MIN-IRENトピックス

2021年2月26日

けんこう教室 
依存症(下)

高知生協病院
二神 啓通

 前回の2月号では、アルコール依存症について詳しくお話ししました。私がその当事者(患者)であること、身近な物質であること、他の依存症にも応用がきく基本知識が多いことなどが理由です。今回は他の依存症について、アルコールとの相違点を中心にトピック的に書いてみます。

●物質依存

 代表例はタバコ(ニコチン)と薬物です。タバコの煙に含まれる200種以上の有毒物質、60種以上の発がん物質は、自分にも他人にも害を与えます。他人の健康を害する点ではアルコールより悪質です。
 加熱式タバコなら安心と宣伝されていますが、加熱式でも実際は有毒物質が出ており、主流煙・副流煙とも全身機能への悪影響が知られています。「喫煙は、一時の至福感と引き換えに、自分の寿命を削っているのです」というもっともな指摘があります。※1 幸い禁煙への支援・介入には健康保険が適用され、普及しています。喫煙者はご一考を。
 薬物依存には合法薬物(市販薬や処方薬、アルコールやニコチンも広義にはここに入ります)と、非合法薬物(覚せい剤、大麻、危険ドラッグなど)があります。
 実際に医療現場で困惑が強いのは、合法薬物の濫用です。医療者ができることには限界があり、処方を拒否すると患者さんは他院に行くので根本的な解決になりません。また非合法薬物の場合、相談を受けた医師に警察への通報義務はありません。治療の観点から医師は守秘義務を優先すべきと考えられ、安心して相談できる環境の整備が急務です。
 薬物依存の背景には、過剰適応の辛さがあると専門家は指摘しています。
 「これまで私自身が出会ってきた薬物依存症の患者さんの多くは、おしゃれで、人を惹きつける話しぶり、人を退屈させない話上手の魅力的な人でした。…うがった見方をすれば、『ありのままの自分に自信がない人』『人から承認されることでどうにか自分を保っている人』といえるかもしれません」。※2
 過剰な承認欲求は過剰な適応につながります。過剰適応の問題はアダルト・チルドレン(AC)※3という形で「生きづらさ」の根源となり、さまざまな依存症の背景になっています。

●行動依存

 従来の代表例はギャンブル依存で、身近なものがパチンコです。アルコール依存の人が断酒すると、代わりにパチンコにのめり込む人が少なくないため(クロス・アディクション=依存行動の横すべり)、その意味でも問題です。
 ギャンブル依存は多くの場合、借金で周囲を巻き込みます。借金問題の解決を支援する際には注意が必要で、治療・自助グループにつなげずに借金を肩代わりしたり、自己破産させるだけでは再発を招きます。このような支援はイネイブリング※4と呼ばれ、たとえ善意であっても根本的な解決にならないため、避けなければなりません。
 次にゲーム。ゲームについては「ゲーム障害」という表現が使われています。研究・治療が始まって間もないので、試行錯誤の段階です。
 患者は若い男性が圧倒的に多く、小学生もいます。最近のゲームはオンライン上でチームを組んで24時間進行します。自分が寝ていても学校にいても勝手に進むのです。ついていくには、睡眠も学校も犠牲にするしかありません。
 若年で非現実世界にひたり過ぎると、現実の生活で他者と接しながら成長の階段をのぼることが難しくなります。ゲーム依存から離脱できたとしても、肉体だけ成長して精神的には“子ども”という元患者が残ります。誰がどうやって彼らを成長に導くのか。第2の8050問題※5の萌芽とも言えるかもしれません。
 アルコール・薬物・ギャンブルという特にメジャーな依存症に関して、主な問題や関係機関をにまとめました。

◇今日からできる対応策

 さまざまな依存症に対して、今日からでもできる対応策を2つ挙げます。
 1つ目。心配な人に声をかける時は「あなた」ではなく「わたし」を主語にしてみましょう。「あなた」を主語にすると「あなたがあんなことをするから」などと、相手を非難する言葉しか出てきません。当然ケンカになります。「わたし」を主語にすると「あなたのことが心配だ」「あなたのことを何とかしてあげたい」と続けられます。話がおだやかに進む可能性が高くなります。
 2つ目。問題を自分や家族だけで抱えこまないこと。どこに相談していいか分からない時は、とにかく地元の保健所か精神保健福祉センターに連絡してください。本人が同行しなくても、家族や知人だけで相談できます。希望すれば自助グループも紹介してくれます。自助グループにどこか宗教くささを感じて避ける人がいますが、行政の紹介なら安心できると思います。相談はもちろん無料です。
 「身内の恥をさらす」という抵抗があるかもしれませんが、前回お話ししたように本格的な依存症になってしまうと回復が非常に困難です。そうなる前の治療(介入)をぜひお勧めします。
 依存症者本人が相談や受診をすることはまずありません。きっかけを作れるのは、その人のことを心配しているあなたなのです。

※1 日本医師会ホームページ「たばこの健康被害」(https://www.med.or.jp/forest/kinen/damage/)より
※2 『生き直す―私は一人ではない』(高知東生著・青志社)の松本俊彦氏による解説「薬物依存症について多くの人に知ってほしいこと」より
※3 成育環境で受けたさまざまな「傷」のため生きづらさを抱えている(元)子ども。アルコール依存症の治療現場から生まれた用語だが、現在はより広範に使われている
※4 本人に代わってトラブルの尻ぬぐいをすること。本人は問題を自覚しないので、反省なく同じことを繰り返す
※5 現在の定義は、80代の親が長期化したひきこもりの50代の子どもの生活を支え、生活困難になるという問題


『「そろそろ、お酒やめようかな」と思ったときに読む本』

著者:垣渕 洋一・成増厚生病院副院長
出版社:青春出版社

アルコール依存症に至る手前で、知識を得るのにとてもよい本が出版されました。ビジネスマンの多い書店でよく売れているそうです。ぜひ手に取ってみてください


NPO法人「AKKこうち」の活動

 私は2013年に「AKKこうち」(アディクション問題を考え行動する会こうち)というNPO法人を作り、アルコールを中心に啓発活動をしています(本家の「AKK」は1986年設立の別団体です。名称使用の許可をいただきました。残念ながら本家はその後、活動を停止されました)。
 依存症者本人、家族、医療者などが会員です。啓発のための講演会などは興味のある人(ある程度知識のある人)しか来てくれないので、「全然興味も知識もない人」「自分は依存症とは無縁と思っている人」に情報を届けることを目標にしています。
 地元のショッピングモールで通りすがりの人に「アルコールクイズ」をやってもらうイベントは、昨年6回目を行いました。例年のクイズ解答者は約300人、コロナ禍で規模を縮小した昨年でも200人を超えました。こうした実績が評価され、県からの委託事業として学生向けの教育講座も実施しています。
 今後も依存症で苦しむ人が治療につながりやすく、また治療を続けやすい社会をめざして、粘り強く活動を続けていきたいと思っています。

いつでも元気 2021.3 No.352

リング1この記事を見た人はこんな記事も見ています。


お役立コンテンツ

▲ページTOPへ