いつでも元気

2015年5月30日

特集2 歯周病 適切なセルフケアで予防できる

共同組織とともにすすめる口腔ケア

松本直人 東京・相互歯科 (歯科医師)

松本直人
東京・相互歯科
(歯科医師)

 歯周病とは、口腔内細菌の感染によって引き起こされる慢性の炎症性疾患で、細菌によって歯肉に炎症をひき起こし、やがては歯を支えている顎の骨を溶かしていく病気です。
 歯と歯肉の境目の清掃が行き届かないと、そこに多くの細菌が停滞し、歯肉が炎症を起こして赤くなったり、腫れたりします。ほとんどの場合、痛みをともなうことは少ないです。
 歯周病が進行すると、歯周ポケットと呼ばれる歯と歯肉の境目が深くなります。そうすると、歯を支える土台となる顎の骨が溶けて歯がぐらつくようになり、抜歯をしなければいけないほど症状が進行することもあります。
 口腔内にはおよそ500種類の細菌が住んでいます。不十分なブラッシングや砂糖の過剰な摂取などが原因で、細菌がネバネバした物質を作り出し、歯の表面にくっつきます。これをプラーク(歯垢)と言い、プラーク1ミリグラム中に約10億個の細菌が存在します。
 プラークは粘着性が強いので、歯に付くとうがい程度では落ちません。放置すると硬くなり、歯石と言われる物質に変化し、表面に強固に付着します。歯石は歯磨きでは取り除くことができません。また、歯石の中や歯石の周囲に更に細菌が入り込んで、歯周病を進行させる毒素を出します。
 歯周病は高齢者に多いと思われがちですが、若い人にも多く見られる病気なのです。

診断

 歯肉や顎の骨など歯周組織の状態の検査によって、歯周病を診断します。

■歯周ポケット診査

 歯と歯肉の間の溝は、炎症によって深くなります(図1)。この深さを測定することで歯周病の進行具合を調べます。一般的に3ミリ以下は健康な状態です。4ミリ以上になると歯周ポケットと呼ばれ、歯周病の可能性があります。同時に歯肉からの出血の有無や、歯の根の形、根についた歯石の状態などを調べます。歯のぐらつきも確認します。

図1

■X線検査

 X線で撮影することにより、目では見えない歯肉の下の顎の骨の状態を確認します(写真2)。また、歯石の沈着状況や顎の骨の溶け具合などを診断します。

写真2 骨吸収像 顎の骨が溶けている状態

写真2
骨吸収像
顎の骨が溶けている状態

■口腔習癖(くせ)・不適合冠などの診査

 歯ぎしり、くいしばり、かみしめ、口呼吸などのくせ、また不適合な冠や義歯なども歯肉の炎症を悪化させる原因になります。

■全身状態との関連性

 食習慣、喫煙、ストレス、全身疾患、薬の長期服用による副作用などは、歯周病を進行させる原因となります。
 また、歯肉の炎症が全身に多くの影響を与えることが明らかになってきています。近年、狭心症・心筋梗塞・脳梗塞・糖尿病・誤嚥性肺炎・骨粗しょう症などの病気と歯周病との関連性がわかってきました。毎日の食生活を含めた生活習慣を見直し歯周病を予防することが、全身の生活習慣病を予防することにつながります。

予防・治療法

 歯周病と診断されて初めにおこなう治療が歯周基本治療です。歯周病の原因であるプラークの除去および歯石の除去、ぐらつく歯の咬み合わせの調整などをおこないます。
 歯周病予防に重要なプラークの除去をプラークコントロールと言い、そのほとんどは自宅でおこなうセルフチェック、すなわち歯磨きとなります。場合によっては、歯科医院の機器を使って除去することもありますが、プラークは正しい歯磨きで落とすことができます。
 歯周病は、基本的に薬や外科処置で治すのではなく、ご自身が適切な歯磨きをおこなうことで予防・治療できる病気です。当院では歯ブラシで、歯や歯肉をもむようなイメージで、やさしくマッサージすることをすすめています。このブラッシング方法を「歯もみ」と呼んでいます。

歯もみの方法

 歯もみは、図2のように毛先を歯と歯の間に入れて、やさしく歯や歯肉をもむようにふるわせます。歯茎が腫れて、さわっても出血するような時は絵筆のようなやわらかいブラシを使い、歯と歯肉の境目が出血しないようにおこないます。ポイントは次の4点です。

図2

(1)歯磨き剤は使わずに座って磨く

 座っていれば、あまり疲れずに長い間磨くことができます。

(2)1日に1回は20分以上。テレビを見ながらなど「ながら磨き」がおすすめ

 20分という時間は、歯1本につき1分を目安にしています。

(3)やわらかめの歯ブラシで、やさしく磨く

 硬い歯ブラシは、歯の表面や歯茎を傷つける恐れがあります。やわらかめの歯ブラシの歯先を歯と歯の間に入れて、歯や歯肉をもむようにふるわせます。歯の並びに沿って一本ずつ横に磨いていきます。歯ブラシは、えんぴつを持つ持ち方で、力を入れずに磨きます。

(4)出てくる唾液は飲み込む

 唾液を口に貯めていると、長い時間磨けません。唾液は消化・消毒・抗菌などの作用がありますので、出血などしていない限り、飲み込んで大丈夫です。

歯ブラシの交換時期は

 歯ブラシは、毛先が広がったら取り替えます。1カ月に1本が目安です。あまりに早く毛先が広がる場合は、力の入れ過ぎです。

 歯もみによって歯周組織が改善され、ポケットの深さが浅く(2~3ミリ)維持されるようになれば、月に一度、口の中をチェックしてメンテナンスをおこないます。

共同組織と連携して

 当歯科では、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる2025年を前に「歯科でも何かとりくめないか」と議論を続けるなかで、認知症予防・誤嚥性肺炎の予防・孤独死防止などを共同組織とともにすすめていこうと考えました。
 そこで、2013年度は三多摩健康友の会の認知症予防班会で、セラバンド体操とセットで歯科の「健口体操」を実施しました。

おすすめ「健口体操」

 人間の飲み込む力は60歳くらいから次第に弱くなります。そのため誤嚥性肺炎にかかりやすくなります。肺炎は2011年には死亡原因として第3位と、増加傾向です。認知症も急増し国内で300万人、65歳以上の10人に1人は認知症と言われています。近年、食べ物をよく噛むことで脳の血流量が大きく増加し、脳が活性化することがわかってきました。歯がなくなって食べ物を噛めなくなると、脳への刺激が減るため、そのぶん脳の活動が低下することにつながります。
 健口体操(図3)は、(1)食物を噛んだり、飲み込んだりする力を鍛え、誤飲を防ぐことに役立つ、(2)唾液腺をマッサージし、刺激して唾液の分泌を促す、(3)手や指・口を動かして脳を刺激するため、脳細胞が活性化される、(4)発声や歌で口やのど・肺を使い、のどの力や肺活量の維持向上に役立つ、などの効果があります。
 方法は「むすんでひらいて」の歌のリズムに合わせて舌をうごかします。これを、首・肩・腕のストレッチ、ほっぺたの膨らましや、唾液腺マッサージと合わせておこないます。

図3

(拡大図)

友の会機関紙に無料健診券

 昨年度は同友の会が「口からはじまる健康づくり」キャンペーンを実施。そこで歯科では、認知症いきいき教室への講師派遣、出張無料歯科健診・相談、女性職員が中心となって妊産婦を診るマタニティ歯科の普及、児童館等への講師派遣などを積極的におこないました。友の会の機関紙「街の灯」(2万5000部配布)に歯科の無料健診券を添付したところ、昨年10月までに82人の方が健診を受けています。出張健診も3カ所で開催、合計55人が健診を受けました。

無料健診でみえたこと

 無料健診券利用者の傾向を分析してみました。平均年齢は69・6歳と高齢者が多いですが、比較的若い方もいました。健診後に受診につながった方は約半数、そのうち4分の3が当院を初めて受診する方でした。総合判定では9割の方が詳しい検査や治療が必要と判定され、そのうち7割の方が歯周病治療が必要、という結果でした。健診受診者のうち男性は約3割にとどまったことから、男性には違ったはたらきかけが必要であると感じました。
 また、生活保護の方が少ないことは、医療機関にかかりたくても負い目を感じて受診しないなどの思いが垣間見えます。比較的若い方のなかで全身疾患を持つ方が多かったことから、「全身疾患を持つ方が歯科にかかりにくい」と考えられます。さらに、かかりつけの歯科医院では質問しにくいことを民医連の歯科を信頼して相談してくれる方が多かったです。検査や治療が必要な方、歯周病の方、う歯(乳歯)治療や補綴治療(かぶせものや入れ歯をつくる治療)が必要な方が多くみられました。

図

歯科難民をつくらない

 今回のとりくみは“歯科難民”をなくし、「安心して住み続けられるまちづくり」の一環となる共同組織らしい活動でした。また、地域の口腔ヘルスプロモーションを共同組織が担えることを示した活動になりました。
 歯周病は、自分ではなかなか気がつかない病気です。地域のみなさんで歯周病に関心を持ち、知識を身につけることで、お互いの口腔の健康にはたらきかけることができるのではないでしょうか。ソーシャルキャピタルとしての役割を発揮するためには、共同組織の網の目を小さくするように仲間をたくさん増やす必要があります。今年度もこのとりくみを継続していきたいです。

イラスト・井上ひいろ

いつでも元気 2015.06 No.284

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