いつでも元気

2006年1月1日

特集2 あなたも100歳まで生きられる 稲垣亭三河の健康法 人間本来の寿命は120歳

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稲垣元博
東京・芝病院名誉院長

不養生しちゃいけねえなあ

 熊吉 先生、明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしく。
 医者 おお、熊さんかい。明けましておめでとうはいいが、医者に対して、本年もよろしくなんて縁起でもないね。
 熊吉 だって先生、こりゃあ、正月のあいさつだ。セット販売なんだからしょうがないでしょう。

もうすぐ米寿の祝い

 医者 おまえさんはもう忘れているかもしれんがな、今を去ること六年前、元日に一升酒をくらい、雑煮を五杯も食って、胃けいれんを起こしたことがあったろう。苦しがって、真夜中に私をたたき起こしたな。
 熊吉 あーそういえば、そんなこともありましたっけねえ。
 医者 ありましたっけねえとは恐れ入ったね。あのときはな、私の「姫始め」の真最中で、私ぁひどい目に合ったんだぞ。
 熊吉 何です、その「姫始め」というのは。
 医者 昔の人は一年の最初の夫婦の交わりのことを「姫始め」というてな、今年一年の最初の楽しい儀式として尊重したものだ。その儀式の最中におまえさんの横やりが入ったものだから、それがつきについて、あの年は夜中の往診で一二回もたたき起こされた。うらみ骨髄だったな。
 熊吉 ひでえ話だな。他人の往診までおいらのせいにされちゃあたまらねえや。ところで先生の誕生日はたしか一月でしたよね、いくつにおなりですかい。
 医者 一月一四日だから、すぐ満八七歳じゃな。昔流の数え年でいえば「八十八歳」だ。
 熊吉 米寿ですか、驚いたなあ。医者の寿命てえのは普通の人より、一〇年短いのが相場なんでしょ。
 医者 そうなんだ。医者の不養生、紺屋の白袴といってな、早く死ぬやつが多い。日本の男性の平均寿命は七八歳だから、それより一〇年も余分に生きてしまったことになるな。
 熊吉 一緒に卒業した医学部のお仲間はどうなんです。
 医者 毎年東京駅のステーションホテルでクラス会をやっているが、卒業のときは一二〇人(戦死してしまったのも三~四人いるが)、去年出席したのは一二人、一割だったな。
 熊吉 先生がそのなかの一人とは恐れ入谷の鬼子母神だ。ところで先生は、とっくに定年を過ぎているのに、まだ週に一日、自分が始めた病院で診察しているんですって?
 医者 うん、私には、創立以来の患者が何人もいてな、しわくちゃの恋人たちだ。月曜日に半日だけ、ドクターボランティアとして無給で診察だけさせてもらってるんじゃよ。
 熊吉 へえー、民医連にはドクターボランティアなんてえ医者がいるんですかい。それより先生、このところ講演と落語で、全国を飛び回っているというじゃありませんか。

一年で90回こす講演

 医者 熊さんにまでばれてるのかい。実はな、「あなたも一〇〇まで生きられる」という講演 と「オッパイは成功のもと」というドクター落語の二本立てで、南は九州の鹿児島から北は仙台まで、日本中を股にかけて、飛び歩いているよ。さきおととしは 九八回、一昨年は九五回、去年は九六回だった。四日に一回、テレビタレント並みの忙しさだな。
 熊吉 あなたも一〇〇まで生きられるぅ? 人間の寿命ってやつは、どんな名医でも予測できねえ。自分が一〇〇歳をこえてからならともかく、八六歳で、そんな講演をするなんて、まるで怪しげな新興宗教の教祖様みたいじゃあありませんか。

肝心なのは予防だよ

 医者 そもそも医学というものはな、病気になってからの治療医学では手遅れだ。病気になら ないような予防医学が大切なんじゃ。病気にかかっても、軽いうちなら早く治せる。体のしくみや病気についての話を五〇年間に三〇〇回以上もやってきて、そ の間、患者のみなさんから教えられた健康法を集大成したら、「あなたも一〇〇まで生きられる」という題名になってしまったんだよ。
 さすがの私もいささか後ろめたい思いもあったんだが、〇二年の九月三日の朝日新聞に「不老学のすすめ」という論文が掲載されてな。東京都立大塚病院の後 藤眞さんというドクターの論文だ。これを読んで、私ゃ飛び上がるくらい驚いた。
 熊吉 へーえ、いったい何て書いてあったんですかい。

最先端をゆく不老学

 医者 本来人間は、一二〇歳まで生きられることになっている。それなのに、不養生をするか ら早死にするのだというんだよ。最近、日本をはじめ世界各国で、不老学(老年学または抗加齢学)という専門分野ができてな、二~三年前に学会もできた。不 老学は、今や世界の最先端をゆく学問となっているんじゃよ。
 そしてな、一〇〇歳まで生きるにはどうすればよいかという処方せんまで書かれていた。驚いたってえのはな、その処方せんに、私がしゃべっていることがみ んな含まれていたからなんだよ。私もいっぺんに自信がついて、堂々と話せるようになったな。おまけに角川書店から出した『一〇〇歳までの上手な生きかた』 という新書判(七〇〇円)も、二〇〇二年の初版一万三二〇〇冊はたちまち売切れ。いま第三刷を増刷中なんじゃよ。
 熊吉 へえー、先生みたいなやぶ医者の本がねえ。
 医者 マスコミの力とは恐ろしいな。私みたいなへっぽこ医者が、ここまでもてるようになるとはな。
 熊吉 それじゃあ先生、その講演のさわりだけ、ちょっぴり披露しておくんなさい、お年玉だと思ってさ。
 医者 よーしきた。ほかならぬ熊さんの頼みだ。一時間半かかってしゃべる講演のポイントだけ、ちょこっと教えてやろうかな。
 熊吉 こいつぁありがてえ。

「元気で長生き」の処方せんは…

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講演は身振り手振り

「八・八・八の原則」で

 医者 うむ、耳の穴をほじくって、よーく聞いて帰るんじゃよ。
 一、一日の労働時間は八時間(実働七時間)、それ以上の残業はしてはいかん。最近の日本では無茶な残業で、過労死が増えておる。それなのに政府は昨年、総労働時間年一八〇〇時間という短縮目標を撤廃してしまった。不届き千万じゃ。
 二、睡眠は、一日七~八時間とる。熊さんが自覚しなくても、脳は一日中、働きづめでな、脳を休ませ、活性化させることが必要だ。午後一〇時にベッドに入るのが理想的だな。
 三、休養。一日八時間は、食事や入浴、運動をふくめたリラックスの時間にする。
 つまり「八・八・八の原則」だ。この生活リズムが、まず肝心だな。
 四、食事は、一日三〇品目の食材をバランスよく食べるよう心がける。とくに気をつけたいのは、血管を硬くする悪玉のコレステロールが多い豚肉や牛肉の脂身をさけ、善玉のコレステロールが多い青背の魚を食べることだ。

リハビリに吸殻拾い

 五、入浴は三七度~四〇度のぬるめのお湯に二〇分くらいかけてゆっくり入る。心臓の悪い人は、胸の下まで湯につかる半身浴がいい。
 入浴の効用はたくさんある。湯の浮力によって重力から解放され、筋肉の緊張がほぐれる。神経が静まり寝つきがよくなる。血行がよくなり新陳代謝を高め る。水圧による筋肉へのマッサージ効果もある。
 寒い脱衣場は、血管が急に縮んで血圧を上げる。電気ストーブをいれるか、入浴する三〇分ほど前に浴槽のふたをとっておき、脱衣場を温かくしておくといいな。
 六、運動は一日一万歩歩くのが理想だ。少なくとも一日三〇分でよいから戸外を歩く。できれば速足でな。
 私は冬のスキーに備えて、足を鍛えるために毎日一万歩歩き、心臓のトレーニングのために階段を二〇〇段歩いて上り、平衡感覚を養うために歩いて下りる。 それからな、腰痛のリハビリとして、毎日タバコの吸殻を一〇〇本拾って歩いておる。
 朝起きがけの散歩や運動はいかんな。寝ている間は水分補給をしないから、朝の血液はドロドロしていて脳卒中の危険性が高い。朝は九時以降、午後は日差し の強い時間は避け、三時以降にするのがいい。また、水分補給を忘れないようにな。
 七、趣味。何でもよいから、心から楽しめる趣味を持ち、それをとことん死守することだな。老化を防ぎ、認知症の予防になる。
 寝たままでテレビを見ているのは「百害あって一利なし」だ。音、形に色までついて、自分で想像力を働かせる必要がない。一日中みていたらすぐにボケる。 ラジオを聞きながら手を動かした方がいいな。
 八、お酒はほどほどならよいがタバコはダメ。タバコは害だけだ。
 九、年に一回以上、健康診断か、人間ドックを必ず受ける。
 とまあ、こんなところじゃな。

世直しは健康のもと

 熊吉 なーるほど、これはすばらしい健康法だ。これを全部やり通せれば、医学的には、一〇〇まで生きられるかも知れねえな。だけどよ、今の小泉内閣の老人いじめ、国民いじめの政治では、病気になったら金がなければおしまいだよ。
 医者 そうなんだよ。今の日本じゃあ、金の切れ目が命の切れ目。地獄の沙汰も金次第、じゃな。
 熊吉 てやんでえ。残業だって好きでやってるわけじゃあねえや。八時間寝て八時間休養しろなんて健康法じゃあ、おいらには絵に描いた餅じゃねえか。
 医者 千里の道も一歩から。できることから始めなさい。熊さんや、まずは政治を変える世直しこそが健康のもと、じゃな。

写真・酒井猛

いつでも元気 2006.1 No.171

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