MIN-IRENトピックス

2017年7月4日

けんこう教室 良い睡眠のススメ

宮城・坂総合病院
精神科医
千葉茂雄

 5人に1人が睡眠について悩み、20人に1人は睡眠薬を服用していると言われる現代。睡眠薬の使用量も諸外国と比べて多く、その数は増え続けています。そのため、睡眠薬の副作用について厚生労働省が改めて注意を喚起しています。
 高血圧が生活習慣の乱れの積み重ねで発症するのと同じで、睡眠も生活習慣の在り様に左右されます。高血圧の治療が薬で血圧を下げるだけでなく生活習慣を正していくことが大切なように、睡眠も生活習慣の見直しが何より大事です。

睡眠のサイクル

 寝ている間は、約1時間半の周期で深い眠りと浅い眠りを繰り返します。深い眠りの時は多少のことでは目が覚めませんが、浅い眠りの時は些細な刺激でも容易に目が覚めます。この眠りが浅くなった時に何度か目が覚めても、睡眠の質に影響はありません。
 人は寝ている間もさまざまな活動をしています。脳は翌日の生活のために不要な情報を廃棄して必要な情報のみを残したり、心身の機能回復のための作業も行っています。
 睡眠が不足するとさまざまな病気の発症リスクが高くなったり、持病のコントロール不良になることが分かってきています。さらに、睡眠はヒトのみならず生き物が生き続けるために必須の作業なので、睡眠が不足すると強制的に寝てしまうようにできています。

必要な睡眠時間

 では、睡眠時間はどのくらい取る必要があるのでしょうか。人によって、6時間以下でも平気な人や10時間以上必要な人などさまざまで、同じ個人でも季節や環境、年齢などによって必要な睡眠時間は変動します。大事なことをする時に眠気が邪魔をすることがなければ、必要な睡眠時間は取れています。
 『睡眠障害の対応と治療ガイドライン第2版』(じほう)によると、平均的な睡眠時間は成人以降50代までは6・5~7・5時間で、それ以降は減少し70歳を超えると6時間弱になります。高齢になると夜間の深い睡眠が減少し、代わりに日中に何度か睡眠を取る人が増えると言われています。また、体力の低下とともに就寝時より前に疲れて仮眠を取ってしまいがちで、夜間の睡眠が十分に取れなくなることも指摘されています。
 お昼過ぎなど一息ついた時に眠気が出ると「寝不足かな」と思う方もいるかもしれませんが、一時的なものであれば寝不足とは関係ありません。また、「寝不足になりそうだから」と事前に“寝だめ”することはできません。ヒトの身体はどれだけ寝だめしても時間になると眠くなってしまうようにできています。さらには“本来必要とする時間以上に寝る”という実験では、その後の注意力や作業能力などの低下が見られるという結果でした。

身体の仕組み

 眠りにつくために、ヒトに組み込まれている仕組みは主に3つあります。

1.体内時計
 ヒトの体内時計は十数時間の覚醒と数時間の睡眠を繰り返すように機能しています。人類の先祖は昼に活動することを選択したので、朝起床後に太陽の光を浴びることで体内時計がリセットされるようになっています。
 就寝間近に強い光を浴びると、体内時計が「まだ活動できる時間がある」と勘違いするためか、眠りにつく時刻を先延ばしにします。就寝の2~3時間前には部屋を明るすぎないように調整し、パソコンやスマホの画面を見るのも終わりにしましょう。
 以前は体内時計は脳内にあると考えられていましたが、各臓器にもあることが分かってきました。胃や腸などの食べ物の消化に関わっている臓器は、食べ物が来るであろう時刻になると働くように準備を整え、それ以外の時間は休憩するようになっています。
 食事をはじめ、できるだけ規則正しい生活を送ることで、各臓器にある体内時計と脳の体内時計が調和して時を刻み、睡眠にとっても体の調子を保つ上でも大事です。
2.体温の変化
 体温は起きている間は高めに、寝ている間は低めに変動します。高かった体温が低下していく過程で眠気が生じるので、就寝前に体温がすでに低めになっていると体温の変動が起こらず、眠気も生じません。
 就寝前にぬるめのお風呂に入ると、下がってしまっていた体温が少し上がり、就寝時の体温の下降を確実にするので眠れるようになります。ただし、熱過ぎるお風呂で体温が上がりすぎると下げるのに時間がかかり、寝付くまでに時間がかかってしまうので注意が必要です。また、暑い時期に寝苦しいのは体温が下がりにくいからです。
 体温は身体を動かしたり食事の消化活動によって上昇するので、いくつになっても筋力を維持して適度に身体を動かし、しっかり食事を摂ることが大切です。
3.睡眠不足による強い眠気
 ヒトには睡眠が不足してくると眠気をより強く感じる仕組みがあります。徹夜をした翌日には普段よりも強い眠気を感じてぐっすりと眠れるのは、このメカニズムのおかげです。逆に起きている時間が短いと強い眠気は生じないので、夕方以降に仮眠を取ると夜に眠りづらくなります。
 また、高齢者から「夜中に目が覚める」「しっかり寝ているのに、翌朝疲れが取れない」という悩みが寄せられます。しっかりと寝ようと思って長く寝床に入っていると、浅い眠りが多くなって途中で目も覚めがちです。深い眠りが少ないので、疲れが取れていないように感じるでしょう。このような悩みを持つ方は、寝床に入っている時間を短くすると熟睡感が得られます。
 これら3つの仕組みをうまく機能させるように生活習慣を修正することで、睡眠の質が改善します。

眠りを妨げる要因と対策

 次に、眠りを妨げるさまざまな要因と対策を紹介します。
(1)嗜好品や薬品の影響 コーヒーなどに含まれるカフェインやたばこに含まれるニコチンには覚醒作用があるので、就寝前は控えましょう。アルコールは眠気を催しますが、その後の眠りを浅くして睡眠の質を阻害します。寝酒を習慣にすると眠るのに必要な酒量が増えていき、健康を害してしまいます。
 病院で処方される薬にも眠気を妨げる作用が含まれているものがあるので、気になった方は薬剤師に相談してみましょう。
(2)環境の影響 先に述べた明かりや気温のほかにも、湿度、周囲の騒音、布団や枕の具合なども影響します。真っ暗を好む人や淡い明かりを好む人、テレビやラジオの音があったほうがいい人など、どの組み合わせがいいかは人それぞれなので、自分が眠れる環境を無理のない範囲で見つけることが大事です。
(3)持病の影響 痛みや痒み、息苦しさ、頻尿なども眠りを妨げます。病気を抱えている方は持病のコントロールが大切です。
(4)心のありよう 心配事を寝床でも考え続けたり、明日のことを考えたり、眠れなかったらどうしようと案じたり、ぜひとも寝なくてはと力んだりすることも、眠りを妨げます。
 不安になるようなことを考えるのではなく、「どんな時に気持ち良く眠れるか」を想像してみましょう。きっとほのぼのとした情景が浮かんでくるのではないでしょうか。そんな情景の中で、笑顔のまま自然と眠りについていく自分を思い浮かべながら寝床に入るようにしましょう。
 スポーツ選手が試合に臨むときに、最良のパフォーマンスを発揮している自分を思い浮かべるのと同じです。初めから失敗に終わると思ったり、力みすぎたり、雑念にとらわれたままでは、眠りにつくことができません。

達成感をもって眠る

 睡眠の質を改善するにあたり、気を付けてほしいことが2つあります。1つは睡眠時間や朝の目覚め具合にとらわれないことです。目覚め具合は日によって変動することが自然で、睡眠の質とは無関係です。深い眠りの時に起きると眠気を引きずるので、朝起きたら太陽の光を浴びたり、身体を動かしたり朝食を摂ったりして、心身ともに目覚めさせる工夫が大事です。
 もう1つは「眠るために実行しようと思ったことはやれたぞ」という達成感をもって寝床に付くことです。この時、目標を完璧に達成できなくても、「少ししかできなかった」と思わず、「少しはできた」と思うことが重要です。たとえ少しずつでも前に進められているという感覚は、何事についても大事な感覚です。
 これまで述べてきたことを参考に生活を見直していただければ、睡眠の質は変わってきます。また、日中の生活習慣の見直しを続けることで、少しずつ睡眠の質が改善していきます。焦らずあきらめずに続けましょう。
 厚生労働省の研究班は「健康づくりのための睡眠指針2014」で、より良い睡眠のための「12か条」を紹介しています。参考にしてみてください(下表)。
 現在睡眠薬を服用中の方は、主治医と相談しながら生活を見直してみることで、薬を減らすことができるかもしれません。また、睡眠薬の使用は禁酒が前提です。
 最後に、睡眠中に大きないびきと無呼吸があり昼間の眠気がつらい(睡眠時無呼吸症候群)、足に不快感があり眠りが阻害される(むずむず脚症候群)、寝ている間に動き回ってしまう(睡眠随伴症)などの症状がある時は、受診をお勧めします。

いつでも元気 2017.7 No.309

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