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2019年1月31日

けんこう教室 
腰部脊柱管狭窄症

京都民医連中央病院 村上純一

京都民医連中央病院
村上純一

 外来で「腰部脊柱管狭窄症」と書いて、画像資料とともに患者さんにお渡しすると、「長い名前の病気ですね!」と驚かれることがあります。今回はこの腰部脊柱管狭窄症について説明します。
 私たちの体を支えている背骨(脊柱)は、椎骨が積み重なって構成されています。上から頚椎、胸椎、腰椎、仙骨と呼ばれます()。背骨の中には、脳へ繋がる太い神経(脊髄)が通っており、その通り道を脊柱管と呼びます。加齢に伴い、背骨が変形するなどして脊柱管に狭いところ(狭窄)ができると、神経や血管が圧迫されてさまざまな症状が出てきます。狭窄が腰部(腰椎)にできるのが、腰部脊柱管狭窄症です。
 その他の部位にできるものと合わせて、脊柱管狭窄症の種類と主な症状を表にまとめました。脊髄は脳と合わせて体を動かす中枢神経系に区分され、非常に脆弱な組織です。損傷を受けると最も回復しにくい組織のひとつとされています。
 日本人は欧米人に比べて脊柱管狭窄症を多く発症します。それは日本人の脊柱管が狭いこと、骨粗鬆症が多いこと、加齢に伴う背骨の不安定さなどが原因と考えられています。

 


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症状

 腰部脊柱管狭窄症の代表的な症状として、若い頃のように長い距離を歩けなくなる場合があります(間欠性跛行)。少し休むとまた歩けますし、日によって距離や時間に波があるのが特徴です。歩くのがおっくうになりますが、自転車なら長距離を続けて乗れたり、買い物のカートを押せば比較的長く歩ける例もあります。
 その他、いわゆる坐骨神経痛の症状と同じように、歩くと強い神経痛や痺れが出ます。足の底がザリザリする、左右下肢で風呂の湯の温度が違うと感じるなどの違和感(感覚障害)が出たりもします。足首や足指を上げることができない垂れ足(下垂足)が起こると、より転倒しやすくなります。
 さらに悪化すると、排尿や排便のコントロールができなくなることもあり(膀胱直腸障害)、緊急に治療が必要です。
 筋力低下や下肢脱力などから何度も転倒すると、骨折や神経症状の悪化で歩けなくなる危険性が高まります。複数個所に狭窄がある場合には、症状もさらに重篤かつ複合的になることがあります。

検査・診断

 年を重ねるとだんだん背中が曲がって歩きにくくなり、転倒しやすくなるため杖を使うようになる…というのは、エジプトのスフィンクスの謎かけにも登場します。20世紀になり医学が発展する中で、その原因のいくつかは診断・治療できるようになってきました。
 問診と身体診察でどこが悪いのかを絞り込み、検査として単純レントゲン、CT、MRI、脊髄造影などを行います。
 まず単純レントゲンで、背骨の形態や位置の異常を把握します。必要であればより詳細な放射線検査としてCTを行います。また脊髄など神経組織を診るには、磁気を用いたMRIが特に有用です。MRIが撮影できない場合や、手術を前提とした場合に、脊柱管内に造影剤を注入して背骨を動かして診る脊髄造影を行うことがあります。

治療・手術

 下肢の痺れのみなど症状が軽めの場合は、まずは薬物治療やコルセットを用いた保存加療を行います。
 現在は痛み止め、痺れ止めなど複数の薬が市販されており、それぞれ効能の異なる薬を数種類カクテルのようにあわせて使用する場合もあります。さらに、場合によってはブロック注射、筋力トレーニングを行います。
 上記を行っても改善が乏しい場合や緊急を要する場合には、手術を検討します。
 手術には古典的な方法から、最新の機械を使った方法までさまざまな種類があります。 一般的には不安定になった背骨を金属螺子で補強する方法と、骨を削り狭窄部位の神経圧迫を取る方法が、患者さんの状態に合わせて選択されます(表参照)。
 近年では手術顕微鏡や内視鏡を用いた、微細で精緻な手術が行われています。
 脊椎脊髄病学会の認定を受けてトレーニングを積んだ医師だけが実施できる手術も登場しています。

予防

 加齢による背骨の変化を防ぐのは難しいのですが、日頃から運動して筋力をつけておくことが重要です。腹筋と背筋を含む体幹・下肢筋力を落とさないようにしましょう。私見ではありますが、1日最大8000歩程度の歩行を目標にすると良いかと思います。ヨガなどの高度な柔軟体操は、無理せず控えめにしたほうが良さそうです。
 また、骨粗鬆症にならないように注意することも大切です。転倒や骨折を避け、内臓に負担をかけない範囲でバランス良く栄養を取ります。
 また、労働や姿勢の悪さなどによる背骨への負担を減らすように心がけてください。一般に寒くなると症状が悪化するため、体を冷やさないように心がけましょう。

最後に

 この病気は、加齢によって60歳代以降に見られることが多い病気です。高度経済成長期を青壮年として過ごし、仕事や子育てを終えて「いよいよこれから」という時に、足腰の痛みや痺れという形で襲ってきます。体の他の部分は元気でも、移動や運動に支障が出てしまうと、生活を十分に楽しむことができなくなってしまいます。
 残念ながら〝若返りの魔法〟はまだ開発されていません。ただ、この病気については、薬物治療・注射・手術・リハビリテーションを有機的に複合して、保険診療の範囲でできる限りベストの治療を多職種多院所で連携して行うことが可能な時代となりました。
 「まだまだ元気に過ごしたい」「もっと自分で歩きたい」…その想いに寄り添う形でできる限りの医療をお届けしたいと思います。そのために私自身、資格を取得し、国内や国外へも出向して研鑽を続けてきました。これからも患者さんと向き合い、地域の健康寿命延長に資すべく、精進を重ねていきたいと思います。


早めに相談を

 腰部脊柱管狭窄症は「ただの骨の病気」というよりも、むしろ神経系の病気の側面が強く、加齢による身体変化も相まって複雑な病態を呈します。
 我慢せず、一定の段階で手術を含めた治療を検討することが重要です。
 歩けないほど悪くなってしまってから治療や手術を受けても、回復しきれない例も多く、また手術後の筋力・バランストレーニングなど、全身状態の向上に時間と努力が必要となります。

いつでも元気 2018.2 No.328

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