いつでも元気

2006年2月1日

特集2 股関節の骨折と病気 体重を支える大事な関節

日頃の運動で骨と筋力を強くして

図1 正常な股関節
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 股関節は、人間の体重を支える骨盤と下肢をつなぐ大事な関節です。この股関節にケガをしたり病気になると、歩行に障害が起き、日常生活が大きく制限されてしまいます。
 股関節の病気にはいくつかありますが、ケガにより発生する大腿骨頚部骨折・大腿骨転子部骨折、股関節の代表的な病気である変形性股関節症と大腿骨頭壊死 症、子どもに発生する股関節の病気を紹介します。

大腿骨の頚部骨折と転子部骨折
 ――高齢者は転ばないよう注意を

 図1は正常な股関節の図です。高齢の方が転んだときに、股関節を打ったりひねったりして、大腿骨が骨折することがあります。骨折した場所により「頚部骨折」と「転子部骨折」に分かれます。

■運動機能を保つために手術
 治療法は、手術をおこなうことがほとんどです。多くの方が高齢者なので、なるべく転倒前の運動機能を保つために手術することになります。
 骨折した場所や骨のズレ方によって、金属のネジを2~3本打って骨折部を止めたり、さらに大きな金属製の材料を使ったり、骨折した骨頭をはずして人工骨 頭(金属とポリエチレンでできている)に置き換えたりします(図2)。
 以前は手術後、1カ月近くベッド上で安静にしたり、手術した脚に体重をかけないことが必要でしたが、現在では手術後も比較的早期に体重をかけ、立つ練習 を始めることが多くなっています。脚を使わないでいると筋力が衰えるので、早めにリハビリをして、受傷前と同じ程度まで運動機能が回復できるようになって きています。
 ただし脳梗塞による麻痺などで筋力が低下していたり、体幹のバランスが悪かったり、認知症があったりすると、運動機能が受傷前のレベルには戻りきらない こともあります。その際は自宅を改修してバリアフリーにする、手すりや足台を設置する、ヘルパーなどの援助を得て介護力をアップするなどの検討も必要で す。

図2 大腿骨頚部骨折・大腿骨転子部骨折に対する手術
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図3 変形性股関節症の進み方
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図4 変形性股関節症に対する骨切り術

骨盤(臼蓋)側の骨切り術
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大腿骨側の骨切り術
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■何といっても予防が一番
 頸部骨折や転子部骨折は、どう治療するかということよりも、「どう予防するか」がポイントです。骨自体を強くし、骨粗しょう症を改善することと同時に、 筋力の強化、体のバランスの維持などが必要で、運動と食事、日光浴が大事です。
 運動は、筋力の強化はもちろんですが、骨を刺激したり骨が体重を支えることで骨量を増加させる効果があります。1日30~60分のウオーキングを日頃か らおこなうことが重要です。
 食事では、日本人に不足しているカルシウムをとりましょう。
 日光浴は、紫外線を浴びることでビタミンDを活性化させ、カルシウムの吸収を促す働きがあります。夏なら木陰で30分ほど、冬なら顔や手に1時間ほど浴 びれば十分です。ガラスごしだと紫外線が届きにくく、効果は弱まります。
 住まいの面からの転倒防止には、廊下と部屋、風呂場などの段差をなくすことです。ちょっとしたじゅうたんの厚みや電気器具のコードでも足を引っかけ、転 倒する原因となります。
 廊下やトイレ、風呂、玄関などには手すりをつけ、腕でも体を支えて、転ばないようにします。照明も十分明るくし、足下や手元などをしっかりと照らすもの にしましょう。
 床から立ち上がることが困難になると、ベッドやいすの生活が便利ですが、布団の上げ下ろしや立ち上がりに不安がなければ、あえて洋風にする必要はありま せん。
 むしろ和風の生活の方が足腰のためにはよいのです。日本人が欧米人よりも大腿骨の骨折が少ないのは、足腰に一定の負荷がかかる生活をしているためではな いかともいわれています。

変形性股関節症
 ――乳幼児健診などで大幅に減

 文字どおり、股関節が変形する病気ですが、変形性ひざ関節症と違って、乳・幼児期に原因があって発症することが多い病気です(図3)。
 原因の多くは、出生時の先天性股関節脱臼や、大腿骨頭を覆う臼蓋の形成が不十分なために起こります。これらは日本人に多く、生まれつき脱臼していたのに 見逃されていたとか、乳児期のオムツのあて方が悪かったなど、さまざまな理由があげられています。

 最近は乳幼児健診などで早期に発見され、適切な治療がおこなわれていることや、オムツのあて方の教育(膝を曲げ、股を開いた姿勢でのオムツ指導)がすすみ、発生自体は以前の10分の1に減っています。

■骨切り術か人工関節で
 青年期には症状がないことが多いのですが、30~40歳ごろに股関節の痛みが出現することがあります。痛みが出始めのときは変形の比較的少ない初期、ま たは進行期です。変形の進行を遅らせる目的で、骨盤側か大腿骨側、またはその両方の骨を矯正する手術(骨切り術)をすることがあります。骨切り術は、人工 関節と異なり、関節がうまく合えば関節の再構築が期待されます(図4)。
 不幸にも変形が進行してしまった場合、現在は人工関節に置き換える手術しか方法がありません。関節面の軟骨がすり減り、骨が変形してしまうと、元に戻す 薬やリハビリがないためです。手術では骨盤側と大腿骨側の両方を人工物に置き換えることで、痛みを軽くします(図5)。
 人工関節は年々改良が進み、耐久年数も15年以上と改善してきていますが、永久に大丈夫とはいえません。また少数ですが、感染や脱臼など手術後の合併症 を起こす場合もあります。そのため、手術は専門医の十分な説明を受け、合意した上でおこなうことが必要です。

図5 人工股関節置換術
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図5 人工股関節置換術
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骨頭壊死のため形が崩れかけた骨頭(左脚)
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健康な骨頭。きれいに丸く形が整っている(右脚)

■筋力の訓練と減量で
 変形性股関節症と診断されたときは、変形の進行を極力防止するために、股関節周囲の筋力の訓練をおこないます。体重を支える関節なので、減量にも気をつ けます。体重が1礰増えると、股関節にかかる負担は3~5礰増えるといわれ、わずかな体重増加も大きな負担となるのです。
 歩行時には取っ手が「T字」になった杖を使います。杖を使うと、股関節にかかる負担を、自分の体重ほど軽くできるという報告もあります。動き始めや立ち 上がりに痛みを感じる場合には、10回ほど股関節を動かしてから立つようにするとよいでしょう。靴はクッションが柔らかく、かかとが低いものを選びます。 症状が安定しているときは、30~60分くらいのウオーキングも有効です。舗装道路はなるべく避け、芝生や土の上を歩きましょう。坂道、階段、砂利道など はゆっくり歩きます。

大腿骨頭壊死症
 ――比較的若い人に多い病気

 大腿骨頭の細胞が死んでしまう病気です。大部分は原因不明ですが、膠原病や白血病などでステロイド剤(副腎皮質ホルモン)を使ったことがある場合や、大量飲酒、外傷、潜函病(ヘルメットの中を高圧にしておこなう潜水作業などで起きやすい)が原因となることがあります。
 ステロイド性では20歳代、アルコール性では40歳代が発症のピークです。膠原病は女性が多く、大量飲酒は男性が多いことから、女性にステロイド性、男 性にアルコール性が多い傾向があります。
 最初に股関節の痛みが出て、次第に股関節の動きが悪くなり歩きにくくなります。かなり初期の段階ではレントゲンでははっきりわからないことがあります。 その場合は、骨シンチグラム(わずかな放射線を出す薬を体内に投与してX線で撮影)や、MRI(電磁波により撮影)で早期診断をおこなうことがあります。 ある程度進行すると、レントゲンでも容易に診断できます(図6)。

■手術方法は厳密に検討して
 手術以外では、変形性股関節症の場合と同じく、筋力訓練や減量をします。ただしこの病気は、一度発生すると治らないため、壊死した骨頭の範囲と場所、患 者さんの年齢などにより治療法を決定します。
 骨頭に十分正常な部分が残っている場合には、正常な部分に荷重がかかるように切り取った骨頭を回転させ、再度接合させる手術をおこないます(図7)。骨 頭の壊死が広い範囲におよぶ場合は、人工関節に置き換えます。
 比較的若い患者さんが多いため、手術方法は厳密に検討します。

子どもの股関節の病気

■化膿性股関節炎
 生後2~3日から数週間以内に発症します。細菌が関節内で炎症を起こし、全身が発熱したり、不機嫌になったりします。さらに悪化すると股関節部が腫れま す。関節内の細菌を早く体外に出すことが必要です。針を刺したり、手術室で股関節を切開するなどします。

■ペルテス病
 成長して骨頭になる骨端核が原因不明の血流障害を起こし、骨頭が壊死する病気です。多くは6歳前後の男児に発症します。
 症状は股関節の痛みと、それによる歩行障害です。「ひざが痛い」という子もいますが、これも股関節の痛みが原因です。股関節からひざに向けて大腿神経と いう大きな神経が通っているためです。開脚を保つ装具を使って治療すれば、次第に骨頭は修復されます。初期に治療方針を誤ると骨頭の変形や変形性股関節症 に進むことがあり、注意が必要です。

■単純性股関節炎
 症状はペルテス病とよく似ています。3~4歳から小学校低学年の子どもに発症します。風邪の後に発症することが多く、化膿性股関節炎と違い、細菌ではな くウイルス性ではないかといわれています。レントゲンや超音波検査で、関節液がたまっていることが確認できます。
 ほとんど片側だけに起き、1週間ほどの安静で症状は自然によくなります。1カ月ほど続く場合はペルテス病などの可能性がありますので、再度受診した方がよいでしょう。

■大腿骨頭すべり症
 骨端核が大腿骨からすべる(はずれる)病気です。主に肥満傾向のある思春期の男児に発生します。レントゲンで確認できますが、治療方針はCTやMRI検 査で決定します。手術しないと改善しない可能性が高いため、骨端核と大腿骨とをネジやピンで止めます。

図6 大腿骨頭壊死の進展
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図7 大腿骨頭壊死症に対する手術
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図8 子どもに発症する股関節の病気と出やすい年齢
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いつでも元気 2006.2 No.172

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