いつでも元気

2017年3月31日

医療と介護の倫理 「これって、患者さん、利用者さんのためになるの?」

堀口信(全日本民医連 医療介護倫理委員会 委員長)

 今年も全国の民医連事業所に、大勢の新入職員が入職します。新入職員の皆さんは専門職としては未熟かもしれませんが、医療と介護の倫理を考える場合、新人だからこそ重要な役割を持っています。
 倫理は「人として守るべき道」を意味します。医療・介護において守るべきものは、なにごとも患者、利用者のために行うということです。
 しかし、現場では「これって、本当に患者さん、利用者さんのためになるの?」という疑問が、始終わき上がってきます。
 転落の危険があるからとベッド柵を増やしたり、転倒を避けるためセンサーで人の動きをキャッチして制止することは、どこでも起きている倫理的問題です。「歩きたい、動きたい」という欲求と、安全のために動きを制限すること。そのどちらがその人のためになるかを、判断するのは難しい問題です。
 中堅職員は過去の経験や知識に基づいて方針を決め、本人や家族から身体を抑制する同意をもらいます。しかし、本人や家族が抑制をどう捉えているのか、つい聞きそびれたり、さらっと聞くだけで物事を進めがちです。そんな時、まだ、経験の浅い職員の一言が、現場の方針を大きく変えることもあります。

看護学生が感じた疑問

 今から20年以上前、まだ介護保険制度もなく、転倒予防のためにベッドを柵で囲う身体抑制が多くの病院で行われていた時代のことです。重度の記憶障害があり、5分もすると言われたことを忘れてしまう患者さんがいました。
 足も不自由でベッドから転落する危険があり、ベッド柵を増やして対応しました。実習に来ていた看護学生がこの患者さんを担当。学生は患者さんやご家族の話をじっくり聞きました。
 学生は「患者さんはベッド柵をすごく嫌がっている。家族も同意こそしたが、悲しい気持ちでいる」ことを知り、私たちに「何とかなりませんか」と質問しました。
 そこで看護師や家族と話し合い、転倒しないように見守ることにしました。昼間はできるだけ車いすに座ってもらい誰かが見守ります。夜はご家族がベッドの横に布団を敷いて寝ました。
 夜中に患者さんが指示を忘れて立ち上がろうとすると、家族が気付いて注意してくれます。立ち上がるたびに声をかけることがしばらく続くと、家族なしでも立ち上がる動作はなくなりました。もちろんベッドを柵で囲う必要もなくなりました。

大切な“市民の視点”

 ベッド柵のような身体抑制が、本当に患者さん、利用者さんのためになっているのか。こうした事例を検討するために、倫理委員会を設けている民医連事業所もあります。倫理委員会には職員だけでなく、外部から選出された委員も加わります。
 外部委員は医療・介護の専門職ではありませんが、市民の目線で倫理を考える、第三者の視点を持った人たちです。専門職が見過ごしてしまいがちな「患者・家族の視点」「市民の視点」から発言してもらうことで、理解が深まります。
 新人の皆さんが現場で感じたこと、疑問に思ったことは、実は一般市民の感覚に近い大事な指摘だったり、倫理を考える上でとても大切なことかもしれません。
 「これって、本当に患者さん、利用者さんのためになるの?」―。そう思ったら、勇気を出して同僚や先輩と話し合ってみてください。

いつでも元気 2017.4 No.306

お役立コンテンツ

▲ページTOPへ