MIN-IRENトピックス

2017年6月8日

特集「貧困に立ち向かう」

 お金が無くて受診をためらい手遅れに-。先進国と言われる日本で今、深刻な事態が広がっている。民医連は受診抑制で亡くなった事例を全国に発信、患者の相談窓口を開き、無料低額診療事業など社会制度を駆使して貧困に立ち向かってきた。その思いは「いのちに差別があってはならない」。特集では全国各地の取り組みを紹介するとともに、民医連の無料低額診療事業所一覧を掲載する(編集部)。

発信 受診抑制で悪化 手遅れ死亡事例会見

今年3月に行われたJR中野駅前の「なんでも相談会」夕暮れのネオンのもと、道行く人に声をかける

今年3月に行われたJR中野駅前の「なんでも相談会」夕暮れのネオンのもと、道行く人に声をかける

 「所持金100円、携帯電話が止められ差し入れの弁当も嘔吐で食べられず。受診時は既にがん末期で入院19日目に死亡(60代、無職男性)」―。全日本民医連は3月31日、「経済的事由による手遅れ死亡事例調査」の2016年集計結果を発表した。
 調査は2005年から始め、16年は28都道府県から58件の報告が。ここ数年は60件前後で推移しているが、民医連単独の限られた調査で氷山の一角。医療機関にたどり着けずに亡くなった事例は、この数倍にもなるだろう。
 58人の内訳をみると、現役世代の雇用形態は無職と非正規がほとんどで正規雇用は1人だけ。国民健康保険(国保)の保険料を払えず、約6割が無保険や短期保険証※(短期証)、資格証明書※(資格書)と正規の保険証が無く、受診が遅れていた(Topic1)。

表

「医師として悔しい」

 全世代で貧困が深刻化している。年収300万円未満の層が全労働者の4割を超える一方、医療費や介護費、消費税は年々アップ。年金や生活保護など社会保障は毎年のように切り下げが続いている。
 「生活苦から医療費を払う余裕がなく、受診をためらううちに症状が悪化。救急搬送された時には手の施しようがなかった」。手遅れ死亡事例の会見では、類似のケースが次々に報告された。
 しかし生活保護バッシングなどにより、貧困は“自己責任”との根強い意識も残る。会見は今年初めて国会議事堂向かいの参議院議員会館で開催。全日本民医連の藤末衛会長も同席し、マスコミを通じて全国に発信した。
 会見に同席した田村昭彦医師(九州社会医学研究所)は「事例を分析すると、体調の悪化でこのままでは死んでしまうと分かっていながら、誰も助けてくれないとあきらめている患者さんばかり。それが悔しい」と話した。

介護困難事例も発表

 会見では「介護困難800事例調査」も発表した。経済的に困窮した世帯ほど必要な介護を受けられず、医療と併せて深刻な事態が進行していないか、との問題意識からだ。
 調査は昨年10~12月に要介護1・2(軽度者)を対象に実施。介護保険の次の見直しのテーマである軽度者の状況を検証し、「生活援助」「福祉用具」「通所介護」の制限や利用料値上げによる影響を分析した。
 調査から必要なサービスを制限したり、家族に過重な介護負担がかかっていることが分かった。度重なる介護保険の改悪で在宅介護が限界になっていたり、共倒れのリスクを抱える老々世帯の実態も明らかになった。
 会見では受診遅れを防ぐために行政など相談体制の拡充が必要なこと。高齢化による自然増さえ認めない社会保障費の削減政策を転換しなければ、いっそうの手遅れ事例を招くと訴えた。

相談 何でも相談制度につなぐ 無料相談会

 民医連の事業所や共同組織は、お金が無くて受診をためらう人をはじめ、生活上でさまざまな困難を抱えた人を対象に無料の相談窓口を開いている。
 中野駅前の「なんでも相談会」(上写真)は、2010年に始めて5月で77回目。中野共立病院と中野共立診療所有志(東京)が毎月1回、第4水曜日の午後5時半から定期的に行っている。「待っているだけでは、本当に困っている人を救えない」と職員が事業所を飛び出し、駅前にテントを構えて相談に乗る。
 城南保健生協(東京)は月~土曜日の午前中に、大田病院附属大森中診療所で「よろずなんでも相談」を開いている。診療所の待合室と面談室を使い、診療日には毎日行っているのが特徴で、同生協の役員や社会保険労務士、大田病院のソーシャルワーカーらが相談に応じる。無料の弁護士相談(月に3回)や、成年後見人相談(随時)も実施している。
 そのほか、他団体とともに路上生活者の医療相談会を開いたり、共同組織が中心となった相談会(Topic2)など、全国各地で相談を受け、無料低額診療や生活保護の申請につなげている。

制度 患者の受療権を守る 無料低額診療事業

 貧困に立ち向かい、患者の医療を受ける権利を保障する入り口として、無料または低額で診療する「無料低額診療事業」(無低診)がある。手遅れ死亡事例会見でも、多くの患者がインターネットの検索や民生委員の紹介などで、無低診を頼りに民医連に駆け込んだケースを報告。ただ、まだまだ一般には無低診は知られていない。
 民医連は積極的に無低診の情報を発信するとともに、他の医療団体に先駆けて加盟事業所に実施のための届け出を呼びかけてきた。民医連の無低診事業所は、全国の6割を占める。全日本民医連第2回評議員会方針(2月)は「民医連に加盟するすべての事業所が無低診に挑戦しよう」と掲げた。
 無低診にとどまらず、「国民健康保険法第44条」に基づく医療費窓口負担減免の適用や、医療扶助の出る生活保護の申請などで受診につなげている。自治体が国保44条の適用を認めなかったり、生活保護の申請を受理しないこともあり、行政の窓口に職員が同行することも多い。
 そもそも、受診抑制の背景には医療費窓口負担の増加や高すぎる国保料の問題、社会保障の改悪がある。民医連は共同組織や他団体とともにさまざまな集会を開き、署名を集めて国会に要請、国民の医療を受ける権利(受療権)を守る運動を続けてきた。
 また、「若年2型糖尿病」と「子どもの貧困」で学術調査を行ったり、口腔崩壊を告発した「歯科酷書」を出版。「健康の社会的決定要因」をテーマにした研究会を開くなど、貧困が健康に与える影響を幅広く発信している。


無低診とは
社会福祉法で定められた第2種社会福祉事業のひとつ。低所得者などに無料または低額で診療する。医療機関が都道府県または政令市、中核市に届け出て実施。

 無低診届出施設数(老人保健施設を含む)
 民医連 397(2017年4月現在)
 全国 647(2015年度厚労省調べ)


TOPIC1 資格証明書で我慢、手遅れに

 秋田市に住むAさん(60代男性)は、受診の約半年前から咳が続いていたが、医療費の不安があって我慢していた。ようやく昨年7月に中通総合病院を受診、既に末期の肺がんで半年後に亡くなった。
 Aさんは定年退職後に国保に加入した。年金とアルバイトで生活費をまかなっていたが経済的に困窮し国保の保険料も滞納、長く資格書になっていた。
 資格書解除の取り扱いは市町村ごとに違うが、秋田市はさまざまな働きかけや事例の積み重ねで「命に関わる病状の場合、資格書を解除する」という方針になっている。
 Aさんを担当した中通総合病院ソーシャルワーカーの塩谷行浩さんが市国保課へ連絡、本人が窓口に出向き滞納の一部を納付することで短期証が交付され、治療を始めることができた。
 Aさんによると、滞納している期間に市からの問い合わせはなく、「ただ納付書が送られてくるだけだった」という。塩谷さんは「国民皆保険と言いながら、現状は皆保険の体をなしていない。納付書を送付するだけでは、Aさんのようなケースは後を絶たない。行政は訪問して相談に応じるなど福祉的な視点を持ってほしい」と話す。
 国保に加入するのは年金生活者や自営業、非正規雇用など収入が不安定だったり低い人が多いが、保険料は会社員が加入する労使折半の健康保険より高い。「国保料を払えず、短期証や資格書で受診が遅れる事例は今後ますます増えるのではないか」と塩谷さんは指摘した。

TOPIC2 友の会でなんでも相談 静岡

  「静岡西部健康友の会」は2004年から、毎月第3木曜日に「なんでも相談会」を開く。医療費の相談をはじめ、借金や相続、夫婦げんかなどなんでも。確定申告の時期には行列ができるという。
 場所は浜松佐藤町診療所(静岡県浜松市)の待合室に隣接する友の会室。友の会会長の村松幸久さん(67)が月~金曜日の午前8時半から午後4時まで常駐しているため、ふだんの日でも「保険証がない」「無低診について知りたい」といった患者からの相談が持ち込まれる。
 法律相談など村松さんの詳しくない相談もあったが、その都度、一緒に調べて解決してきた。「『専門家ではないので』と尻込みすることはない。大切なのはちゃんと話を聞くこと、そして相手の思いを受け止めること」と村松さん。
 相談から社会保障制度につなげ、安心して受診できている患者も大勢いる。呼吸苦と発熱で同診療所を受診したBさん(40代女性)。アルバイトで月収は10万円前後しかなく、2年ほど前から体調が悪かったが市販薬でやり過ごしていた。初診時は無料低額診療を利用し、今は生活保護で定期受診を続け体調も安定。女性は「これまで相談できる人が誰もいなかった。診療所に来て良かった」と涙ながらに話したという。
 生活保護の申請や保険証の発行に、相談者や診療所職員と行政窓口に同行することも多い村松さん。「『どうすればこの人を助けられるか』を主眼に、行政の職員と知恵を出し合いながら解決策を探っています」と話した。

TOPIC3 委員会で無低診を推進 千葉

 千葉民医連は2014年に「無料低額診療事業推進委員会」を始めた。県連本部と3法人、6事業所が月に一度集まり、事例報告や判断に迷うケースを相談。生活に困窮した患者の受診を想定したDVDも独自に作成し、学習会で活用している。署名活動や自治体交渉も進めている。
 県連は2011年から無低診を始めたものの、制度を知らない職員がいたり住民の認知度も低かった。推進委員会を開くようになって無低診で受診する件数が倍増。また、「千葉県福祉医療施設協議会」に加盟し、民医連外で無低診を行う事業所とも情報交換を始めた。
 4月6日の委員会では工事現場で働く40代男性のケースを報告。男性はアトピー性皮膚炎とぜん息があるが、無保険のため1カ月分の薬を間引きして1年間使っていた。無低診につなげようと申請を勧めたものの「そんなものは分からない。だったら薬もいらない」と投げやりな対応をされた。
 委員会では「治療の継続を保障し、支払い方法はその次」「世帯の状況をつかみ、継続して声をかける」「国保加入の支援はしている?」などのアドバイスがあった。
 事例を通して見えてくるのは、無低診を利用しても根本的には解決しない問題を抱えている人が多いこと。推進委員で千葉県勤労者医療協会福祉介護部長の岩谷久美子さんは「国の制度として受療権を確立しなければならない。現場から事例を上げ、無低診だけでは不十分だということを発信していきたい」と言う。

課題 薬代が払えず治療を中断 自治体助成を要求

 無低診は医科、歯科の医療機関には適用されるが、保険薬局には適用されない。かつて院内薬局が主流を占めた時代にできた制度のためで、診療は可能でも薬代が払えないために治療を中断する患者もいる。
 民医連は共同組織とともに、薬局にも無低診の適用を求める一方、当面の措置として地方自治体に薬代の助成を要請してきた。これまでに旭川市、苫小牧市、東神楽町、東川町(以上、北海道)、青森市、高知市、那覇市(沖縄)の5市2町が独自に薬代の助成を実施している。
 昨年5月、薬局法人の北海道保健企画が、札幌市に薬代助成を求める1万筆超の署名を提出。これをきっかけに東京都と政令市でつくる大都市民生主管局長会議が「早期に保険薬局も無低診の対象とすること、国がこの問題で責任を持って対応すべき」と国に要求した。
 北海道保健企画総務部長の丸山顕一さんは「無低診は貧困と受療権剥奪の実態を映す“鏡”。無低診でつなぎ止めたいのちを、薬代で失うわけにはいきません」と話している。
(撮影者名のない写真は編集部)

TOPIC4 今は元気に体操教室へ 神奈川

 偶然、民医連とつながり、今は元気に体操教室に通う神奈川県川崎市の萩野谷孝久さん(71)。「おかげさまで歯も目も良くなり本当に安心しました」。
 萩野谷さんはミキサー車の運転手だったが、右目が見えづらくなって62歳で退職。目はどんどん悪くなり体のふらつきや歯痛もあったが、年金が1カ月12万円のため受診を我慢していた。歯痛がいよいよ我慢できず、昨年11月に受診したのが近所の生協歯科クリニックだった。
 医療費負担が困難なこと、抜歯のために内科受診も必要だったことから、歯科クリニックの事務長が協同ふじさきクリニックのソーシャルワーカー菅野明さんへ連絡。菅野さんが生活保護の申請に同行したが、基準を約2000円上回ったため受理されなかった。
 同クリニックは無低診も行っているが、まずは国保制度の活用を図ろうと、国保44条に基づく医療費窓口負担の減免を川崎市に申請。昨年12月から適用され、医療費を心配することなく内科受診と歯や白内障の治療ができた。
 健康を取り戻した萩野谷さんは川崎医療生協の組合員になり、週に1回、クリニックの体操教室に通っている。「自分1人じゃ、なかなか運動できないからね。家に帰っても誰もいない。教室でみんなと話すのが何よりの楽しみ」と笑顔を見せる。
 菅野さんは「先日、無低診で治療した30代の患者さんは、車いすでないと移動できないくらい症状が悪化していた。たまたま無低診を知り受診に繋がったが、我慢して重症化する患者さんが多いのではないか」と指摘した。

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いつでも元気 2017.6 No.308

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