いつでも元気

2015年12月29日

けんこう教室 COPD(慢性閉塞性肺疾患) 患者は20人に1人と推定 咳・たん、息苦しさはありませんか?

加藤 冠 東京・東京健生病院 副院長 (内科)

加藤 冠 東京・東京健生病院 副院長 (内科)

 あなたは駅の階段や坂道を休まずにあがれるでしょうか。「そういえば年々苦しくなっている」など、思いあたることはありませんか。
 COPD(慢性閉塞性肺疾患)とは、肺の機能が段階的に落ちていく病気です。
 2001年におこなわれた大規模な疫学調査で「患者数は530万人」と推定されましたが、2011年の患者数はたった22万人(厚労省)となっており、診断を受けていない患者さんがたいへん多い病気です。

原因

 この病気は、有害な物質を吸い込むことによって、気道の末梢から肺胞にかけての構造が次第に壊れて、肺機能が段階的に落ちていく進行性の病気です。病気の進行には個人差がありますが、進行すると日常生活の動作や、平地を歩くだけでも苦しくなることがあります。
 病気の主な原因はたばこの煙です。ほかには、職業的に特殊な煙を吸い込むなどが原因となります。
 以前は「一度かかったら治らない病気」と言われていましたが、この10年くらいでCOPDは炎症性の疾患であることがわかってきたため、炎症を抑えたり、肺機能を一定改善させて自覚症状を軽減させるような吸入薬が多く実用化されてきました。
 また、日本呼吸器学会が呼吸器専門医以外にも啓発活動をおこなっており、これまであまり知られていなかったこの病気が広く知られるようになりました。

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症状

 症状は長引く咳やたん、息切れなどです。ただ、このような症状があっても大抵の場合は「きっと風邪のせいだろう」とか、「たばこを吸っているから仕方ない」と思うことが多く、「なにか別の病気かもしれない」という認識が持ちづらい病気です。そのため、ご自分で「COPDではないか」と疑って受診される方は、まだまだ少ないのが現状です。

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自覚症状

 COPDの患者さんの場合、何回か休まなければ階段や坂道をあがれなくなりますが、急激に症状が現れるぜんそくと違って年々少しずつ症状が悪化するため、本人は自覚しにくいという面があります。
 もしくは本人が「病気の症状だと感じていない」という場合があるので、「階段や坂道を休まず上がれるか」という問診で数年前との変化を聞くことで「そう言えば…」と気づかれることがよくあります。

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検査・診断

 症状や訴えによって必要な検査は異なりますが、いずれの場合も呼吸機能検査を必ずおこないます。
 呼吸機能検査はスパイロメーターという器具を使って「肺にどれだけ多くの空気を吸い込むことができるか」「どれだけ大量にすばやく吐き出せるか」を調べます。
(1)咳や風邪がきっかけの場合
 「咳がとまらない」「三週間くらい風邪が治らない」──こういう訴えで受診された方には、問診で「たばこを吸っているかどうか」をお聞きします。40歳以上の方で1日20本・20年以上の喫煙歴の方は、COPDの確率が高くなります。
 「咳がとまらない」という症状がある場合、ぜんそくの可能性もあります。
 ぜんそくとCOPDの大きな違いは「症状に波があるかどうか」です。ぜんそくの場合は、咳がひどい時期があっても、しばらくすると落ち着くのが特徴です。COPDの場合は症状に波がなく、「そういえば何年か前から咳が出るようになって、最近ひどくなってきた」という場合がほとんどです。
 風邪が治らないという方の場合、風邪の症状が治まってから呼吸機能検査をします。
 「たんが出る」という場合はたんの検査をします。ただCOPDの診断にたんの検査は必ず必要ではありません。一般的に、「たんのなかの細胞を調べて白血球の一つである好酸球が多ければぜんそく、好中球が多ければCOPD」と言われています。
 ついこのあいだ、私の外来に風邪の症状で受診された患者さんがいました。診察中に咳をする患者さんを見て、私は「もしかしてCOPDではないか?」と疑いました。風邪が治ってから呼吸機能検査を受けてもらうと、COPDであることがわかりました。このようなことは、実はよくあります。
(2)COPDを疑って受診する場合
 「もしかしてCOPDではないか?検査をしたい」と受診された方の場合は、まずCOPD以外の病気でないかどうかを調べます。
 検査は胸部レントゲン・心電図・血液検査・たんが出る場合はたんの検査をおこないます。症状の似ている病気や心臓の病気、アレルギーが原因の病気ではないかどうかを調べてから、呼吸機能検査をおこない、診断します。
 胸部レントゲンは、症状がかなり進行してからでないとはっきりとした病変はわかりません。また胸部CTでは、肺胞が破壊された部分が黒っぽく見えます(左写真)。

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治療

 この病気は、早く見つけて治療し、進行を抑えることが重要です。重症になってからの発見では、既に酸素を鼻から吸入する治療を導入しないといけない段階になっている場合もあるのです。
(1)禁煙
 一番の治療は、禁煙することです。禁煙しないと肺機能はまっしぐらに悪くなります。禁煙を始めると、呼吸機能の低下速度がゆるやかになり、病気ではない人の低下と同じような速度になります。
(2)薬物療法
 治療には気管支拡張薬をつかって気道を拡げ、呼吸を楽にする薬物療法をおこないます。飲み薬や貼り薬もありますが、主には吸入薬です。
 COPDの薬物療法はこの10年で進歩がめざましく、種類も増え、適応となる薬も増えています。主には「β2刺激薬」「抗コリン薬」「ステロイド薬」の3種類のなかから1~3種類を組み合わせた吸入療法が中心となります。
(3)運動療法
 運動の効能は、この10年で重要視されるようになり、「下肢の筋肉量が多いと予後がいい」と言われています。筋力を増やすトレーニングを続けることで息切れは改善しますので、無理のない範囲で続けましょう。
 呼吸が苦しいと体を動かすのが億劫になりますが、動かないでいるとますます症状は悪化します。まずは日常生活で歩くことからはじめてみましょう。症状が重い方であっても、マスクで酸素を吸いながらでも運動を続けると症状の改善につながることがわかっています。
(4)栄養療法
 この病気は呼吸をするだけでたくさんのエネルギーを必要とする病気で、呼吸が苦しくなるだけでなく、全身の消耗につながる病気です。進行するとエネルギーの消耗が激しくなるので、重症の方はたいてい痩せています。
 食事療法では、体が衰弱しないようカロリーを摂り、痩せないように指導します。食事は高タンパク・高カロリーが良いでしょう。高タンパクといっても、タンパクのなかには二酸化炭素を体内に蓄積しやすくするものがあるので、詳細は栄養士さんに相談されると良いでしょう。食事が十分食べられない人には、栄養補助食品をおすすめしています。
(5)在宅酸素療法
 肺機能がある一定以上に低下すると日常生活でも苦しくなるため、在宅酸素療法を導入します。COPDを早期に発見して禁煙をすれば、在宅酸素療法を導入しなくても過ごすことができます。
 COPDと診断されたときに在宅酸素療法を導入するほどに症状が悪い場合は、数年以内の死亡率も高くなります。
 重度の方には、機械で風を送り込んで呼吸の補助をするマスク(NPPV)を睡眠時につけてもらいます。
この病気は、二酸化炭素を体に溜めやすいため、酸素を送るだけでなく一定のリズムで風を送り込む器械が必要になります。
 (1)~(5)は患者さんの症状にあわせて、併用しながら治療します。

グラフ

隠れているCOPD

 近年では、まったく別の症状で受診した人のなかにCOPDが隠れていることがわかってきました。私の外来でも、さきほど紹介した「風邪で受診した方に検査を受けてもらったらCOPDだった」という患者さんのほかにも、胃潰瘍で受診された方も咳が気になって検査を受けてもらったところCOPDだった、という事例を経験しました。
 そこで2010年に、当院をCOPD以外の疾患で受診した方を対象に調査を実施しました。「たばこを吸うか」「咳やたんがでるか」という簡単なアンケートに答えてもらい、喫煙者で症状がある方に呼吸機能検査を受けてもらった結果、約三割の方がCOPDだとわかりました(表1)。
 最近の研究ではCOPDの炎症は肺だけでなく全身の炎症の一部ととらえられるようになってきています。これは全身併存症という考え方です。なんらかの病気を抱えている人はその病気の他の表現型としてCOPDも併発している場合がある、と考えるわけです。

表1

気になる方は、まず主治医に

 寒くなると風邪やインフルエンザなどにかかりやすくなり、それらの病気にかかることで、COPDの症状がより悪化します。たばこを1日20本・20年以上吸っている方で、咳やたん、息切れなどの症状がある方は、早めに主治医に相談し、呼吸器内科医の診断を受けることをおすすめします。

イラスト・井上ひいろ

いつでも元気 2016.1 No.291

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