわれています。このように双子や近親者 で発症率が高くなることから、遺伝が関係していることは明らかですが、遺伝だけでは発症しない例がたくさんあることもわかります。
 発症の原因は、SLEにかかりやすい体質(遺伝因子)を持った人が、ウイルス感染、紫外線、薬物、妊娠・出産などによる影響を受けることだと考えられています(図2)。これらの環境要因についてもさまざまな研究がありますが、決定的なものは見つかっていません。
 最近は分子生物学や統計学の発展により、SLEの発症に関係する遺伝子(疾患感受性遺伝子)をしらみつぶしに調べる研究が盛んにおこなわれています。
 疾患感受性遺伝子には人種差があることがわかっています。日本人でもSLEの疾患感受性遺伝子と思われる候補が複数見つかっていますが、それほど決定的な影響をあたえると言える遺伝子は見つかっていません。
 このことからSLEは遺伝病のように単独の遺伝子で発症するのではなく、おそらく複数の疾患感受性遺伝子をもつ人が発症しやすい状態になっているのではないかと考えられています。

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免疫の異常によって起きる

 人の体にはウイルスや細菌などの病原体から自らを守る「免疫」という働きがあります。免疫のし くみは非常に複雑なため、今回は詳しく触れませんが、SLEの症状は主にこの免疫の異常によって起きます。本来外敵から身を守るための免疫の働きが自分の 体に害を及ぼすのですが、これが膠原病の大きな特徴の一つです。
 免疫のしくみの一つに、「抗体」による免疫があります。これを利用した身近な例としてワクチンがあります。例えばインフルエンザワクチンは、接種しても インフルエンザにはなりませんが、インフルエンザウイルスに一部そっくりな成分がワクチンに含まれています。これを人に接種することによって、人体は本物 のインフルエンザウイルスが体内に侵入したと判断し、インフルエンザを攻撃する抗体という物質を体内で作ります。この抗体が体内に備わることで、本当のイ ンフルエンザにかかったときに速やかにインフルエンザウイルスを攻撃し、重症化を防ぐことができるのです。
 SLEでは、ワクチンを接種しないのに自分の細胞を外敵とみなして攻撃しようとする抗体が体内で大量に作られます。自分自身の体を攻撃する抗体という意 味で、これを「自己抗体」と呼んでいます。さまざまな自己抗体が作られることによって皮膚や腎臓など全身の臓器に炎症が起きます(図3)。SLEに起きている免疫異常は自己抗体以外にもさまざまありますが、ここでは割愛します。

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SLEの症状

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蝶形紅斑

(1)全身症状
 発熱、全身のだるさ、疲れやすさなどがみられます。
(2)皮膚・粘膜症状
 SLEの代表的な症状で、頭髪の脱毛症状を含めると9割の患者さんが何らかの皮膚・粘膜症状を起こします。主に名前の由来となった「紅斑」がさまざまな部位に見られます。特に蝶形紅斑は有名で(写真)、両側の頬部から鼻にかけてかゆみをともなわない紅斑が出現します。これらは日光に当たると悪化しやすい(日光過敏症)という特徴があります。口や鼻の中に潰瘍ができることもありますが、痛みをともなわないのが特徴です。
(3)筋肉・関節症状
 筋肉・関節の痛みや腫れ、こわばりも非常に多い症状です。
(4)腎症状
 ループス腎炎は患者さんの寿命に関わるSLEの代表的な合併症です。腎臓に炎症が起こり、老廃物の処理などをおこなう腎臓の働きが悪くなります。およそ 半数の患者さんに見られ、ごく軽いものから、放置すると透析に至ってしまうものまで重症度はさまざまです。尿検査では蛋白尿や血尿が見られます。
(5)神経症状
 10~20%の患者さんに見られます。幻覚やうつ症状、統合失調症のようなさまざまな精神症状、けいれん、脳炎、脳出血・脳梗塞、手足のしびれ(末梢神 経障害)など多彩な症状が現れます。腎障害と並んで患者さんの寿命に関わる代表的な合併症です。
(6)循環器症状
 心臓を包む膜(心外膜)に炎症が起きて、心臓の周りに水がたまることがあります(心外膜炎)。血栓(血のかたまり)をつくる抗体(抗リン脂質抗体)を 持っている患者さんはしばしば血管が詰まり、脳梗塞、心筋梗塞、足の静脈の炎症などが起きます。
 また、SLEの患者さんは、SLEではない人に比べて動脈硬化が非常に進行しやすいと言われています。これは治療に使われるステロイドの影響だけではなく、SLEの免疫異常も関係していると考えられています。
(7)呼吸器症状
 肺を包む膜(胸膜)に炎症が起きて、肺の周りに水がたまることがあります(胸膜炎)。肺の血流が低下する肺高血圧症や、肺の血管に炎症が起きて出血する 肺胞出血、肺の組織に炎症が起きて呼吸困難となる急性間質性肺炎などはそれほど多い合併症ではありませんが、治療しても重症化しやすいという特徴がありま す。
(8)血液異常
 自覚症状は乏しいものの、免疫異常によって白血球や赤血球、血小板が非常に少なくなることがあります。

 以上お話ししたように、SLEは多彩な症状が全身に出現する、まさに「全身性」の病気です。しかし症状の個人差が大きく、例えば皮膚症状だけの患者さんもいます。診断はこれらの特徴的な症状と、血液検査で自己抗体などを確認して総合的におこないます。

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病状によりステロイドを調節

 SLEの治療の主役はステロイドです。ステロイドには自己抗体を作る白血球の働きを強力に抑えるなど、さまざまな免疫抑制作用・抗炎症作用があります。
 重症型の腎炎や脳炎が見られる場合は、免疫異常による炎症や臓器障害が強く、放置すると後遺症や命の危険につながるため、強力な治療をおこないます。こ れを火事に例えると、燃え盛る大きな炎を消すために、消防車で大量の水をかけるようなものです。そのため大量のステロイドを点滴で注入したり、内服しま す。
 免疫異常の炎が小さくなってくると、かける水もバケツ程度、使うステロイドも少量で間に合うようになります。しかし、水をかけるのをやめてしまうと、炎 はどんどん大きくなり、再び消防車が出動しなければならなくなります。これを再燃と言います。再燃しないように常に火の大きさを見守る役目が日常の診察や 検査です。火の大きさに合わせてかける水の量、ステロイドの量を調節します。
 前述のループス腎炎などの臓器症状では、重症化するとステロイドだけでは免疫異常の炎を消せないときがあります。このような場合は、免疫抑制剤を併用し ます。免疫抑制剤はもともと臓器移植後の拒絶反応を抑えるために開発された薬ですが、さまざまな種類があり、SLEに有効であることがわかっています。
 一方、軽い皮膚症状だけならステロイドの塗り薬で間に合います。関節の痛みだけならステロイドを使わず、ロキソニンなどの痛み止めを使用します。
 白血球の表面には、他の細胞から送り出されたさまざまな信号を受け取る受容体という「アンテナ」があります。
 白血球の働きはこのアンテナから受け取った信号に従って変化するのですが、近年は免疫学・分子生物学の発展によりこのアンテナを介した信号(サイトカイ ンシグナル)の働きを直接調節する点滴や注射剤が登場しました。これを生物学的製剤と呼び、主に関節リウマチに対して研究が進んでいます。
 2011年、アメリカではベリムマブという生物学的製剤がSLE治療薬としては52年ぶりに承認されました。日本でも近い将来、治療薬として承認されると思います。

発症後の経過と今後の課題

 ステロイド療法が普及する以前は、発症してから5年間生きられる確率は50%以下という非常に 厳しいものでした。特に腎不全で亡くなる患者さんが多くいました。その後、先ほどお話ししたようなステロイド・免疫抑制剤を使うようになり、血液透析等の 対症療法がおこなわれるようになってから、現在は95%程度になっています。
 現在の死因の1位は細菌などへの感染症、2位は間質性肺炎・肺胞出血・肺高血圧症などの肺の障害、3位は脳・循環器障害となっています。SLEは動脈硬 化のリスクがSLEではない人に比べて非常に高いため、血圧や血糖、悪玉コレステロール(LDLコレステロール)などを適切に管理することもたいへん重要 です。
 今回は全身性エリテマトーデスについてお話ししました。治療にともなう副作用の克服、20年生存率などの改善、患者さんの就労等の社会参加における自立 支援などが、今後の課題と言えるでしょう。

いつでも元気 2013.11 No.265

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