いつでも元気

2016年6月30日

認知症Q&A 第7回 「薬で認知症は治りますか?」症状の改善や進行予防に効果 お答え 大場敏明さん(医師)

 ひとくちに認知症といっても、原因となる病気はたくさんあり、薬などの治療効果は病気ごとで違います。まず、「治療で治せる認知症」と「治せない認知症」について解説しましょう。

治せる認知症

 最初に認知症の定義について述べます。認知症とは、脳の病気により認知機能(記憶力・判断力・見当識・計算力など)が低下し、今までできていた仕事や家事が難しくなってきた状態(生活障害)をいいます。原因となる脳の病気は、実に七〇~八〇種類にも上り、治療により治せるものと根本的には治せないものとがあります。
 治せる認知症は、(1)慢性硬膜下血腫、(2)正常圧水頭症、(3)薬物性認知症、(4)甲状腺機能低下などで、手遅れにならないうちに診断がつき、タイミング良く治療すれば治せます。
 (1)、(2)は脳外科手術、(3)、(4)は原因となる薬剤の中止や、減少しているホルモンの補充などで認知症状が治ります。この「治せる認知症」は、認知症全体の約一~二割で、医師でも気づきにくい病気です。治療のタイミングを失すると、病状が固定化して回復できなくなってしまいます。適切な早期診断が重要です。

治せない認知症

 多くの認知症(アルツハイマー病、脳血管性、その他の脳の変性疾患)は、薬では根治できません。しかし、抗認知症薬や周辺症状改善のための薬により、症状を改善したり進行を予防できます。注意しなければいけないのは、薬物治療の効果は二~三割程度と限定的であること。薬だけに頼らず、ケアや脳トレ、運動療法、音楽療法など非薬物治療を組み合わせることが重要です。
 薬の使い方は、病状にあった薬を段階的に増やし、副作用が出ないように微調整が必要です。同じ薬を数年にわたって使用すると、効果が低下したり副作用が出ることもあります。患者の状態に合わせて薬の種類や量を調整します。

病気を制御する

 「認知症は治せない」と聞くと、がっかりする人も多いかもしれません。ところが、高血圧や糖尿病、脂質異常症など、内科の病気の多くが実は「根治」できない=「治せない」のです。これらの病気は症状がこれ以上進行しないように、また脳卒中、心筋梗塞などの合併症が出ないように薬物や食事療法、運動などでコントロールするものです。
 多くの認知症も、残念ながら根治はできません。でも薬物治療と非薬物治療を多様に組み合わせて進行予防をしていけば、認知症がない人と同じように、天寿を全うできる時代になりつつあります。


薬を飲む上での注意点

三郷しいの木薬局(埼玉県三郷市)
薬剤師  藤竿千恵美

 薬で認知症の治療を続けるには、効果と副作用のバランスを調整することが大切ですが、以下の注意点を知っておけば安心です。
●飲み始めに注意
 認知症の進行を遅らせる薬「ドネペジル」「ガランタミン」「リバスチグミン」は、飲みはじめや薬の量を増やした時に、吐き気や便が柔らかくなることがあります。また、眠気やふらつきが出ることもあります。多くの場合、体が慣れると症状は消えます。我慢できる状況であれば続けて服薬し様子を見ましょう。「メマンチン」でも、めまいやふらつき、便秘、食欲不振になることがありますが、慣れれば症状は消えます。
●怒りっぽくなることも
 薬によっては活発になりすぎたり、いらいらして怒りっぽくなることがあります。このような場合は、服薬を続けるかどうかを医師と相談しましょう。
●問題行動を抑える薬は効き過ぎに注意
 幻覚や妄想、興奮が激しい場合に、脳の働きを調整する精神科薬が使われることがあります。この薬が効き過ぎると、パーキンソン病のように体の動きが悪くなったり、食べ物の飲み込みが悪くなったりすることがあります。薬を飲み始めてから気になる症状が現れた場合は、医師に伝えて薬の調整をしてもらいましょう。

いつでも元気 2016.7 No.297

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