いつでも元気

2004年7月1日

自衛隊駐屯地 劣化ウラン汚染 サマワでも証明された

UMRC(ウラニウム・メディカル・リサーチ・センター)所長
アサフ・ドラコビッチ博士が報告

 

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「尿中のウラニウムが人工的組成であることを示す唯一の特徴は…」と説明するドラコビッチ博士(左)。右が通訳するきくちさん(4月12日、参議院議員会館=写真・豊田直巳)
きくちゆみ
グローバル・ピース・キャンペーン

 「一歩一歩日本の地を歩くたびに、私は一九四五年に広島と長崎で起きた悲劇を思い出します」。参議院議員会館で四月一二日に行なわれた記者会見の冒頭 で、アサフ・ドラコビッチ博士は胸に手を当て、静かに語った。博士は劣化ウランに関する世界で唯一の独立研究所UMRC(ウラニウム・メディカル・リサー チ・センター)の所長である。

駆け込んだ9人の帰還兵

 四月三日付「ニューヨーク・デイリー・ニュース」は、サマワ帰還米兵の尿から劣化ウランが検出されたこと を一面トップでスクープ、このニュースを大々的に報道しつづけた。ついにAP通信やCNNまでがとり上げるようになり、いまアメリカで初めて、劣化ウラン の問題が国民的な関心を集めるに至っている。

 議会ではヒラリー・クリントン上院議員が帰還兵の健康を適切に検査していないと国防総省を非難。検査を義務づける法案を提出するという事態に発展した。

 この米兵たちを診察し、検査したのがドラコビッチ博士である。

 サマワにいた米国第442憲兵中隊の隊員九人は、昨年夏から頭痛やだるさ、しびれ、発疹など慢性の体調不良に悩まされ、軍当局や軍病院に訴えつづけた が、誠実に対応されなかったため、ニューヨーク・デイリー・ニュースに駆け込みゴンザレス記者がUMRCを紹介した。

 ドラコビッチ博士は、彼らの症状から劣化ウラン被ばくの可能性があると判断し、尿のウラン分析を決断した。ウラン分析には一検体約八百ドル(九万円)と 高額の費用がかかる。これをニューヨーク・デイリー・ニュースが負担した。

4人から劣化ウラン検出

【注=上の表の解説】天然ウランには、原子力発電や核爆弾などで使われるU235は、0.7%しか含まれず、ほとんどを核分裂のおきにくいU238が占めている。発電などに使うには、天然ウランからU235を抽出し濃縮する。その残りカスが劣化ウランだ。

 このため天然ウランではU235に対するU238の比率(U238/U235)は137.88だが、劣化ウランでは492.60と高くなる。尿には通常 もごく微量の天然ウランが排出されており、これは体への影響はない。尿中のウランを分析し、U238/U235が高かった場合、劣化ウランであることがわ かる。

 U236は自然界には存在せず、原子炉の中で生まれる。尿中から検出されたということは、人工的なウランが体内に入ったという証拠になる。

 ドラコビッチ博士がドイツのガルデス教授らと最新分析器を使って検査した結果は、驚くべきものだった。九人中七人の尿から、自然界には存在しない「ウラン236」が検出され、四人からは劣化ウランが検出されたのだ【注】。

 彼らは警察官や消防隊員で戦闘には参加していない。にもかかわらず、被ばくしていたことが証明されたのである。

 米政府はこれまで、体内に劣化ウランの金属破片が食い込んでしまった場合の被ばくだけしか問題にしていなかった。ところが今回明らかになったのは、劣化 ウランの微粒子が呼吸を通じて体内にとり込まれてしまう、ということだ。

 これは、現在サマワに展開している自衛隊や同行記者たちも、被ばくの危険性が十分ある、ということを意味する。

 博士は「劣化ウランにはパスポートやビザは必要ない。空気中に微粒子となって存在しており、どこでも自由に入っていきます。被ばくしないためには、呼吸をとめるしかありません」という。

 サマワ駐留のオランダ軍は、到着時に列車の車庫の周りの地域で高い放射線レベルを発見し、車庫に留まらずに砂漠に野営を張ったと報道されている。

一刻も早く避難を

 劣化ウランの主成分であるウラン238はアルファ線を出し、体の外から被ばくすることはほとんどないが、 体内にとり込まれた場合には半永久的にアルファ線を出し続け、周りの細胞やDNA(遺伝子を構成する分子化合物)を傷つける。すでにイラクでは一九九一年 の湾岸戦争以来、白血病、がん、死産、流産、先天性障害が激増している。今回の戦争では、さらに多くの劣化ウラン弾が主要都市のほとんどで使われたため に、被害はもっと深刻になると予想されている。

 「劣化ウランに被ばくしてしまった場合の治療法は?」という質問にドラコビッチ博士は「治療方法はありません。被ばくしないようにすることです。汚染地 域にいる人は一刻も早く避難するしかありません」と答えた。

 イラクから戻ってくる自衛隊員が今後白血病やがんになった場合、あるいは彼らの子どもたちに障害が出た場合、小泉首相や石破防衛庁長官は、どのような責 任をとるつもりなのだろうか。政府の劣化ウランに関する公式見解は、米国政府同様、「安全性に問題はない」というものだ。しかし嘘は百回くり返しても嘘 だ。

米国防総省の脅迫に抗し

 ドラコビッチ博士はもともと、米国防総省退役軍人局病院の核医学局長であった。しかし湾岸戦争から帰った 米兵の原因不明の病気が放射能の影響によるものではないかと考え調査しようとすると妨害され、九五年、ついに軍を追われた。UMRCを設立して、九九年、 帰還兵の尿から劣化ウランを検出。湾岸戦争で米兵が劣化ウランに被ばくし、戦後八年たっても体内に劣化ウランが残っていることを科学的に証明したのであ る。

 博士は科学的事実をもって米国政府の嘘に対抗してきた。少しずつその成果が認められつつあるが、道は険しい。「真実を語って得られる報酬は憎しみと脅迫。でもこうやって、私を支えてくれる日本の友人がいる」と感謝の意を伝える。

 UMRCの使命は劣化ウラン兵器を含む放射能兵器の医学的・環境的影響について研究することだ。そのロゴにはラテン語で「一滴の水が岩をも穿つ」とあ る。真実は、世界世論を動かし、いつか必ず劣化ウラン兵器を禁止させるだろう。

■博士を日本に招いたのは、日本の市民団体「UMRCイラク・ウラン被害調査カンパキャンペーン事務局」(吉田正弘事務局長)。UMRCのイラクやアフガ ニスタンでの現地調査を資金援助している。

いつでも元気 2004.7 No.153

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