MIN-IRENトピックス

2018年5月31日

けんこう教室 
加熱不足にご用心 カンピロバクター食中毒

和歌山・河西診療所所長
木津俊一

 気温と湿度が高くなる梅雨は、食中毒を引き起こす細菌の働きが活発になる季節です。食中毒の主な原因としてウイルスと細菌が挙げられますが、低温や乾燥した環境を好むウイルスに対し、細菌はこれからの季節が要注意です。
 代表的な食中毒を表1にまとめました。ウイルスではノロウイルス、細菌ではサルモネラ属菌や腸管出血性大腸菌などは聞かれたことがあるのではないでしょうか。
 食中毒と聞くと多くの人は集団食中毒をイメージしますが、散発的に発生し、最近増えているのにあまり知られていない食中毒──それがカンピロバクター食中毒です。

増えているのに知られていない

 近年、細菌のカンピロバクターによる食中毒が増えています。厚生労働省の発表によると、2016年度は339件(患者数3272人)で、細菌性食中毒で最も多く発生しました。ウイルス性を合わせた全体で見ても、ノロウイルスに次いで2番目に多いのです(図1)。この数字は集団発生例が中心なので、実は氷山の一角であり、実際にはもっと多いと思われます。
 今から11年前に、前職場の生協こども診療所で年間40人のカンピロバクター食中毒の患者さんを診察したことがありました。こんなに増えているのに、不思議とあまり知られていません。
 カンピロバクター食中毒は10数年以上前から増加し、今も発生数は減っていません(図2)。なぜでしょうか。

Q:どのような人がカンピロバクター食中毒にかかりやすいのですか?

A:一般的に食中毒や感染症は、小さな子どもや高齢者など体の抵抗力が弱い人がかかりやすいです。
 カンピロバクター食中毒では、0~4歳の子どもと15~25歳の青年の患者さんが多く報告されています。青年に多いのは外食の機会が多いからで、私の経験では小学生以上になると子どもでも外食が原因と思われるケースがかなり見られました。生の鶏肉を食べなければ防げたと思われるケースがたくさんあります。

生の鶏肉が危険!

 カンピロバクター食中毒の原因となる食品は、生や加熱不足の鶏肉と牛生レバーです。カンピロバクターは健康な鳥の腸管に生息しており、食肉にする段階で汚染すると考えられています。実際、市場の調査では、高頻度(20~100%)で鶏肉がカンピロバクターに汚染されていることが分かっています。

特徴

(1)    少量の菌でも発病する。
(2)    同じものを食べても1人だけ発病することも多いため、食中毒と思われにくい。
(3) 潜伏期間が1~7日(多くは2~5日)と長いので、原因を特定しにくい。
 食中毒というと集団食中毒をイメージするかもしれません。集団食中毒は食品の衛生管理が悪く、食品内で菌が増殖したり毒素が発生している場合で、食べた人のほとんどが発病します。
 カンピロバクターによる食中毒は孤発(散発的な発生)例が多いのが特徴です。少量の菌でも、摂取してから体内で増殖し発病します。大人に比べて抵抗力の弱い子どもの方が発病しやすいのです。

症状と診断

 発熱・腹痛・下痢が主な症状ですが、腹部症状が目立たない場合もあります。通常、ノロウイルスのように嘔吐は強くありません。
 これから夏にかけて多くなりますが、年中発生します。冬に高熱で発病し頭痛も強く、1日目はインフルエンザを疑われた人もいました。
 粘血便が多いといわれていますが、私の経験例では20%未満です。患者さん自身が下痢の様子から、細菌性とウイルス性を区別するのは難しいでしょう。粘液が混じったり濃緑色便であったり、医師が便を見れば細菌性かどうか判断しやすいので、受診時は便を持参していただけるとありがたいです。
 昨年度、当院では8人のカンピロバクター食中毒の患者さんがいましたが、うち6人は診療所で便を観察できました。結果から全員細菌性腸炎を疑い、その日から治療を開始できました。確定診断は便の培養検査で行うため、結果は数日後になります。

食中毒を疑うポイント

 食べ過ぎたり体を冷やしたりすると、下痢をしたりお腹が痛くなることがありますね。それらと食中毒はどう違うのでしょうか。
 食中毒を疑うポイントは、下痢だけでなく発熱や、発熱がなくても寒気、だるさ、筋肉痛など風邪にかかったような症状を伴うとき、腹痛が激しいとき、血液の混じった便が出るときなどです。分からないとき、判断がつかないときは、安易に下痢止めなどの市販薬や抗生物質を使わないで、医療機関に相談してください。

治療

 症状が強い場合、抗生物質の内服投与が有効で速やかに解熱します。カンピロバクターの除菌に効果が認められている抗生物質があり、強く疑う場合は最初から5日間投与します。同様の症状でサルモネラ腸炎も考えられる場合には、他の抗生物質で開始します。その場合、まれに下痢が長引いて、後に抗生物質を変更することがあります。
 このほか、症状を改善するために整腸剤や解熱剤を使用します。脱水症のため、点滴をすることもあります。止痢剤(下痢止め)は菌の排泄を遅らせ、病気を長引かせる可能性があるので使用しません。治療によって2~3日で軽快しますが、無治療だと長引くことがあります。

食中毒予防の4原則

(1) 危険なものを食べない(食べさせない)。
(2) 菌を食材につけない。
(3) 菌を増やさない。
(4) 菌を殺す。
 普通、食中毒予防の3原則として(2)~(4)に気をつけるよう周知されています。
 しかし、私はあえて、その前に「危険なものを食べない(食べさせない)」ということを訴えたいと思います。
 生の鶏肉は危険なのです。しかし、まだ牛肉・豚肉のように徹底されていません。
 具体的対策は以下の3点です。
(1) 加熱の十分でない鶏肉、生レバーは食べないようにしましょう。焼き鳥をレアで提供するお店もあるので注意してください。
(2) 鶏肉を調理するときに他の食材に触れないように、まな板などの調理器具や箸、手洗いなどにも注意しましょう。特にバーベキューをするときなど、気をつけてください。
(3) カンピロバクターを殺すには中心温度で75℃、1分間の加熱が必要です。右の写真を参考に、から揚げ・焼き鳥など、中心まで白く色が変わっているか確かめてください(参考までに、ノロウイルスの対策には85℃、90秒以上の加熱が必要です)。

カンピロバクター食中毒 3つの落とし穴

(1)外食していないから大丈夫?
(2)新鮮だから大丈夫?
(3)加熱しているから大丈夫?
 残念ながら、いずれも大丈夫ではありません。当院では昨年、3歳から80歳代の患者さんがいましたが、小児や高齢者では家庭内での発生が疑われるケースが多くありました。外食していなくても安心できません。
 一方で小学生以上の子どもと若い成人では、外食で鶏肉の刺身、バーベキュー(鶏肉)、牛生レバーなどの摂取歴がある患者さんが多く、原因と考えられました。
 またカンピロバクター食中毒は、食品が古かったり保存が悪いために起こるのではありません。新鮮でも生は危険なのです。最近、厚生労働省も注意を喚起していますが、まだまだ「新鮮なら大丈夫」との誤解があるようです。鶏肉を提供するお店の理解も不十分なようです。
 また、加熱しても不十分であれば、菌は生きています。


カンピロバクター食中毒や食中毒予防について詳しく知りたい方は、以下のホームページを参考にしてください。
☆カンピロバクター食中毒予防について(Q&A)
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000126281.html
 厚生労働省のホームページ。カンピロバクター食中毒の基本的な知識が得られます。
☆家庭でできる食中毒予防の6つのポイント
http://www1.mhlw.go.jp/houdou/0903/h0331-1.html
 厚生労働省のホームページ。食品の購入・保存から調理まで気をつけることが分かります。動画配信もあります。

いつでも元気 2018.6 No.320

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