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2019年11月29日

「全世代型社会保障」そのココロは?

聞き手・武田 力(編集部)

芝田英昭教授

芝田英昭教授

 9月20日、政府は「全世代型社会保障検討会議」の第1回会合を開きました。「全世代型」と銘打った「改革」の狙いや見通しについて、立教大学コミュニティ福祉学部の芝田英昭教授に聞きました。

 「全世代型」と銘打った1つの狙いは、社会保障支出の“バランス”を変えていく姿勢を見せることだと思います。子育てや教育、住宅施策に充てるという口実のもと、高齢者にかかる年金や医療・介護の給付を減らしていく。全体の給付を増やすという発想はなく、パイの切り口を変えてみせる意図が読み取れます。
 「全世代型」のもう1つの狙いは、負担についても年齢に関係なく“広く薄く”を浸透させることです。10月1日の消費税10%への増税に合わせて、第1回会合を開いたのは象徴的です。

財界2トップを起用

 「検討会議」は立ち上がったばかりですが、選ばれたメンバーを見れば、政府が狙う社会保障「改革」の方向性は明らかです。議長を務める安倍首相のほか、政府の会議で社会保障改悪を推進してきた閣僚や“有識者”が並びました。
 日本経団連と経済同友会から財界の2トップが選ばれたのに、労働界や医療・介護関係者の代表はまったく入っていません。
 国民の要求や願いに寄り添うのではなく、首相官邸や財務省の思惑に迎合するような形で議論が進むことを危惧しています。
 この間の財務省資料などから読み解くと、医療機関を受診した際の一部負担の引き上げ、湿布や花粉症薬を保険適用から外すなど、政府はさらなる「負担増・給付減」を狙っています(表1)。

「改革」の矛盾

 「社会保障の支え手を増やす」として、「検討会議」では雇用や年金などについても議論されるでしょう。政府は「1億総活躍」をスローガンに掲げ、70歳までの就業を保障すると言います。働く意欲のある人が働くのは結構なことですが、年金の受給期間を縮め、給付を減らすのが最大の目的です。
 “多様な”働き方と言っても、この間の規制緩和で雇用や労働環境を壊してきた方々が主導する政策ですから、低賃金の非正規雇用を増やすだけになりかねません。
 多くの高齢者は「年金だけでは暮らせないから働かざるをえない」というのが実態です。根源にある低年金や貧困の問題こそ解決が急がれます。
 また、政府が6月に閣議決定した「骨太の方針2019」では、“健康の自己責任論”が今まで以上に強調されています。これは、医療・介護の一部負担を引き上げる根拠に利用されかねません。
 しかし社会疫学の研究成果から見れば、養育環境や交友関係、雇用や所得などさまざまな社会的要因が健康に関係しています。健康を個人の責任に矮小化するのは時代遅れです。
 安定した雇用を増やし、最低賃金を引き上げることこそ、健康な社会づくりには求められています。

少ない事業主負担

 「改革」に対抗する運動を広げるためには、具体的で説得力のある対案を示すことが重要です。
 日本の社会保障財源の割合を他国と比べると、消費税はすでに欧米並みで企業(事業主)の負担が少ないことが分かります(表2)。「全世代型」と言って世代間の対立をあおりつつ、企業への課税を「改革」の外に置いているのは道理に反します。
 社会保障が充実することによって一番便益や恩恵を受けるのは企業なのです。健康な労働者が滞りなく市場に供給されるわけですから。
 しかも、大企業は過去最高の449兆円の内部留保を貯め込んでいる。企業に応分の負担を求めるのは当然のことだと思います。
 応能負担原則のもと、医療保険料についても所得に応じて累進性を強める仕組みに変えるべきだと思います。今はどんなに所得が多くても、保険料の上限が決まっていて、かなり不公平な仕組みになっています。
 また、所得に関係なくかかる国保料の均等割は、前近代的な人頭税のようなもので廃止すべきです。

本当の「持続可能性」とは

 政府は社会保障制度の「持続可能性」のために「改革」が必要と言います。しかし、負担すべきところに負担させず、国民に負担増を強いるのでは「持続可能性」は小さくなるばかりです。
 むしろ国民が医療機関にかかりやすくしたほうが、予防と早期治療で重篤化を防ぎ、医療費を抑えられるのではないでしょうか。健康な高齢者が増えれば、結果的に介護保険の利用も減るでしょう。
 人権としての社会保障を念頭に置きながら、財政政策的にも合理的な「持続可能性」のある対案を示していきましょう。

いつでも元気 2019.12 No.338

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