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2017年9月29日

守りたい9条 私たちには世界に誇る憲法がある

 今年5月3日、「憲法9条に自衛隊を位置づけた第3項を加える」と表明した安倍首相。
 9条改憲に突き進む安倍政権に対し、全日本民医連は行動本部を立ち上げました。
 「9条加憲」をどう見るのか、「改憲」が実現すると社会はどう変化するのか。
 世界からみた9条の価値について、国際ジャーナリストの伊藤千尋さんに聞きました。

聞き手・岸本啓介(全日本民医連事務局長)

―安倍首相が目論む「9条改憲」を、私たち民医連は「何としても発議させない」という立場でストップさせたいと思っています。伊藤さんは今回の安倍首相の改憲発言をどのようにみておられますか。
 あの発言は、あまりにも唐突でしたね。自民党にはもともと改憲草案があるのに無視したため、党内では石破さんらも怒っている。当然ですよね。あれは安倍の焦りだと僕は思います。  
 今、与党は国会で3分の2の議席を持っている。改憲するには今の衆議院議員の任期である来年12月までしか時間がなくて、そのためには今すぐ何かやらなきゃいけない。ところが「自民党の改憲草案は国民の支持を得られない」ことを彼自身がはっきり認識している。それに代わるものはないかと、日本会議の案を自らの案として読売新聞で発表したというわけです。
 それと「国民に軍隊としての自衛隊が認知されていない」ことも、身に染みているのでしょう。「だったら憲法に書いちゃえ」と、つまり、こういうやぶれかぶれな発想だと思うんですよね。
 ではなぜそんなに焦るのか。それは安倍自身が今の自民党の退潮をはっきり認識しているからでしょう。発言の後の東京都議選は敗北し仙台市長選も負けた。思えば、昨年の参院選で野党共闘があれだけの勝利を得た。その時点で「一強は維持できない」ことを安倍自身がいち早く認識したのでしょう。だからこそ「3分の2のうちにやらないと、もう後はない」と。その焦りが「9条に第3項を加える」という発想になったと思います。
―安倍改憲の本質は、自衛隊を書き加えることで9条2項を死文化させる、ということです。もし実現したら、社会はどんな風に変わるのでしょう。
 まず、自衛隊が大手を振って活動するでしょうね。高校に隊員募集に来る、柔道や剣道の部活の指導員としてやって来る。運動会で自衛隊の軍楽隊がパレードするかもしれません。もっと具体的に想像してみると、街を戦車が走り、軍服を着た人間が銀座を歩くでしょう。そうなると、パッとそういう風潮が広がり一斉に染まります。日本って全体主義に陥りやすい国なので、それがとても恐いと思います。
 それから、自衛隊が「国防軍」という名前になる。自衛隊と国防軍では全然違います。新聞やテレビから日々「国防軍」という言葉が聞こえると、「軍隊」に対するアレルギーがなくなる。そこも恐いですね。
 さらに、国防費が増額されるでしょう。今の軍事費は5兆円ですが、あっという間に10兆、15兆円になる。アメリカは以前から日本に「軍事費を倍額にしろ、3倍にしろ」と要求していますからね。そうなると他のものを削らざるを得ない。何が削られるかと言うと、医療や教育や福祉の予算です。
 国防費が増えたらどうなるか。私は9・11後のアメリカで見てきました。イラク戦争の時、アメリカは国費の約半分が軍事関係でした。すると学校では、先生が生徒に「明日からトイレットペーパーを持ってきなさい」と言う。そのうち、各学校から先生が2~3人ずつ減る。教育予算が削られたからです。サンフランシスコでは、刑務所の囚人が一斉に200人も釈放されました。予算が削られて囚人の食事代が足りなくなり、所長が自分の権限で釈放してしまったのです。めちゃくちゃですが、こういうことがまかり通る社会になっていました。

自衛隊の在り方と中国・北朝鮮問題

―今までの規範が大きく変わることが想定されますね。いま自衛隊は、災害救助で活躍しています。私たちも被災地へ支援に入っていますが、彼らの持っている力はすごいですよね。
 そうですよね。災害の現場で、自衛隊はすごい力を発揮していますね。そこで今、9条と対照的な位置にあるこの“自衛隊の在り方”を考え直してみてはどうかと思うのです。
 よく言われるのは「災害救助をやっているんだから、自衛隊を認めてもいいじゃないか」という意見です。ですが、自衛隊の本質は災害救助ではなく、軍隊です。軍隊のついでに災害救助をやっているのです。
 自衛隊が災害救助で国民に喜ばれるのなら、もっと国民に喜ばれる方向に自衛隊を変えようじゃないですか。自衛隊は武器をたくさん買っています。その購入をやめて、災害救助に役立つ機材を買う。射撃訓練を人命救助の訓練に変える。こういう提案なら、みんなが喜ぶのではないでしょうか。
 「自衛隊をなくそう」と言うと、「災害救助もなくなるのではないか」と不安になる方も、この提案なら安心できるでしょう。そして、災害救助がメーンの活動になるのなら、自衛隊ではなく「災害救助隊」でもいいですよね。
―なるほど、そういう提案はいいですね。「丸腰で大丈夫なのか」という声に対してはどのようにお考えですか。
 丸腰では不安ですよね、それは当然のことだと思います。それでは、コスタリカを真似してはどうでしょうか。
 国家組織は三段階で武力を持ちます。警察→国境警備隊→軍隊です。国境警備隊は、日本で言うと海上保安庁です。今、日本は警察28万人、海上保安庁1万4000人、自衛隊が23万人で、明らかに国境警備隊が少ない。
 コスタリカには軍隊がありません。だから本当の平和国家と言えるのですが、とは言え丸腰ではありません。国境警備隊が武器を持っています。僕は平和を望んでいますが、今の段階では、国境警備隊には武器は必要だと思っています。国境警備隊が武器を持っていなければ現実的に任務を果たせないでしょう。
 ならば海上保安庁の傘下に海上自衛隊と航空自衛隊を統合すればいい。
 「日本は丸腰じゃない。国境を警備する力があり、これは明らかに専守防衛である」と他国に説明できますよ。それに、陸上自衛隊を災害救助隊にすれば、自衛隊員は誰も失業しません。災害がないときは田畑を耕して食糧自給に貢献し、人殺しよりも生産の喜びを感じてもらいましょう。
―国境警備については、いま国民の関心が高まっています。中国の軍拡と北朝鮮のミサイルに恐さを感じる人が多数ですよね。
 そのことについても、丁寧な説明が必要ですよね。
 中国の軍事予算は日本円で18兆円ほど、日本の3倍以上です。中国はこれからどんどん経済が発展し、2030年にはアメリカよりもGNPが多くなると言われている。人口比で日本の10倍ですから軍事予算が今の日本の10倍の50兆円規模になってもおかしくない。今の日本の国家予算の半分の額ですよ。このまま日本が中国と軍拡競争をやっていたら、日本は耐えられません。社会が滅びてしまいます。
 いま中国は航空母艦を2隻持っていますね、日本も空母型護衛艦を2隻持っています。ちょうどね、同じ2隻ずつ。だったら今がチャンスでしょう。力が同等のうちに、「軍拡競争なんてやめましょう。お互いの経済の繁栄のために、双方にとって好都合な関係を築いていきましょうよ」と、今なら中国に言える。そういう外交政策を示すことこそが必要ですよ。
―北朝鮮に対してはどうですか。ミサイルの発射が頻繁に報道されます。
 北朝鮮のミサイルを見たことがありますか。ペットボトルのような形のロケットに液体燃料を入れて飛ばし、燃料がなくなるとロケットが切り離され、飛んでくるのは先端にある1メートルほどの鉄の塊です。軍事的には幼稚な兵器です。
 今時の最も効率的な攻撃方法は、アメリカがやっているように爆撃機で標的の上空からコンピューターで狙いを定めて攻撃することです。北朝鮮はそんな兵器も資金もないから貧弱なミサイルに頼るのです。
 問題は核兵器を積んでいたらまずいわけで、だったら核兵器の開発をやめさせればいい。7月に国連で成立した核兵器禁止条約に日本も署名し、北東アジア一帯を発効につなげることが重要でしょう。
―中国や北朝鮮への感情を丁寧に議論していくことは、大事ですね。
 そうなんです。「恐い」「危ない」だけで思考を止めてしまわないことです。「中国が攻めてくる」と言うけど、中国が最後に日本を攻めたのは鎌倉時代の元寇ですよ。むしろ自衛隊の国軍化で中国の方が「日本軍がまた攻めてくる」と緊張するでしょう。互いの疑心暗鬼を解く方向に行くべきです。
 北朝鮮は強気に見えるけど、金正恩政権は内実、早く米国に交渉相手として認めてほしいと焦っているでしょう。ミサイルを飛ばすしか彼らには手がないのです。駄々っ子が物を投げつけて我を張るようなものです。ミサイルは日本向けではなく米国に向けたものです。迷惑するのは日本ですから、緊張を解くためにも韓国や中国とともに米国と北朝鮮の間を取り持ち、対話の仲介をするのが平和への道です。

9条を外交に生かす政治へ転換を

―次に日本の憲法についてお聞きします。伊藤さんはこれまで世界各国を取材してこられました。世界からは、日本の憲法はどのような存在として見られているのでしょうか。
 私は世界78カ国を取材してきました。いろんな国で「日本の9条は素晴らしい。これを広めたい」という動きがある。有名なのは、アフリカ大陸のカナリア諸島にあるスペイン語で書かれた「日本国憲法9条の碑」です。
 2015年1月には、コスタリカの国会が「平和憲法を長年保っている日本国民とコスタリカ国民に、共同でノーベル平和賞を授与させよう」というアピール文を満場一致で決議しました。さらに同年3月には、今、ISとの戦闘の最前線にあるトルコのチャナッカレ村に、日本国憲法をトルコ語に訳した石碑が建ちました。
 アフリカ、中南米、中東でこのような動きがあるのに、当の日本政府が率先して「9条を変えよう」と言っている。さらに言えば、日本人自身が自分の国の憲法を素晴らしいものだと認識していない。このことは、世界には不思議に映っていますよ。
 9条は、日本で突然生まれたわけではありません。ドイツの哲学者・カントが200年以上も前に「世界が平和になるためには常備軍を廃止することが条件だ。全ての国が軍隊を廃止したら、戦争しようにもできない」という考えを述べて体系化し、それが実ったのが日本国憲法です。
 9条は日本人だけのものじゃない、世界の人のためのものです。だから世界のあちこちで「9条っていいな」と思われているのです。日本人には9条の大切さや、この憲法は世界があこがれる憲法なんだということを、もっと知ってほしいと思います。
 日本はただ持っているだけでなく、「9条を使って世界に平和を広げる」という役割を果たすべきなのに、それを実践してこなかった。だから「どうせ使ってないんだから、いらないんじゃないか」と思う人がいるのは当然です。だったらこれからは使えばいい。9条の意義をもう一度考え直して、9条を使う政治に転換していく。これこそ「積極的平和主義」です。
 安倍首相は「積極的」を「プロアクティブ」という「やられる前にやってしまえ」という意味の軍事用語を使って、積極的平和主義を打ち出しました。それは間違いです。戦争につながるような人種差別、男女差別、賃金差別などあらゆる差別を1つずつ無くして、揉め事が起きないようにしていくのが平和学で言う本来の積極的平和なのです。
 コスタリカは核兵器禁止条約を発案し、積極的平和を実践しています。また、中南米の3つの国の戦争を終わらせて平和のために力を尽くしています。こうした「平和の輸出」を日本がやれば世界から尊敬されるし、私たちも誇れるでしょう。
―「憲法を使おう」という気風を広げるのは大事な視点ですね。
 私たちは全国市民アクションとして「安倍9条改憲NO」の署名を始めます。目標は3000万筆です。
 その数って結構大変だと思います(笑い)。「世の中を変えるのには15%で十分だ」というのが私の持論です。2000万集まれば充分です。署名は本人に考えるきっかけを与える大事な手段ですよね。それに、この時期に始めるのはグッドタイミングです。安倍の支持率が下がった今の時期に何も行動しなければ、改憲派が息を吹き返すかもしれません。
 署名や運動を広める方法は、朴槿恵大統領を弾劾した昨年の韓国の民衆運動に学べばいいでしょう。ろうそく集会は10月に3万人で始まって、最終的には232万人です。どのようにして急激に広まったのかと取材したら、意外な声が返ってきました。なんと、きっかけは日本の国会前の12万人(2015年8月、安保法案反対国会前集会)だと言うんです。「あのおとなしい日本人がこんなに集まったんだ。俺たちは何をやっているんだ」と始まって、パッと花が開いたそうです。
 同時に、韓国では歌やSNSの力も大きい。誰かが演説して次の人が出てくる間にみんなで歌う。盛り上がるじゃないですか。さらに集会のたびに参加者がスマートフォンを使って「私はここにいる、後ろにはこんなにたくさんの人がいる」と撮影してネットに投稿する。ネットの拡散力のおかげで急速に人が集まったのです。
 韓国のメディアは日本よりも権力寄りなので、韓国の人はメディアを信頼していません。そこで、自分で発信したのです。この方法を日本も真似ればいい。民医連や共同組織のみなさんも署名活動のときに、「私はここで署名活動やっています。あなたも一緒にやりましょう」とネットで呼びかける。この方法は有効ですよ。
―韓国のろうそく集会には1000以上の団体が集まったと聞きます。日本でも署名運動を幅広い団体に呼びかけ、多くの人が参加する運動にしていきたいと思っています。
 憲法の価値が日本人に認識されていない今、「9条の価値」や「9条の世界史的な意義」をみんなでもう一度認め直すことが必要ですね。私たち自身が良く学んで知ること。そうすることで「憲法は誇れるものだ」と気付いて自信が湧き、「いまの憲法はいいものだから世界に広めよう」という気持ちになれるでしょう。
 「私たちには世界に誇れる憲法がある。この憲法を使って世界平和に向けて私たちが先頭に立とうよ」と訴えると、説得力があると思いませんか。この署名運動には夢がありますよ。
―「9条で生きるって素晴らしいよ」ということを学びながら、運動を広げていきたいと思います。
 今日はありがとうございました。


伊藤千尋(いとう・ちひろ)
国際ジャーナリスト。1949年、山口県生まれ。元朝日新聞記者。現在、「九条の会」世話人、コスタリカ平和の会共同代表。『辺境を旅ゆけば日本が見えた』(新日本出版社)、『反米大陸』(集英社新書)、『燃える中南米』(岩波新書)など著書多数。

いつでも元気 2017.10 No.312

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