いつでも元気

2018年11月30日

まちのチカラ・香川県 多度津町 
懐かしさにたどりつく町

大正時代の古銭湯をリフォームした「藝術喫茶 清水温泉」

大正時代の古銭湯をリフォームした「藝術喫茶 清水温泉」

文・写真 橋爪明日香(フォトライター)

 讃岐の国にひっそりと佇む港町、多度津町。
 初めて訪れた人にも懐かしさを感じさせ、ゆったりした時間に身を委ねられる歴史ある町です。
 人々を誘うノスタルジーを探しに行きました。

瀬戸内海に抱かれた天然の良港

 多度津町は香川県の西部に位置し、南は讃岐平野、北は瀬戸内海国立公園に隣接しています。古くから天然の良港に恵まれ、港を中心に発達してきました。金刀比羅宮へと続く、こんぴら街道の玄関口としても賑わい、多くの参拝客が多度津の港から町を通って“こんぴらさん”を目指しました。
 そんな歴史ある多度津町は今、人口減少対策の一環としてタウンプロモーション事業に取り組んでいます。まちづくり団体や商工会議所、町役場の若手職員などで構成する推進メンバーが昨年「多度津町まねきねこ課」を発足。多度津町には「猫の島」で知られる佐柳島があることから、まねきねこをモチーフに「多度津に人を招き入れたい」と願いを込めました。今ある魅力を発信しながら、さらなる町の魅力を作っていこうとしています。

少林寺拳法発祥のまち

 全国各地に約2000の道院がある少林寺拳法は、実は多度津町が発祥地。宗道臣が1947年に創始しました。子どもから高齢者まで世代を超えて楽しめるのが少林寺拳法。町の中心部にある金剛禅総本山少林寺では、最大600人が一度に修行することができるそうです。
 「少林寺拳法をやっていれば全国どこに行っても“合掌礼”ひとつで仲間になれます」と話すのは、一般財団法人少林寺拳法連盟職員の川田幸広さん。合掌礼とは少林寺拳法における礼式で、構えの1つでもあります。手と手を顔の前で合わせて“合掌”する仕草のことで、技の始まりと終わりだけでなく、日常の挨拶時にも大切とのこと。相手と気持ちを合わせて良好な人間関係を築くことにつながるそうです。
 「技だけでなく、教えや修練内容からも人がつながり、出会えることに魅力を感じます。生涯新しい魅力を発見し続けられ、いつまでも楽しめるのが少林寺拳法です」と川田さん。
 さらに町全体でも少林寺拳法による健康増進を図ろうと、昨年、「多度津町少林寺拳法健康体操」という体操が、町と少林寺拳法の共同開発で生まれました。まさに町をあげて少林寺拳法が親しまれています。

年に1度のだるま祭では屋外ステージで演武が行われる。金剛禅総本山少林寺で

年に1度のだるま祭では屋外ステージで演武が行われる。金剛禅総本山少林寺で

眼なおし薬師

 町の東側には、四国霊場第七十七番札所の道隆寺があります。ご本尊の薬師如来像は「眼なおし薬師」の名で親しまれ、今も眼病快癒祈願のために全国から訪れる参拝客が絶えません。
 眼病にご利益があるというエピソードは、多度津京極藩の京極左馬造に由来しています。幼少の頃に盲目だった左馬造を案じ、母親がこの寺に祈願したところ目が快癒。喜んだ左馬造は医学の道に進んで眼病治療の名医となったそうです。道隆寺には彼の墓があり、潜徳院殿というお堂となっています。
 門前のお土産屋さんでは、眼病に良いと言われる落葉樹「メグスリノキ」など薬草の入ったお茶を振る舞ってくれました。ほんのり甘いお茶でホッと一息つきました。

「眼なおし薬師」として知られる四国霊場第七十七番札所の道隆寺

「眼なおし薬師」として知られる四国霊場第七十七番札所の道隆寺

人が集う旧銭湯カフェ

 町家や蔵屋敷などの古い町並みが残る本通に、今年5月、ちょっと変わったカフェがオープンしたと聞き訪ねました。大正から昭和にかけて活躍した銭湯をリフォームしたカフェ「藝術喫茶 清水温泉」です。
 「芸術は人を表現します。いろいろな人の人生観が交わって、つながる場所にしていきたい。このカフェが、町づくりのカンフル剤になればと思って始めました」と語るのは店主の日高明道さん。
 もともと奈良県で芸術関係の仕事をしていましたが、友人が多度津町にいた縁で5年前に訪れたのがきっかけとのこと。旧銭湯に出会った時、「ここにもう一度人が集まれば、必ず地域の観光振興につながる」と確信したと言います。町中から協力と寄付を集め、半年かけて改修。オープン後は浴槽や番台など当時の銭湯の雰囲気を活かした内装が話題となり、毎月約2500人が訪れる人気スポットとなりました。
 「ふらっときた旅人がこの町に住みたい、関わりたいと思えるようなきっかけをつくりたい」と語る日高さんが次に手がけるのは、銭湯に隣接する元玩具店の改修。子どもの頃に夢の場所だった“町のおもちゃ屋さん”が、「町づくりの夢を語り合える“母屋”となれば」と話す日高さんの生き生きした姿が印象的でした。

「藝術喫茶 清水温泉」は元銭湯の雰囲気をそのまま活かした内装

「藝術喫茶 清水温泉」は元銭湯の雰囲気をそのまま活かした内装

猫の島 廃校舎をゲストハウスに

 多度津港からフェリーで小一時間の佐柳島を目指しました。周囲約6km、人口わずか80 人の離島です。
 佐柳島といえば、知る人ぞ知る「猫の島」。防波堤の隙間をジャンプする猫の様子が話題となり、全国から猫好きが訪れるようになりました。
 島で唯一の宿泊施設として昨年にオープンしたのが、「ネコノシマホステル」です。ホテルは1995年に廃校となった佐柳小学校を活用。旧校舎に残る図書室、理科室、資料室、図工室が客室として利用され、職員室は喫茶スペースに。島には飲食店がないため、観光客だけでなく島民も度々訪れます。
 廃校を宿泊施設にしようと提案したのは、大阪から移住した村上淳一さんと直子さんご夫婦です。淳一さんの父親が佐柳島の出身で、子どもの頃以来、約20年ぶりに訪れた時に廃校となった父の母校を発見。島内には他に休憩できる場所がどこにもなく、それなら廃校を活用してはどうかと思い、企画書を作りました。その熱意に打たれた町役場の職員によって話はトントン拍子に進み、村上さん夫婦はそれまで営んでいた大阪の古本屋をたたんで移住を決めたと言います。
 「何もないけど、逆に今まで当たり前だった些細なことの大切さに気づけると思います。島の水はどこからくるのかとか、月あかりの明るさとか。地球に暮らしている感じがしますよね」と淳一さん。その言葉通り、夜、波の音だけがこだまする教室で月あかりに照らされていると、それまでの自分がリセットされるような不思議な感覚になりました。
 「朝、目覚めたら教室にいる」というのも実に不思議な気分。いつしか心は小学生の頃にタイムスリップし、幼い頃に感じていたワクワク感が蘇るようです。
 ノスタルジーあふれる多度津町で、みなさんも大切な何かを思い出してみてはいかがでしょうか。

「ネコノシマホステル」オーナーの村上淳一さん(左)、直子さんご夫婦

「ネコノシマホステル」オーナーの村上淳一さん(左)、直子さんご夫婦

たくさんの猫が迎えてくれる佐柳島は、全国の猫好きが集まる人気スポット

たくさんの猫が迎えてくれる佐柳島は、全国の猫好きが集まる人気スポット

オリーブ園から見た多度津の町並み(多度津町地域おこし協力隊 日根野太之提供)

オリーブ園から見た多度津の町並み(多度津町地域おこし協力隊 日根野太之提供)

■次回は沖縄県読谷村です。


まちのデータ

人口
2万3455人(2018年10月現在)
おすすめの特産品
オリーブ、白方ぶどう、牡蠣
アクセス
高松空港から車で約50分
JR岡山駅から電車で約50分
連絡先
多度津町政策観光課 0877-33-1116

いつでも元気 2018.12 No.326

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