いつでも元気

2024年4月30日

3Dプリンターで自助具

文・新井健治(編集部) 写真・野田雅也

 3Dプリンターで患者用の自助具を作る。
 そんなSFの世界のような話が現実になっています。
 福岡民医連のたたらリハビリテーション病院(福岡市)を訪ねました。

3Dプリンター 
紙などに文字や図を印刷する一般的なプリンターが進化、樹脂などを積み重ねて立体を作るのが3Dプリンター。人形や鉄道模型など趣味で作るものから、最近は住宅など建築業界でも活用されている

 自助具は病気や事故による麻痺や加齢による身体機能の低下で、困難になった日常生活の動作を補う福祉用具のひとつ。スプーンが持てない、靴下が履けない、ボタンがはめづらいといった場合、体の状態に合わせて力が入りやすいようにする道具です。
 たたらリハビリテーション病院は、作業療法士が2022年にチームを立ち上げ、自助具を3Dプリンターで作っています。作業療法士は日常生活(食事・洗顔・料理など)や社会復帰に必要な生活機能の維持・回復を援助する国家資格です。
 3Dプリンターは樹脂などを材料に立体の構造物を作ることができるプリンター。パソコンにデータを入力し、3Dプリンターを動かすと、樹脂を溶かして設計図通りの自助具が出来上がります。完成まで種類や大きさにより3~7時間かかりますが、最初の動作を確認したあとは機械が自動的に作ってくれます。
 「安価なうえ、患者さんの状態に合わせたオーダーメードの自助具ができます。作業手順を覚えれば、誰でも簡単にできます」と話すのは、OT科(作業療法科)科長の鈴木優子さん。患者の指の太さや長さに合わせて形状を変えることも可能で、より使いやすい自助具ができます。

珍しい疾患別リハビリ教育入院

 自助具を作るきっかけになったのは、同院独自の「疾患別リハビリ教育入院」(30日間)。短期間で患者が困っている動作を改善、自立した在宅生活を送れるよう、個々の患者に合ったプログラムを提供します。
 同院リハビリテーション技術部技師長で理学療法士の由川明生さんは「高齢化社会のなか、住み慣れた地域で、より長く在宅生活を送りたいというニーズが増えてきました。快適に在宅生活を送るうえでも、個別性に応じた自助具が大切です」と話します。
 疾患別リハビリ教育入院は「運動器」(変形性膝関節症など)「脳血管」(脳卒中片麻痺)「呼吸器」(慢性閉塞性肺疾患)の3コース。糖尿病の教育入院は一般的ですが、疾患に応じたリハビリ特化型教育入院は全国的にも珍しい取り組み。このなかで、脳血管コースで主に自助具を作っています。
 以前の自助具はOT科職員が関連する器具を購入し手作りしていました。時間がかかり、使いにくい場合はいちから作り直さなければなりません。3Dプリンターなら機械が自動で作ってくれるうえ、パソコンのデータを変更すれば微調整も可能です。
 「30日間という短期間の入院のため、手作りしていては間に合わないこともありました。3Dプリンターの導入で、自助具がたやすく作れるようになりました」と鈴木さん。
 難病で入院中の井手講平さん(71歳)は両手が不自由ですが、自助具を使い自分で食事をすることができます。「スプーンの柄を太くすることで持つことができる。おかずも好きなようにとれるし、食事はやはり自分で食べる方が断然おいしい」と言います。

自助具1個60円

 3Dプリンター導入にあたり、鈴木科長と作業療法士の川北萌さん、井上大記さんが、「ファブラボ品川」にオンラインで操作方法の講習を受けました。
 ファブラボ品川(東京都品川区)は多様な工作機械を備えた実験的な市民工房のネットワーク。作業療法士もおり、3Dプリンターなどを使い誰もが生活しやすい社会になることをめざしています。
 3Dプリンターというと一般的に高価なイメージがありますが、最近は価格も下がり、同院が導入したプリンター(ANYCUBIC製)は約3万円です。材料のフィラメント(合成樹脂)も1本2000~3000円。材料費だけだと自助具1個あたり60円くらいででき、無償で患者に提供しています。

病院と診療所の連携

 たたらリハビリテーション病院のリハ技術部には作業療法士をはじめ理学療法士、言語聴覚士36人が所属。同院を運営する公益社団法人「福岡医療団」全体では139人おり、福岡市内でも有数のリハスタッフ数です。
 患者が可能な限り長く自宅で暮らすためには、病院と診療所が連携し訪問リハ、通所リハ、教育入院を組み合わせて支える必要があります。
 法人のリハ技術部139人のうち22人は6診療所に配属。患者により身近な場で日常生活動作の維持、向上をめざしています。教育入院中に作った自助具が自宅でうまく使えているか、訪問リハで確認し合わないようだったら作り直すこともあります。
 教育入院の脳血管コースから始まった3Dプリンターの自助具作りですが、今は他のコースや訪問リハ、通所リハからの要請で作ることもあります。
 由川さんは「今後は在宅リハビリをより強化していく方針で、3Dプリンターを法人全体に広げていくことも視野に入れています。多くの職員が経験やデータを共有することで、より良い自助具ができます」と話します。


ファブラボ品川
個人による自由なものづくりの可能性を広げる市民工房。作業場や施設を一般に公開している。『はじめてでも簡単!3Dプリンタで自助具を作ろう』(三輪書店)など書籍を出版するほか、さまざまなイベントを開催

いつでも元気 2024.5 No.390

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