いつでも元気

2023年5月31日

民医連70年 希望を創る

聞き手・武田 力(編集部)

 今年6月7日、全日本民医連は70周年を迎えます。
 民医連が大切にしてきたこととは―。増田剛会長に聞きました。

増田剛会長

増田剛会長

 1953年6月7日、全日本民医連は117病院・診療所が参加して結成されました。当時、須田朱八郎・初代会長が掲げた有名なテーゼ(主張)があります(別項)。患者さんの背景にある生活と労働に目を向けることや、広く政治と社会に働きかける必要性など、民医連の理念が凝縮して述べられています。それ以来、さまざまな体験や教訓を通して、この理念を体系化し深めてきた70年間だったと思います。
 この姿勢は現在のコロナ禍においても発揮されています。民医連は感染拡大の当初から発熱外来や在宅患者さんのフォローなどに取り組み、地域での生活相談や食料支援にも積極的に取り組んできました。政府に対して検査の拡充や保健所体制の充実、医療機関や介護施設への財政支援などを求めて、声をあげてきました。
 入院・救急医療の逼迫により感染者が自宅や高齢者施設で亡くなる事態は、いのちと政治の問題が直接的につながっていることを改めて実感させました。

民医連の原点

 70年前の日本は敗戦からの復興の途上にあり、先の戦争から何を学び、どういう国づくりをするのか、国民が懸命に模索している時でした。その中で「労働者、農民、弱者に医療を!」という運動により、全国各地で病院や診療所がつくられ、民医連の誕生に繋がったのです。
 「個人の尊厳」や人権の大切さを謳った日本国憲法の存在は、私たちが〝いのちの平等〟や人権としての社会保障を訴える拠りどころになりました。戦争の痛苦の経験から生まれた憲法9条の精神は、今後も活かしていかなければなりません。岸田政権がかつてない大軍拡に突き進もうとする時代に、戦争する国づくりを許さない運動は、民医連の存在意義をかけたものになっています。
 私は36年前に民医連に入職しました。両親の影響もあり、人種や性別、障害など「あらゆる差別は許されない」と少年期から考えていたので、「無差別・平等」という民医連の基本理念は私の胸に強く響きました。いのちや人権が蔑ろにされることや、理不尽な差別に対して黙っていられない、そんな人たちの集まりが民医連ではないでしょうか。

世界の運動と結んで

 コロナ禍を通して、これまで不当に低く評価されてきたケア労働の価値が世界的に注目されるようになりました。同時に、そうしたケア労働を、ほぼ無償で一方的に担わされてきた女性の人権問題が露呈しました。さまざまな男女格差が放置されている日本社会は「変化」を強く求められており、民医連が運動方針に「ジェンダー平等」を掲げたことの意味は大変大きいと感じています。
 加えて、いま世界では「公正」や「正義」を求める運動が広がっています。地球環境破壊による温暖化被害を人権の視座で捉える「気候正義」は、その象徴と言えます。
 先進国が化石燃料を大量に消費した結果としての自然災害で、より多くの被害を受ける途上国や、温暖化に直接の責任を負っていないのに将来にわたってそのツケを払わされる若者たちが、これは「不公正」と主張しているのです。
 このような世界のムーブメントは、民医連を強く刺激し、前進させたと感じています。そして、「強く自立した個人」を求めがちな「公正」「正義」の視点に、人と人との関係性を重視する「ケアの倫理」を併せて実践に活かすことで、社会的弱者も含めて全ての人の人権が守られる、真の「公正な社会」の実現に向けて前進できると考えています。

民医連の大きな強み

 民医連綱領という団結の旗印を持ち、毎年多くの若い職員が入職してくるのは、民医連の大きな強みです。民医連というフィールドで平和と人権を尊重する職員が育つことは、未来への希望を創造しているのだと思います。そのような集団だからこそ、多様なセクシュアリティーを認め合い、職種間の権威勾配を排し、心理的安全性が保障された、より進化した多職種協働を実践できると確信しています。
 地域包括ケア時代においては、民医連内外のさまざまな事業所や行政との連携が必須となります。一人ひとりの人生全般に寄り添った事業・施設体系を構築できるような力をつけなければなりません。70年の歴史で培った医療・介護複合体としてのポテンシャルを大いに発揮する時だと思います。
 民医連はもともと、地域住民の要求に応え、ともに歩むところから始まりました。広範な地域住民と結びついてこそ、まちづくりの運動も発展させることができます。共同組織のみなさんには、今後も我々のパートナーとして一緒に歩んでいただけたらと願っています。


須田朱八郎・初代会長のことば

 私たちは、新しい医療活動の型を創造しているのです。病める肺、病める腎臓だけを診るのではなくて、病める患部を、その患者、患者の生活全体として診ること、医師、看護婦、事務、診療所全体の力が患者とその家族、否、もっと多くの同じように生活とたたかっている人達と力を合わせ、その合作した力で一人の患者を治療し、健康と健康がささえられる生活を守ろうとしているのです。大衆の中から生まれ出て大衆の中で育ち、発展してきた私達、全国の民主的病院、診療所のあり方はこういうものだと思います。
『全国民医連』誌第1号(1953年)より

いつでも元気 2023.6 No.379

リング1この記事を見た人はこんな記事も見ています。


お役立コンテンツ

▲ページTOPへ