MIN-IRENトピックス

2017年5月2日

新ほっと介護特別編 なりふりかまわず負担増

 政府は今国会に介護保険法「改正」法案を提出、審議が開始され早期の成立をねらっています。
 「改正」案は、国がますます「給付減・負担増」を断行しようとする内容です。
 さらには、「共生型サービスの創設」という新たな方針案も示しました。
 今回の「新ほっと介護」は特別編として、介護保険の見直しのポイントを全日本民医連事務局次長の林泰則さん(介護・福祉部)に聞きました。

聞き手・宮武真希(編集部)

林さん

林さん

 政府は昨年まで「利用料の一律2割負担化」「要介護2以下の福祉用具貸与の自己負担化」「要介護1・2の生活援助の自己負担化」「要介護2以下のその他のサービスの総合事業への移行」を検討していました(本誌昨年11月号)。
 この案には、介護事業所や職能団体、多くの自治体の「反対」の声が寄せられたため、政府は大半の実施を見送り、部分的な見直しにとどまりました。まさに「制度の改悪を許さない」という運動の力で反対の世論をつくり、改悪案を押し返したと言えるでしょう。

さらなる「改悪」案が

 政府は先の改悪を見送ったものの、今年2月に介護保険「改正」法案を国会に提出しました。法案には、現役並み所得者の利用料の現行2割から3割への引き上げ、40~64歳の介護保険料への総報酬割の導入(所得の多いサラリーマンや公務員の保険料負担を増やし、国の負担を減らす)が盛り込まれました。また、法「改正」を要しないものとして、高額介護サービス費の負担上限額の引き上げを挙げています。まさに「給付を減らし自己負担を増やす」ための見直しと言えます。
 さらに、昨年から政府が具体化を進めている「我が事」「丸ごと」地域共生社会の実現という新たな枠組みのもとで、これまでになかった「共生型サービスの創設」が設けられました。これは「公的な社会福祉を地域住民に担わせる」方向につながるものです。

「丸ごと」ではなく「丸投げ」

 「共生型サービス」は「障害者も高齢者も区別なくサービスを“丸ごと”提供できる事業所をつくる」というもの。富山県などがすでに独自に取り組んでおり、その内容を制度化しようということです。
 現制度では障害者が65歳になって介護保険制度に移行すると、これまでサービスを受けていた事業所を変更したり、サービスを受けられなくなる事態が起こっています。そこで「障害者が利用している施設で介護サービスを提供できるようにする」というのが国の基本的なねらいです。縦割りの行政で起こる事態を改善するという点では賛成できますが、政府のねらいは、費用負担増やサービスに削減をもたらす高齢障害者に対する「介護保険の優先適用」を強化させることにあると思います。
 この共生型サービスの土台になっているのが、「我が事」「丸ごと」地域共生社会の実現の方針です。これは、地域の子育てや障害者・高齢者のケア、生活困窮者の支援などといった、地域のさまざまな問題を「住民一人ひとりがわが事のようにとらえて、丸ごと対応しましょう」というものです。
 「共生」と言われると、誰も反対しませんよね。私たちも、共生社会を実現していくことは非常に良いことだと思います。しかし、冒頭述べたように「社会保障を削減する」という流れのなかで出されたこの案に、政府がどのようなねらいをこめて具体化を進めようとしているか、ここをしっかり見る必要があります。
 「我が事」「丸ごと」「共生」という言葉で、「公的な福祉を住民に移し替えていく」ということではないか。「共生」ではなく地域への「強制」、「丸ごと」ではなく「丸投げ」ではないか――、今回の法案の大きなポイントです。

「軽度の切り捨て」を重要視

 今回の法案には、自立支援・重度化防止で成果をあげた保険者(市町村)に財政支援(インセンティブ)を与える仕組みの強化も盛り込まれました。たしかに利用者さんの自立支援や重度化防止は、とても重要です。しかし「自立」を競わせることは、介護給付の削減を市町村に競わせる仕組みの土台となるもので、到底容認できません。
 また、医療法で進めようとしている病床削減に伴い、その受け皿として医療機能を加えた介護保険施設「介護医療院」(仮称)の創設も盛り込まれています。
 さらに引き続き検討する課題として、軽度者(要介護1・2)に対する生活援助やその他の給付の総合事業への移行について「2019年度末までに結論を出す」と明記されました。ここだけ期限が明確に入っていることから、政府が重要視している次の改革のテーマだと言えるでしょう。利用料の引き上げ(2割負担の対象拡大)、ケアプランの有料化なども次期見直しの論点として挙げられています。

「改正」案は中止・撤回を

 全日本民医連が昨年行った介護実態調査には「これ以上、給付が削られ自己負担が増えたらやっていけない」「経済的にも家族の負担もぎりぎりだ」という事例が多数寄せられました。
 なりふりかまわず負担増をねらう、今回の「改正」案を許すわけにはいきません。全日本民医連は引き続き毎月第3水曜に国会行動を実施し、中止・撤回を求めていきます。

いつでも元気 2017.5 No.307

最も必要な人に最も届かなくなる 介護保険改悪の狙いに迫る

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