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2019年9月30日

あすをつむぐ看護

 心がぽかぽかする場所になってほしい─。そんな思いから名付けられた、重症心身障害児(者)の医療型特定短期入所サービス「ぽっかぽか」。2015年から川崎協同病院小児科病棟の空きベッドを利用して始め、18年に小児科外来横にリニューアル。医師、看護師、介護福祉士、リハビリ職員、事務もかかわり、医療ケアが必要な障害児を預かっている。
 「ぽっかぽか」の1日は朝のお迎えから。車いすのまま乗れる送迎車で自宅に到着すると、まず家族にその日の体調を聞く。同時に、子どもの表情から状態を読み取ることも大切な日課。看護師長の塩入美和さんは「熱もないし脈拍も正常。でも表情が“いつも”と少し違う。そうこうしているうちに、あっという間に具合が悪くなることもあります」と語る。
 私たちにとってはせきが出る程度の風邪でも、障害を持つ子は命にかかわる事態になることも。常に微妙なバランスの中で生きている子どもたちだからこそ、「『その子なりの健康』をしっかり把握することが大事」と塩入さんは言う。

 支え続ける家族も見守る

 「ぽっかぽか」は月曜から金曜の午前9時半から午後5時まで子どもたちを預かる。介護する家族の都合に合わせ、急な利用にも対応している。
 きょうだいの学校行事に参加したい、家族が体調を崩してしまった、冠婚葬祭で家を空ける─。日常起こり得るさまざまな出来事に対応することは、子どもを支える家族を支えることにもつながる。
 副院長で小児科医の高村彰夫医師は言う。「障害を持って生まれた子は、人生のスタートが病院。でも退院すると、それまで医師や看護師がやっていたことを家族が抱えることになる。大人のような介護保険も使えない中で、母親が介護につきっきりになることが多くなります。すると、自分の時間も持てなくなり、孤立してしまう。病院に居場所を作ることは、親のつながりや心の拠り所を作ることにもなるんです」。

ふれあいの中で過ごす空間

 窓から外の光も入り、風が通り抜けていく「ぽっかぽか」。壁には介護福祉士の藤田みちさん手作りのかわいい飾り付けも。病院の中にあるけれど、家や保育園のような柔らかな空間だ。
 取材した日は康生くん(6歳)と、佳祐くん(4歳)が来ていた。這って動ける康生くんのために、床にはマットが敷かれている。
 佳祐くんは人工呼吸器を付け、ベッドの上で過ごすことが多い。同じ姿勢のままにならないようにスタッフがこまめに体を動かし、天気の良い日には車いすや抱っこで散歩に行くことも。ベッド脇にはおもちゃや絵本が置かれ、寝ている佳祐くんから康生くんの姿を見ることができる。
 「お母さんたちの愛情が、ここに」と塩入さんが見せてくれたのは、佳祐くんのお腹についた胃ろうのチューブ。「大人は周囲にガーゼを当てるけど、子どもは皮膚が弱くこすれてしまうし見た目もかわいくない。同じ胃ろうの子を持つ友だちのお母さんが布で作ったんですよ」。一人のお母さんのアイデアをほかのお母さんにも伝え、みんなで工夫しながら子どもの成長を見守っている。
 しばらくすると高校3年生のあみさんが学校帰りにやってきた。あみさんは部屋に入ると、まるで「ただいま!」と言うかのように元気に声をあげた。一気ににぎやかになり、康生くんと佳祐くんもその声に応えるように体を動かしていた。病棟ではなかった子ども同士のふれあいが、ここでは生まれている。

裁縫が得意な藤田さんが作る季節の壁飾り

裁縫が得意な藤田さんが作る季節の壁飾り

成長を一緒に喜んで

 医療型特定短期入所サービスを行っているのは、150万都市の川崎市で川崎協同病院のみ。隣の横浜市と合わせても2~3カ所とまだまだ少ない。川崎協同病院は民医連以外の病院や団体とも連携して、支援の輪を広げる取り組みも始めている。
 家族とともに成長を喜び、悩みを共有しながらゆっくりと歩む日々。「私たちが学ばせてもらっているんです」と塩入さんは言う。できないことも窮屈なこともたくさんある。だからこそ、「ここまでしかできない」で止まらないよう、勉強会を開いたり多職種で知恵を出し合ったり、みんなで道を探っていく。職員も子どもたちから“社会の障害”を乗り越える力をもらっている。

いつでも元気 2019.10 No.336

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