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2019年7月5日

特集 
オリンピック選手村疑惑

文・写真  片岡伸行(記者)

 2020年の東京オリンピックまであと1年。
 東京都中央区晴海に建設中の「選手村」をめぐり、住民訴訟が起きている。
 広大な都有地が公示地価の10分の1という激安価格で五輪後に売却されるためで、住民は「大手デベロッパーより都民の生活を優先してほしい」と訴える。
 記憶に新しい森友学園疑惑では国有地が8割引きで売却されたが、それをはるかに上回る“選手村疑惑”が浮上している。

 東京・銀座から約3km、都心の超一等地「晴海」。東京湾を望むウオーターフロントには高層の億ションが建ち並ぶ。晴海地区の今年の公示地価は「1平方メートル当たり142万5000円」。庶民には高嶺の花だ。

東京・銀座から約3km、都心の超一等地「晴海」。東京湾を望むウオーターフロントには高層の億ションが建ち並ぶ。晴海地区の今年の公示地価は「1平方メートル当たり142万5000円」。庶民には高嶺の花だ。

公示地価の10分の1

 東京都は2016年、晴海5丁目の13万3900平方メートル(東京ドーム3個分)の都有地を、三井不動産レジデンシャルなど大手デベロッパー(開発企業)11社に「1平方メートル当たり約9万7000円」(総額129億6000万円)で譲渡・売却する契約を結んだ。この価格は周辺の同じようなマンション建設用地と比べても驚くほど安い()。ハンコを押したのは、その年の8月に“都民ファースト”を掲げて当選した小池百合子知事である。
 16年当時の公示地価は「1平方メートル当たり95万円」なので、約10分の1の単価。ここに選手村(21棟3800戸)を建設、五輪終了後にはリニューアルして高級マンションとして分譲・賃貸される。「晴海フラッグ」として、マンション内覧会の様子がマスコミをにぎわせたので見覚えのある人もいるだろう。
 東京23区内に1平方メートル当たり9万7000円で買える土地などない。不動産業者によれば、その価格で買えるのは都心から西へ50km以上離れた多摩地域の奥の方だけだ。
 不当な激安価格で“デベロッパーファースト”ではないかと、17年5月に住民監査請求が出されたが、東京都監査委員会は棄却。そこで同年8月、「晴海選手村土地投げ売りを正す会」(中野幸則会長ら33人)が、小池知事を被告に住民訴訟を起こした。

2つのカラクリ

 選手村開発をめぐる疑惑には、大きく2つのカラクリがある。まず、選手村建設は「都による個人施行の市街地再開発事業」として実施されている。そもそも「再開発」とは老朽木造建築物が密集する地区で、街路や公共建築物などを整備する手法だ。しかし、晴海は2000年ごろから更地だった。「更地を再開発」というのもおかしな話で、実際、都内でこのような再開発事業の前例はない。
 また、通常の市街地再開発事業であれば、複数の地権者に「権利変換」という手続きが必要になり、その作業に1、2年はかかる。ところが晴海の場合、「地権者・認可権者・施行者」がいずれも東京都であるため、申請からすべての認可完了までわずか4日。都が“1人3役”をこなし、異例のスピードで手続き完了となった。
 「正す会」事務局長で元都職員の市川隆夫さんが国土交通省に確認したところ、地権者と認可権者、施行者が同一の市街地再開発事業は全国でも例がないという。
 地方自治法237条は、公有財産を処分する場合、〈適正な対価なくしてこれを譲渡し、若しくは貸し付けてはならない〉と定める。東京都は条文に合わせ、公有財産の処分価格が適正かどうかを審議する「財産価格審議会」を条例によって設置している。
 しかし選手村用地は、都市再開発法に基づく「都による個人施行の市街地再開発事業」としたため、同審議会を通すことなく価格が決められてしまった。法の網をすり抜けたのだ。
 また大手デベロッパー11社が、東京都に代わって建設を行う「事業協力者」「特定建築者」に選ばれた経緯も「“出来レース”による公募で官製談合の疑いがある」と住民訴訟で問われている。

適正価格は?

 では、晴海の土地の適正価格はいくらなのか。住民訴訟の中で原告側は、不動産鑑定士の鑑定評価書を提出。それによると、国土交通省の不動産鑑定評価基準に基づく評価では、選手村用地13万3900平方メートルは総額「1611億1800万円」になった。
 一方、東京都は不動産鑑定評価基準による鑑定価格は出していない。日本不動産研究所が「開発法」という手法で算定した「調査報告書」に基づき「総額129億6000万円」という価格を決めた。鑑定価格が適正だとすれば、その差額は1481億円超。都の待機児童対策の総事業費(約1500億円)が、ほぼまかなえる計算だ。
 都は価格の根拠に「選手村要因」を挙げる。これが2つめのカラクリだ。選手村要因とは、(1)選手村整備を前提とした計画建築物で、(2)建設・分譲の日程が決められ、(3)建物の配置など条件があること、などだ。
 5月16日に東京地裁で行われた住民訴訟の第6回口頭弁論では、日本不動産研究所の「調査報告書」の黒塗り部分が少し開示されただけ。なぜ、2016年当時の公示地価の10分の1まで値引きしたのかは依然不明だ。
 住民側は裁判で、「仮に選手村要因を反映させても、選手村用地は鑑定価格の約9割にあたる総額1529億1800万円になる」との意見書を提出。鑑定価格の1割以下という売却価格は異常であり、「到底、適正な価格とは言えない」と主張した。
 住民側はまた、選手村用地の価格が東京都と大手デベロッパーとの間で事前に協議された官製談合の疑いがあるとして、裁判所と都に対して協議記録を調査するよう求めた。
 「市街地再開発事業」と「選手村要因」。この2つのカラクリによって、都民の財産がたたき売られるのだ。

晴海ターミナルから見た選手村建設現場

晴海ターミナルから見た選手村建設現場

あまりにひどい差別

 問題はそれだけではない。16年12月に土地譲渡契約を交わした大手デベロッパー11社は、最後の建物が建つまで固定資産税の支払いを免除される。また、オリンピック終了まで上限38億円の建物賃借料がデベロッパーに支払われる。さらに、分譲・賃貸マンションとして売り出すための内装工事などの費用445億円も都が負担する。
 そもそも選手村用地の基盤整備には540億円かかる見込みで、これも都の負担。その土地を129億円あまりで売却するのだから、まさに至れり尽くせりの“出血大サービス”だ。
 中央区に隣接する江東区の共同組織「江東健康友の会」(鱒渕譽吉会長、会員1300人)も、住民訴訟を支援している。友の会事務局長の小栗多美子さんは「東京都は大型開発に予算を割く一方、都営住宅の新設など都民の切実な要求は無視している。都営住宅の入居申し込みは数十倍にもなり、希望しても入れない人が大勢います。それなのに都心の一等地の都民の財産が、あの森友学園の国有地以上に値引きされて叩き売られる。あまりにひどい差別で許せません」と訴える。
 都議会で選手村疑惑を追及しているのは日本共産党だけ。オリンピックで莫大な広告料が入る大手メディアが事実を伝えないことも、「本当におかしい」と小栗さんは憤る。
 次回の第7回口頭弁論は9月13日に東京地裁で行われる。裁判は回を重ねるごとに傍聴者が増加、都民の怒りと疑問の声が広がっている。

選手村住民訴訟の報告集会

選手村住民訴訟の報告集会

いつでも元気 2019.7 No.333

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