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2018年8月31日

模擬患者の会 川崎医療生協

文・ 武田力(編集部)
写真・五味明憲

セッションの様子。全員分を録画して、その直後に見直しながら振り返る

セッションの様子。全員分を録画して、その直後に見直しながら振り返る

川崎医療生協(神奈川県川崎市)では、組合員と職員が「模擬患者の会」をつくり、一緒に職員の研修を進めています。
川崎協同病院の1年目の初期研修医4人が参加したセッションの様子を取材しました。

 「いかがですか?」
 「しんどいです…」
 ベッドに横たわる模擬患者の小西千代子さんに高井凜医師が話しかけると、か細い声が返ってきました。末期がん患者を演じる小西さんは「病室の白い壁と天井に囲まれて、大好きな花も見ることができない」と涙を見せ、「家に帰りたい」とつぶやきます。
 「家に帰ったら何かしたいことはありますか」と優しく話す高井医師。周囲の参加者は熱心に2人の会話に耳を傾けます。
 この日の参加者は15人。そのうち「模擬患者の会」の組合員は7人です。

「まずは気持ちを受け止めて」

吉田医師

吉田医師

 川崎協同病院総合診療科長で指導医も務める吉田絵理子医師は、「(医師として)情報を取りにいっている感じがする。それよりもまずは患者さんの辛い気持ちを受け止めるほうが大切」とアドバイス。進行役を務める八木美智子看護師(法人統括看護部長)は「『病室に花を飾れたらいいのに』と伝えて寄り添うだけでも、患者さんの心の向きが変わるのでは」と指摘します。
 組合員からは「声かけが優しくて、一生懸命さが伝わってきた」との評価の一方、「患者さんと心と心の結び付きをつくるのが先で、そのあとに医療が入ってくる」と課題の指摘もありました。
 高井医師は「ひたすら患者さんの辛い思いを聞くことに集中して、提案やアクションが足りなかった。患者さんの手を取ったり、もう少し踏み込んで良かったかも」と感想を語りました。
 セッションには高井医師のほかに3人の初期研修医が参加。熊谷栄太医師は「糖尿病で食事・運動の改善が難しい患者」、津田誠医師は「喘息発作の不安から頻回に来院する患者」、圡金清香医師は「脂質異常症の内服薬の副作用に不安を持つ患者」と、それぞれの模擬患者に対応しました。

この日は4人の初期研修医が参加

この日は4人の初期研修医が参加

〝共同のいとなみ〟として

 「模擬患者の会」は2004年4月に発足。組合員の金子久子さんは「患者の目線を入れて職員と一緒に育ちあいながら、私たち自身も賢い患者になりたいと思って」とその目的を話します。「医療生協の患者の権利章典」(当時、現在は「医療福祉生協のいのちの章典」)を身近に引き寄せるための取り組みでもあります。
 毎月1回のセッションのほか、「患者役を務めるためにも病気についての知識が必要」と年4~5回、医療や介護についての学習も行っています。
 シナリオ(場面設定、現在27通り)はすべて「模擬患者の会」と職員が協力して作ったオリジナル。医療現場で実際に起きた出来事をもとに作成することもあります。対応する職種、患者の性別・年齢や病状・家族・生活背景が書かれており、それをもとに模擬患者役の組合員は「こういう背景の人はどんな言葉づかいや態度をとるか」と考えながら演じます。
 組合員の篠崎信男さんは「役者じゃないから難しいよ」と言いながら「医療現場は特に正確な判断が求められる。セッションが役に立つならうれしい」と話します。
 「模擬患者の会」の事務局を務める塩入美和看護師(川崎協同病院)は、人と人との関わり合いを客観的に評価する難しさに悩む一方、「どのように接すれば患者さんの苦しみを和らげられるか考える機会になる。私たち自身も初心に返ることができる」とその意義を強調します。
 同じく事務局の佐藤麻王さん(医療生協本部人事部)は「『職員を育てよう』という組合員さんの気持ちがうれしい。まさに〝共同のいとなみ〟として一体になれる場です」と笑顔を見せます。

いつでも元気 2018.9 No.323

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