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2020年2月28日

震災から9年 
災害公営住宅はいま 宮城

文・新井健治(編集部)写真・野田雅也

三方を高層マンションに囲まれたあすと長町市営住宅。快晴の正午に撮影したがほとんどが日陰だった=宮城県仙台市

三方を高層マンションに囲まれたあすと長町市営住宅。快晴の正午に撮影したがほとんどが日陰だった=宮城県仙台市

 2011年3月11日の東日本大震災から9年。
 津波で家を流された被災者が、“安住の地”と定めたはずの災害公営住宅で新たな問題が起きている。
 宮城県仙台市の災害公営住宅「あすと長町市営住宅」を取材した。

 JR長町駅から徒歩5分と、仙台市の中心街にも近いあすと長町市営住宅(以下、市営住宅)。全戸南向きの13階建てで入居希望者も多く、抽選で当たった石巻市や気仙沼市などの被災者163世帯が2015年4月から入居を始めた。当時は周囲に何もなく、陽がさんさんと降り注いでいた。
 ところが17年9月、目の前に高さが2倍の80mにもなる24階建ての高層マンションが建つ。その後も東側、北側に次々と24階のマンションが建ち、今では三方を完全に囲まれてしまった。市営住宅の中には、冬場の日照時間が1時間に満たない部屋もある。
 「昼間でも真っ暗で寒い。電気代がかかって困る」「こんなことになるなら、他の公営住宅に申し込めばよかった」「洗濯物は乾かない。ベランダの花も咲かない」と口々に窮状を訴える被災者たち。
 市営住宅自治会副代表の大山葉子さんは「マンションが完成する前から、仙台市や建設業者に高さの制限などを要望してきたが、聞く耳を持たなかった」と振り返る。市議会でも被災者の生活環境が著しく悪化することが問題になったが、市は「駅前の商業地域だから法的に問題ない」との説明に終始した。

雪が降った3月11日の夜

 市営住宅6階に住み、「仙台南健康友の会」の会員でもある佐々木英子さん(81歳)は、「ビル風が酷く、洗濯物は外に干せない。玄関のドアも思い切り押さないと開かない」と言う。
 佐々木さんは震災当時、死者・行方不明者約3700人と最も大きな被害を受けた宮城県石巻市の自宅にいた。避難した隣家の2階から、「助けて」と言いながら津波に流されていく人を何人も見た。3月11日の夜は雪が降った。中学校に避難し、教室のカーテンにくるまって寒さをしのいだのを覚えている。
 「生きているって素晴らしい。生かされた命だから、何があっても元気で暮らしたい」と佐々木さん。
 住民は市に対して、家賃の軽減や北側のドアに明かり窓を設置することなどを求め、署名を集めて交渉してきたが実現していない。
 被災者は津波で家を奪われ、故郷を奪われ、今度は“お日様”まで奪われた。「この問題を考えると息苦しくなる」と大山さん。日照問題のストレスから体調を崩す住民も多いという。

心配な家賃の値上がり

 災害公営住宅はこうした環境問題のほか、自治体ごとに格差が生じている。一戸建てなど充実した住居を被災者に提供する自治体もあれば、周囲に商店がなく、週に一度の移動販売車が頼りの公営住宅もある。
 また、家賃は被災者の所得に応じて基準より減免されているが、建物管理開始から6年目以降に段階的に引き上げられ、11年目以降は減免措置が終了する。6年目以降も家賃減免を継続している自治体もあるが、今後は家賃負担が大きな問題になる。
 宮城民医連は被災者の生活実態をつかもうと、2016年から毎年、災害公営住宅の訪問調査を実施。昨年11月には東松島市、多賀城市、塩竈市など4市4町で調査し、職員と共同組織のべ148人が参加。465人と対話し621件のアンケート回答を得た。
 「健康上、不安なことはありますか」との問いには半数以上の52%が「ある」と回答。今回初めて精神状態を聞いたところ、「眠れない」(107人)「災害を思い出して気持ちが動揺することがある」(53人)という結果に。また「医療費の支払いが心配で受診を控えたことがある」との答えが24%にのぼった。
 被災者の約6割が「生活が苦しい」と訴え、63%が消費税10%の影響が「厳しい」と回答。宮城民医連復興支援会議責任者で、坂総合病院医師の矢崎とも子さんは「震災から9年がたち、被災者も年齢を重ねたため健康不安が大きい。年金が低く家賃を心配する被災者も多い」と指摘する。
 災害公営住宅での孤独死は年々増えており、宮城と岩手の合計で17年は47人、18年は68人にのぼった。矢崎医師は「パートナーが亡くなるなどして、一人になる被災者も増えてきた。何かあったときは民医連の病院や友の会に相談してもらえるよう、訪問調査では無料低額診療事業のお知らせや友の会ニュースを配っています」と話した。


 宮城民医連が調査を行った多賀城市の市営鶴ケ谷住宅(274戸)。一人暮らしの佐藤勘一さん(76歳、左端)の部屋に、「みやぎ東部健康福祉友の会」の会員らが集まった。市営住宅には同市のほか気仙沼市、石巻市などの被災者が暮らしており、友の会の班会「鶴の会」が月に一度、健康相談会を開く。市営住宅では最近、孤独死もあった。ボランティア団体の各種催しが今も続くが、「出席する人は決まっていて、顔を出さない人が心配」と友の会員は言う。

いつでも元気 2020.3 No.341

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