いつでも元気

2020年10月30日

まちのチカラ 
紅葉に映える水源のまち

文・写真 橋爪明日香(フォトライター)

美しい秘境の地の趣がある照葉峡の紅葉(みなかみ町観光協会提供)

美しい秘境の地の趣がある照葉峡の紅葉(みなかみ町観光協会提供)

 群馬県の最北に位置するみなかみ町。
 貴重な自然が残る谷川岳と三国山の麓、利根川の源流域にあり、「関東の水瓶」と称されます。
 水がはぐくむ町の紅葉をご紹介します。

十分に感染対策をしたうえで取材しています

 みなかみ町は群馬県で最も広く、町の面積の9割が森林です。2017年にユネスコエコパークに登録され、日本を代表する貴重な自然が残されています。遊歩道を散策できる諏訪峡や大小11の滝が続く照葉峡など、紅葉の名所が数多く点在。町内の標高差が約1600mあるため、10月から11月まで長期間、紅葉を楽しめます。
 登山ガイドの片野直子さんに、町のシンボル谷川岳を案内してもらいました。谷川岳はトマの耳(標高1963m)とオキの耳(1977m)という2つの山頂を持ち、多くのアルピニストを惹きつけてきました。
 本格的な登山ルートもありますが、東麓には電気バスも走行。「本格的なクライマーでも初心者でも、どなたでも満足度が高いのが谷川岳の魅力」と片野さん。到着したのは日本三大岩場の一つ一ノ倉沢。バスに乗ることができれば足に自信がなくても大自然の核心に立てます。迫り来る峻厳な岩肌に、燃えるような紅葉と万年雪のコントラストが競演。圧巻の景色に、しばし時を忘れます。

カヌーで紅葉狩り

 みなかみ町といえば、キャニオニングやラフティングなど、多様なアウトドアスポーツの聖地として世界中からファンを集めます。アウトドアの事業所は30社を超え海外からの移住者も。年齢やハンディキャップにかかわらず、「やってみたい」をかなえられるツアーがあると聞き、カヌー・カヤック専門のレイクウォークを訪ねました。
 利根川上流部の湖、奥利根湖やならまた湖をメーンに、町内にある5つのダム湖から天候や季節に応じてその日にベストな行き先が決まります。湖を隅から隅まで知り尽くしたガイド歴25年の高橋秀典さんが「人工物の一切ない、大自然の中で幸せを体感していただきたい!」と、持ち前のユーモアと安心感で探検気分を盛り上げてくれます。
 2人乗りのカヌーは安定感があり、よほどのことがなければ転覆しません。これまで4歳から最高齢は91歳まで楽しんだそう。秋は暑からず寒からず、360度広がる色とりどりの紅葉を湖上から楽しめます。

キャニオニングは体ひとつで岩肌を滑り降りたり岩壁から川に飛び込む
 ラフティングはゴムボートに複数人で乗り渓流を下る

日本一のモグラ駅

 谷川岳の麓に「日本一のモグラ駅」といわれる駅舎がたたずんでいます。JR上越線土合駅は下りホームが新清水トンネル内の地下にあり、改札との標高差は70・7m、階段にして486段もあります。
 その土合駅に今年8月、駅舎内喫茶「mogura」がオープン。中に入ると、かつて実際に利用されていた駅務室の雰囲気がそのまま漂います。昔ながらの切符売り場を店のカウンターとして利用し、クラフトビールや地産果物のスカッシュドリンクなどを提供。ゆったりと流れる時間を味わえます。
 秋には宿泊施設「DOAI VILLAGE」も開業予定。運営は全国でキャンプ場を手掛けるVILLAGE INC.(静岡県)で、担当の茶屋尚輝さんは「ここはキノコがおいしいのでアウトドア鍋を提供したい」と準備に取り組みます。宿泊施設には頑丈で断熱性に優れたテントや野外サウナを設ける予定。新たな交流拠点に期待が寄せられます。

継承は3兄弟

 町の中心部、月夜野地区に群馬県最後の桐たんす屋があると聞き、訪ねました。大正6年(1917年)創業の「桐匠根津」の4代目を継いだのは、長男の根津安臣さん(30歳)。「子どもの頃から木工で遊んでいたので、ものづくりの面白さには親しんでいました。大学の時に帰省し父と祖父と晩酌をした時、昔は群馬県内に数百軒あった桐たんす工芸の最後の一軒ということを知りました。そこからですね、興味を持ったのは」と語ります。
 大学卒業後、父と祖父に師事し9年目。その後2人の弟も家業に。後継者不足で廃業する伝統工芸が後を絶たない中、珍しく息子全員が家業を継ぎました。桐製品にあまり馴染みのない方にも気軽に触れてもらおうと、生活に密着した小物などを新しく作り始めました。「桐は軽くて木肌が柔らかく、調湿作用や防虫効果、熱伝導率が低いなどさまざまな特性があり、日用品とも相性が良いんですよ。その良さをもっと広めたいです」と、3人は意欲を燃やします。

心身癒やす18湯

 町には趣の異なる18の温泉地がありみなかみ18湯と総称しています。源泉の数はなんと約100本。群馬県の源泉は約450本なので5分の1以上がみなかみ町にあります。
 巨大露天風呂で知られるのは奥利根の宝川温泉 汪泉閣。源泉の総湯量は毎分約1800リットルで、露天風呂は約470畳分という広さ。混浴ですが湯浴み着を借りれるので、家族やグループで紅葉露天を楽しむ姿も。
 1200年前から湯を守る法師温泉長寿館は、新潟との県境にある三国峠の麓に佇む杉皮葺き屋根の一軒宿。湯船の底に敷かれた玉砂利の間から、プクプクと温泉が湧出します。与謝野晶子が歌に詠んだ木枕が浴槽に浮かび、頭をのせると悠久ロマンのひとときが。身体の芯まで温まります。「免疫力アップ、健康増進のためにも、温泉本来の力を楽しんでいただきたい」と岡村建専務が笑顔で迎えます。
 訪れるたびに違う自然の景色、感動の体験にリピーターが多いみなかみ町。秋はもちろん、四季折々の魅力が溢れています。

■次回は秋田県羽後町です。


まちのデータ

人口
1万8897人(5月1日現在)
おすすめの特産品
りんご、米、舞茸
アクセス
東京から車で約1時間30分、新幹線で1時間6分
問い合わせ先
みなかみ町観光協会 0278-62-0401

いつでも元気 2020.11 No.348

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