いつでも元気

2020年9月30日

けんこう教室 
お尻の悩み

社会医療法人健生会名誉理事長 土庫病院大腸肛門病センター顧問医 稲次 直樹

社会医療法人健生会名誉理事長
土庫病院大腸肛門病センター顧問医
稲次 直樹

 お尻は便を体外に排泄する場所で、直腸や肛門管、肛門の外側の皮膚部からなる消化管の出口です。出口に異常が発生すると、排便時に痛みや出血、しこりなどが生じます。
 この場合、多くの方は「痔がある」「痔がひどくなった」などと訴えて受診されます。診察すると、いぼ痔(外痔核・内痔核)やきれ痔(裂肛)、あな痔(痔瘻)など、いわゆる痔の方が多いのは確かです。しかし、お尻の病気には痔以外にもさまざまな病気があります。肛門部のがんや腸炎に合併する肛門の病気、肛門周囲の皮膚の病気や性病など、極めて多彩な病気が発生します。
 したがって症状だけで痔とは診断できず、なかには生命に関わる病気もあります。お尻に異常を感じたら、すぐに受診してください。また訪問看護を受けておられる方は、看護師さんに「お尻がちょっとおかしい」と伝えてください。お尻の病気も早期診断・早期治療が何より大切です。

◇痔とそれに似た病気

 ひとことで痔と言っても、実にさまざまな症状があります。に痔とそれに似た病気を示しました。
(1)血栓性外痔核 突然、痛みを伴うしこりが肛門にできます。多くは薬物療法で治癒しますが、痛みが強かったり出血が続く場合は、手術が必要になることもあります。
(2)内痔核 痔核が外へ脱出するものと脱出しないものがあります。排便時に出血を伴うことが多く、早期診断・早期治療が有効です。薬物療法で出血や脱出が治らない場合は手術が必要です。手術には切除手術のほか、注射剤を使って痔核を小さくする硬化療法などもあります。
(3)慢性裂肛 はじめは少しの出血や痛みを伴う肛門裂傷として発生しますが、慢性化すると肥大乳頭、肛門ポリープ、慢性潰瘍、時には痔瘻になることもあります。肛門が狭くなり排便が困難になった場合は、手術が必要です。
(4)肛門周囲膿瘍 肛門腺の細菌感染が原因で、突然の痛みや腫れ、時に発熱を伴うことがあります。多くの場合、メスで切開し、排膿処置をします。切開・排膿後に再発したり、痔瘻になることもあるため注意が必要です。
(5)痔瘻 (4)の膿瘍ができたあとに自壊(ひとりでに破れる)したり、膿瘍切開後に生じる場合が多く、完治のためには手術が必要です。
(6)直腸脱 直腸の一部または全体が外へ脱出します。高齢の女性に多く、時に赤ちゃんや中年での発症もあります。直腸を骨盤内にとどめておくための筋肉が弱くなったり、慢性的な便秘でお腹に力を入れたりすることで起こります。
 便秘が原因の場合は、食物繊維を多く含んだ食事や下剤で排便をコントロールします。改善しない場合は手術を検討します。
(7)肛門皮垂 肛門の縁に生じた皮膚の突出(たるみ)で、放置しておいて構いません。ただし周囲に皮膚炎を起こし、かゆみや痛みが生じる場合は、医師にご相談ください。

◇さまざまな病気

 肛門の近くにできるお尻の病気としては、このほかにも炎症性腸疾患に合併して生じる病気や、皮膚部に生じる病気などがあります。簡単に説明します。

●お尻にできるがん

 直腸がんや肛門がん、痔瘻がん、ボーエン病やパジェット病などがあります。
 がんができる部位によって、腺がんと扁平上皮がんに大別されます。直腸がんは主に腺がん、肛門がんは主に扁平上皮がんです。
 腺がんの治療は、早期であれば内視鏡を用いた切除が行われます。進行がんでは手術で直腸と肛門を切除し、永久人工肛門を造設する方法が基本です。周囲の臓器に浸潤・転移している場合は、初期治療として抗がん剤や放射線による治療が優先され、その後に手術が施行される場合もあります。
 扁平上皮がんは早期であれば局所切除、進行がんでも放射線療法や抗がん剤で治癒する場合が多いです。

●炎症性腸疾患に合併するお尻の病気

 潰瘍性大腸炎では、頻回の下痢便によっておしりが刺激され、きれ痔やあな痔を合併することがあります。
 クローン病では、直腸や肛門管に生じた炎症や潰瘍によって独特のきれ痔やあな痔が発生することがあり、腸炎やお尻の病気の専門医への受診が肝要です。

●皮膚部に生じるお尻の病気

 「お尻がかゆい」「お尻がひりひりする」などと訴えて受診された場合のお尻の病気も多彩です。
 肛門搔痒症や真菌症、接触性皮膚炎、単純性疱疹、帯状疱疹のほか、自動温水洗浄便座による皮膚炎などがあります。
 治りにくいかゆみや痛みがあれば、肛門科または皮膚科を受診してください。

●お尻の性病(性感染症)

 梅毒や性器クラミジア、性器ヘルペス、尖圭コンジローマ、淋菌感染症などがあります。適切な治療をしなければ治癒しませんので、肛門科または皮膚科を受診してください。

◇まとめ

 さまざまなお尻の病気があることをご理解いただけましたか。いずれにしても早期診断・早期治療が苦痛の少ない治療、そして救命につながります。
 最近は運動不足や便秘の人が増え、お尻のトラブルも起きやすい環境にあります。お尻に負担をかけない生活のコツをにまとめました。参考にしてください。
 昨年末、『「おしりの病気」アトラス』という本を出版しました。私の半世紀にわたる経験例を厳選して掲載。Web動画と連動させて、検査や手術の動画をスマホで確認できるようにしました。主に医療関係者向けですが、「見ればお尻の病気が分かる」ように工夫したもので、「肛門部疾患のバイブル」との評価もいただきました。
 病院や診療所、訪問看護ステーションや介護施設などに備えていただけると嬉しいです。お尻の病気で悩む患者さんの期待に応える近道と確信しています。『いつでも元気』の読者のみなさんで、お尻の病気に関心のある方も、機会がありましたら手に取ってみてください。


「おしりの病気」アトラス

見逃してはならない直腸肛門部疾患

[Web動画付]
著者:稲次 直樹
出版社:医学書院
価格:8,500円+税

いつでも元気 2020.10 No.347

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