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2018年11月30日

外国人労働者の実態 
技能実習生問題から

文・新井健治(編集部) 写真・牧野佳奈子

 コンビニをはじめ、最近はさまざまな職場で外国人の姿を見かけるようになった。
 今や日本では約128万人の外国人が働き、その数はここ5年で倍増。
 日本人が敬遠する過酷な職場も多く、賃金未払いや違法残業も少なくない。
 今国会で議論されている外国人の働き方について、うつ病から自殺未遂を起こし、民医連の精神科医が診療する中国人女性の例から考える。

 「私は一生懸命働きました。でも差別やいじめ、パワハラで身も心も壊した。夢を持って来日したが、もう二度と日本には来たくない」─。涙ながらに訴えるのは、中国人の史健華さん(35)。昨年8月に飛び降り自殺を図り、一命はとりとめたものの腰の骨など3カ所を骨折。今も病院のリハビリに通う。
 史さんは2015年1月に外国人技能実習生(以下・実習生)として来日、静岡県富士市の製紙工場で働いた。実習生の受け入れは日本の「国際貢献」を建前にしているが、実態は外国人の“出稼ぎ”を容認する制度。あまり知られていないが、日本社会は実習生をはじめ、海外の安い労働力なしには成り立たなくなっている。
 史さんは「豊かな日本に行けばたくさん仕送りができる」と、幼い子どもと夫を故郷の湖北省に残し単身海を渡った。渡航前は「1カ月の手取りで20万円」と聞いていたが、実際は10万円しか支払われなかった。
 職場では「あなたは中国人。日本人の命令は全て聞け」と、上司からきつく言われた。仕事でミスがあると史さんだけが叱責され、私語も許されなかった。
 史さんは来日のため、中国の実習生送り出し機関に日本円で約60万円もの借金をしてきた。「このまま中国に帰ることもできない」「何かを訴えたくても日本語でうまく表現できない」と絶望感にとらわれた。
 昨年8月、同じ職場で実習生同士の殺人事件が起きた。史さんは午前2時までの夜勤もあり、その日は一人で寮まで帰宅する。怖くなり上司に相談したが、取り合ってもらえなかった。
 度重なる差別やいじめ、職場の異動も許されず、逃げ場を失った史さんは発作的に自殺を図った。現在は病院にかかりながら、うつ病の労災を申請中。会社が認めなければ裁判になる可能性もある。

外国人技能実習生
 外国人技能実習制度に基づき来日する。同制度は、途上国への技術移転による国際貢献を旗印に1993年に始まった。実態は人手不足に悩む中小企業や農業、漁業の現場で、ベトナム、中国、フィリピン、インドネシアなど約26万人が働く。滞在期間は最長5年で職場の変更も家族の帯同もできない。送り出し機関と日本の監理団体を経て採用される。

涙ながらに訴える史健華さん(右)と甄凱さん

涙ながらに訴える史健華さん(右)と甄凱さん

「まるで“女工哀史”の世界」

 今年2月から精神科医として史さんを診療しているのが、すこやか診療所(岐阜民医連)の遠藤嶺医師。「職場のことを思い出すと、辛い体験がフラッシュバックして夜も眠れなくなる。うつ病とPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状です」と指摘する。
 トラウマの治療には、会社がきちんと謝罪し史さんが自身の尊厳を回復することが必要だ。「史さんは何も悪くない、会社の不当な扱いで病気になった」ということを明らかにするため、遠藤医師は労災申請用の診断書を書いた。
 最近の新聞報道でも明らかになったが、実習生の中には自殺をしたり過労死する人も毎年、複数いる。「低賃金で差別的な処遇がまかり通っている。これは人権問題です」と遠藤医師。
 同様にすこやか診療所で実習生を診療する渡邉貴博医師も「まるで“女工哀史”の世界。実習生は職場を変えることもできず、不満を言えば『帰国させる』と脅かされる。現代の奴隷制度とも言える」と指摘する。
 渡邉医師が診療した22歳の中国人女性は岐阜県の縫製業に就職。1日14時間を超える長時間労働にもかかわらず、手取りは月にわずか1万円。うつ病を発症したが、会社側の弁護士は「技能実習生だから問題ない」と主張した。
 この女性は労災申請前に、会社側が提示した示談金を受け取り帰国してしまった。渡邉医師は、「中国の抗うつ薬は健康保険制度がないため高額で、帰国後の治療継続は難しいのではないか。本来はきちんと治療してから帰国させるべきだが、本人の帰国の意志が固かった」と話す。

時給300円で178時間残業も

 史さんを支援するのは※「外国人労働者救済支援センター」所長で中国人の甄凱さん。「14年前から実習生の相談を受けているが、状況は全く改善していない」と話す。先週もカンボジアの実習生4人が駆け込んできた。4人は岐阜の縫製業で働き、時給300円で月平均178時間の残業をしていた。
 甄凱さんは1986年に日本の大手企業の通訳として来日。中国人の相談を受けているうちに、本格的に支援に乗り出した。
 賃金未払いのまま会社を偽装倒産させ、別の場所で再び実習生を雇う企業や、就業中のけがの治療をしないで帰国させる会社もある。「実習生を受け入れているのは日本の中小企業が多い。会社に労働組合がなく、奴隷のような働かされ方をしている実習生も少なくない」と指摘する。

岐阜羽島駅前にある外国人労働者救済支援センター。シェルターになっており、外国人技能実習生が助けを求めて駆け込む

岐阜羽島駅前にある外国人労働者救済支援センター。シェルターになっており、外国人技能実習生が助けを求めて駆け込む

外国人なしに成り立たない

 なぜ、史さんのようなケースが起きるのか。日本では医師といった専門職や大学を卒業した“高度”な人材でなければ、就労目的での在留資格は得られない。農業や漁業、製造業など、いわゆる「単純労働」の在留資格は認めておらず、その抜け穴として始まったのが外国人技能実習制度(以下・実習制度)で、主にサービス業で働く外国人留学生と併せて日本の労働現場を支えている。
 単純労働を認めない背景にあるのは「外国人が増えると治安が乱れる」といった偏見だ。日本政府はいっさい移民を認めず、移民につながりかねない単純労働を今まで認めなかった。
 「実習制度は建前で国際貢献を掲げているために、労働者としての基本的な権利が確立されていない企業もあり人権侵害の温床になっている」と指摘するのは、「外国人技能実習生問題弁護士連絡会」の針ヶ谷健志弁護士(東京・五反田法律事務所)。
 今、日本人の衣食住を支える職場は、少子高齢化で深刻な人手不足に悩んでいる。募集をかけても日本人の応募がないため、既に実習生なしには成り立たない職場も多い。
 ところが、実習生は実習という名目のために職場を異動できない。来日前に多額の手数料を払っているケースもあり、就労先で酷い扱いを受けても簡単に仕事を辞めることができない。そこにつけ込み劣悪な条件で実習生を使う雇用先もある。
 針ヶ谷弁護士は「実習生は母国の送り出し機関と日本の監理団体の双方に搾取されるため、構造的に低賃金になる」と指摘。「もはや制度自体が破綻している。廃止しない限り問題は解決しない」と言う。
 実習制度は昨年11月に法改正され、滞在期間は最長5年に延び介護職の受け入れも始まった。さらに10月24日に始まった臨時国会では、新たな在留資格の法案も提出された。新資格は滞在期間を5年として、事実上単純労働を認めるが、労働者に対する支援の具体策など不透明な点も多い。
 針ヶ谷弁護士は「もはや日本社会は、外国人がいなければ今の生活を維持するのは無理な段階に来ている。政府は社会統合政策をきちんと示し、多様な国の人々が共生できる社会をつくるべきだ」と話す。

針ヶ谷健志弁護士

針ヶ谷健志弁護士

外国人留学生
 日本語学校への通学を名目に出稼ぎに来る外国人が増えており、コンビニや飲食店でよく見かける。約30万人おり、実習生と同様、多額の借金を背負って来日する人もいる。日本語学校の授業料を支払うため、アルバイトを掛け持ちしているケースが多い。

新たな在留資格
 名称は「特定技能」で介護、農業、漁業、建設、食品製造など事実上、単純労働での在留資格を認める。技能の熟練度に応じて1号と2号に分かれ、1号は最長5年で家族の帯同は原則不可。2号は家族帯同が可能で在留期限は更新制。今国会で法案が通れば来年4月に導入される予定。


※外国人労働者救済支援センター 
問い合わせ先 甄凱さん(090・8496・9668)
FAX:058・257・1783 メール:kenkaiok@yahoo.co.jp

いつでも元気 2018.12 No.326

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