いつでも元気

2020年10月30日

椎名誠の地球紀行 
元気のいいペンギン

著者撮影

著者撮影

 フォークランド諸島のひとつウエッデル島は、ペンギンやアホウドリ、トウゾクカモメ、カモ、ガンなど野生鳥類の楽園だ。
 島のなかでも平坦で草の茂る一帯には、全長4~5m、体重2tもあるゾウアザラシのコロニーがある。知らずに近づくと生い茂った草むらからいきなり吠えながら襲ってきて、食われてしまうのではないかと生きた心地がしない。
 ペンギンは5~6種類いる。代表的なものから紹介すると、身長1mぐらいで直立して歩くキングペンギンは、島の平らなところで300羽ぐらいの群れをつくり、1日中「ワアワア、ギャアギャア」と言っている。
 高さ100mぐらいの岩壁のそこかしこに営巣していて、岩壁を短い足でピョンピョン飛んで上や下に行き来しているのがロックホッパー。その名の通り岩飛びペンギンというわけだ。これは身長50cmぐらい。マゼランペンギンはネコか小型のイヌぐらいの大きさで、土の中に穴を掘って忍者のように生活している。
 彼らの世界に入れさせてもらおうと、一番広い土地で営巣しているキングペンギンの群落のそばにテントを張った。とにかく全員で常になにか叫んでいて、夜も昼もない。テントを張ってから「しまった」と思ったが、自然のままの団体生活を見せてもらえた。
 彼らは非常に子煩悩で、つがいで1羽しか育てない。食料は海まで行って魚をとるしかない。それなのに、なぜか海から数百mも離れた場所に群落を作っている。一番最初に「ここに住もう」と言ったリーダーの失敗じゃないかなあ。
 海に魚をとりに行く時は必ず数羽の仲間と連れだち、あの短い足で30分以上時間をかける。横に並んで、やっぱりガアガアとおしゃべりをしながら歩く姿は人間社会を連想させる。どう見ても共通の話題で会話をしているとしか思えない。
 餌の確保は母ペンギンの役割だと思っていたら、夫婦交代で餌とりや子守をしていると、研究のためにキャンプをしていたスウェーデンの学者から教えてもらった。
 キングペンギンは波の荒い浜辺に着くと、一緒に海に突入する。ぼくが見ていた時は、父ちゃんか母ちゃんか分からなかったが実に勇敢だった。
 海に入って見ていると、そこに来るまでヨチヨチ歩きだったペンギンさんは実に海の鳥だった。弾丸か魚雷のようにもの凄い勢いと速さで海底を泳ぎ回る。最初は自分用に魚を食べ、そのあと愛する伴侶や子どものために、喉に魚をいっぱいにためてあがってくる。
 上陸の仕方も上手だ。寄せ波に乗り、一列になって波乗りの要領で浜辺に帰って来る。上陸する時は、足からスクッと立って止まる。思わず「9・5点」と採点をつけたくなってしまった。
 ウエッデル島には2週間しかいられなかった。ここに1年ほど滞在すれば「ペンギンの親友ができるだろうなあ」と確信した。


椎名誠(しいな・まこと)
1944年、東京都生まれ。作家。主な作品に『犬の系譜』(講談社)『岳物語』『アド・バード』(ともに集英社)『中国の鳥人』(新潮社)『黄金時代』(文藝春秋)など。最新刊は『この道をどこまでも行くんだ』『毎朝ちがう風景があった』(ともに新日本出版社)。モンゴルやパタゴニア、シベリアなどへの探検、冒険ものも著す。趣味は焚き火キャンプ、どこか遠くへ行くこと。
椎名誠 旅する文学館
http://www.shiina-tabi-bungakukan.com

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