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2021年2月26日

矢臼別物語ドキュメンタリー映画「矢臼別物語」

聞き手・武田 力(編集部)

 北海道東部の3町(別海、厚岸、浜中)にまたがる「陸上自衛隊矢臼別演習場」。1962年に演習場設置が決まったあとも、「苦労して開墾した土地を手放したくない」と土地買収に応じない地主がいました。演習場の中の民有地はいつしか、自衛隊の実弾射撃訓練を監視しながら、「平和盆踊り」などが開かれる平和運動の“聖地”に。北海道民医連の道東勤医協も医療支援などで関わってきました。ドキュメンタリー映画「矢臼別物語―北の大地からのメッセージ」を監督した山本洋子さんに話を聞きました。

 私が“矢臼別”に出会ったのは40年近く前のことです。矢臼別の開墾の歴史や、そこでの生活を描いた穂積肇さんの版画作品に出会ったのです。野太くて荒々しいのに、繊細でそこに住む人間に対する愛情や尊敬の念を感じました。それに自衛隊演習場の中に人が住み続けているなんて、とても信じられなかった。
 矢臼別に行き、生前の地主・川瀬氾二さんやそこに集う支援者たちに話を伺いました。自衛隊演習場という“最前線”で自然も厳しいのに、のんびり構えていて肩に力が入っていない。私が何となく抱いていた平和運動のイメージとはまるで違う。たおやかでしなやかな人々の姿を記録に残したいと思い、ずっと温めていました。

不思議な“空間”

やまもと・ようこ  東京生まれ。日本映画監督協会会員。1974年に「大須事件」で監督デビュー。主な作品に「東京大空襲の記録」「軍隊をすてた国」「明日へ紡ぎつづけて」など。独立プロ名画保存会を設立し、映画「薩チャン正ちゃん 戦後民主的独立プロ奮戦記」の制作にも携わる

やまもと・ようこ 
東京生まれ。日本映画監督協会会員。1974年に「大須事件」で監督デビュー。主な作品に「東京大空襲の記録」「軍隊をすてた国」「明日へ紡ぎつづけて」など。独立プロ名画保存会を設立し、映画「薩チャン正ちゃん 戦後民主的独立プロ奮戦記」の制作にも携わる

 平和盆踊りが50回目を迎えた2014年に、今回の映画の撮影を始めました。1965年から毎年夏に開かれているこのイベントには、全国から3日間で平均500~600人が訪れます。
 準備の様子を見ていると、何だか不思議なんです。みんな自由気ままなのに、協調しあってスムーズに作業が進んでいく。それぞれの人に居場所があり、お互いを尊重する自由と自治が生きているように感じました。夜には日頃の悩みを心を開いて語りあい、その悩みに親身になって応える姿がありました。
 なぜこんな不思議な“空間”ができているんだろう。インタビューを重ねるうちに、それぞれの人の背景が見えてきました。教員や福祉職の人がいたり、地元で市民運動や無料塾などのボランティアに励んでいたり。矢臼別で医療支援をしてきた関わりから、運動を引き継ぐ若い民医連職員の姿も映画の中に登場します。

生活に根ざして

 川瀬さんの場合、矢臼別で暮らすこと自体が平和運動だったし、それは生活に根ざして地に足のついたものにならざるをえない。その生き方に共感する人たちが集まったから、人間を包み込む優しさと人間らしさを発揮できる雰囲気が生まれてきたのだと思います。
 運動は理論や理屈だけで共感が広がるわけではないし、義務感や使命感だけでは続かない。休息やのんびりも必要で、時には気分転換やイベントがほしい。撮影を通して見えてきたのは、しなやかだからこそ崩れない信念があり、それはまた楽しく運動を続けていくための秘訣のようなものでした。
 映画に登場する方々は、それぞれ心の奥底に“矢臼別”があり、それが日常の生活や活動とつながりあっている。どういう未来をつくりたいか、そのために自分には何ができるのか、地に足をつけて考えている。ぜひみなさんも“矢臼別”に出会って、楽しみながら一緒に未来を考えましょう。


映画に登場する古川 拓生さん
(道東勤医協釧路協立病院・看護師)

 子どもの頃から父に連れられて、矢臼別へ行っていました。民医連に入って矢臼別のたたかいを学び、それが病院の歴史ともつながっていることを知りました。
 矢臼別へ行くと、「同じ志をもった人たちがたくさんいる」と感じられます。戦争は「いのちを守る」とは真逆のこと。平和でなければ、医療や介護もない―。私たちの根っこにあるものを仲間と共有する機会になっています。


上映について

全国各地で自主上映中です。ぜひみなさんも上映会を企画・主催してください。平和について考えたり、運動のあり方や次世代への継承について深めたりできる映画です。小規模な集まりでも取り組めるように料金を設定しました。お気軽にお問い合わせください。

【問い合わせ】
独立プロ名画保存会
Tel(Fax):03-5929-7326
Mail:hozonkai4057@gmail.com

いつでも元気 2021.3 No.352

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