いつでも元気

2009年12月1日

特集2 40歳からの発症増加 狭心症・心筋梗塞

「基礎疾患」の治療もしっかりと

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高田慎吾
宮崎生協病院循環器内科

 人間の臓器は動脈を流れる血液から酸素や栄養を受け取ります。心臓も例外ではありません。心臓は主に筋肉でできた中空の臓器です。全身に血液を送り出すポンプの役割をしていますが、自分で送り出した血液から酸素や栄養を受け取っています。
 心臓に血液を行き渡らせるのが冠動脈です。冠動脈は心臓表面に張り付くように存在します(図1)。
 ここでは冠動脈が狭まって血液の流れが悪くなって起きる狭心症、詰まって起きる心筋梗塞のお話をしましょう。

血液の通り道が狭まって

 狭心症は主に次の2つがあります。
 1つ目は冠れん縮型狭心症です。冠動脈が収縮し、血液の通り道が狭まる(狭窄)ことで起きます(図2)。就寝時や起床前に発作が現れやすく、安静にしていても症状が起きるため、安静時狭心症ともいいます。
 2つ目は労作性狭心症で、主に動脈硬化が原因です。もろくなった血管内側の膜にコレステロールがたまってこぶになり(図2)、血液の通り道が狭まります。運動時に発作が起きやすく、安静にすると症状がおさまりやすいのが特徴です。こぶの状態が悪くなると安静時でも発作を繰り返し(不安定狭心症)、やがて血管が詰まってしまい、心筋梗塞になる場合があります。

図1 心臓ととりまく血管
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図2 冠動脈の病気
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狭心症―症状はさまざま

 狭心症の症状は痛み、圧迫感、締め付けられるような感覚、胸焼け感、息切れ、失神発作などさまざまです。胸の痛みがよく知られていますが、必ずしもこれだけが症状ではないところに注意が必要です。
 症状が現れる場所も胸、あご、ほほ、耳たぶ、左右の肩、へそより上の上腹部、背中などさまざまです。指先で示せるような狭い範囲しか症状がない場合は、狭心症ではないことが多いようです。左肩から左腕の方へ突き抜けるような痛みが起きることもあります。
 こうした症状は心筋の酸素不足で起きます。たとえば運動すると筋肉の酸素の消費量が増えます。心臓は必要な酸素や栄養を全身の筋肉に届けようとして心拍数を増やすため、心筋が消費する酸素量も増えます。
 しかし冠動脈が狭まっていると血液が十分流れず酸素が不足し、心筋が痛むようになります。逆に運動をやめるとだんだん症状が改善します。
 症状が続く時間は、労作性狭心症の場合で5分以内のことが多く、心筋梗塞の前触れ症状になると15分~30分くらい続きます。

心筋梗塞―心筋が壊死

 壊死とは細胞が死んで臓器の機能が損われてしまうことです。
 心筋梗塞の大半は冠動脈の動脈硬化が原因です。冠動脈の内側の壁に表面の膜が破れやすい「こぶ」ができたときに発症の危険性が高まります。膜が破れると どろどろした中身が血管中に出て急速に血液が固まり(血栓)、血液をせきとめてしまいます。血栓から先の冠動脈に血液が流れなくなり、血液が届かなくなっ た部分の心筋が壊死し、その部分の心筋は動かなくなったり、時には破裂したりします。これが心筋梗塞です。
 心筋梗塞の症状は、一般的に30分以上続く激しい胸の痛みや圧迫感で、多くは6時間~10時間続きます。あごや左肩、左腕、上腹部などに症状が現れることがあります。
 痛みのない心筋梗塞も15%以上あります。とくに糖尿病、高齢者、精神病患者、脳血管障害を持つ方に症状が出ない場合が多いようです。
 私が経験した患者さんにも「めまいを感じて尻もちをついた」方、起きあがることができず連れてこられた方、激しい右足の痛みで来院した方、呼吸がぜいぜ いして息苦しさとむくみを訴えて受診した方がいました。どの患者さんも胸の症状は訴えませんでしたが、心筋梗塞でした。

診断と検査

 狭心症・心筋梗塞は、次のような検査をおこなって診断します。
 (1)冠動脈の血液の流れ具合を間接的に調べる検査
 心電図
 胸痛の原因が心臓なのか判断し、狭心症か心筋梗塞か見極めるのに役立ちます。心筋梗塞では心筋が壊死した場所を推測できます。
 運動負荷心電図 運動中の心電図を記録し心筋の血流不足を調べます。
 24時間ホルター心電図 携帯用の心電計をつけて日常生活を送り、24時間の心電図を記録します。最近はつけたまま入浴できる心電計も開発されました。冠動脈の血流不足による変化を調べます。
 心臓超音波検査(心エコー) 冠動脈の血流が少なくなると心筋の動きが悪くなります。この検査は超音波で心臓の壁の動きや血流を調べます。
 (2)冠動脈の太さ、血液の流れ具合を目で見えるようにする検査
 冠動脈造影検査
 腕や脚の付け根から動脈内に細い管(カテーテル)を入れて冠動脈の入り口まで通し、冠動脈内を造影剤が流れていくよ うす(動画)を撮影します。冠動脈が狭まったり詰まった部分を明らかにできます。最近はCT(X線による断面撮影)でも撮影することができるようになりま した。
 (3)心筋の細胞の状態を調べて、冠動脈の血液の流れ具合を診る検査
 心筋シンチグラム
 人体に害のない程度の微量の放射線を出す物質を血管に注入し画像を撮影します。放射線物質がどの程度心筋に取り込まれるかによって血液が行き渡っていない部分や壊死した範囲を調べます。
 (4)その他の検査 
 左室造影検査
 心臓でポンプの働きをするいちばん重要な部分が左心室です。この左心室内までカテーテルを入れて造影剤を流し込み、X線で動画を撮影します。左心室の壁の状態、狭心症・心筋梗塞で動きが悪くなった部分を明らかにします。
 冠動脈内超音波検査 腕や脚の付け根から超音波を発する細い管のようなものを入れて冠動脈まで通し、動脈硬化の状態を詳しく調べます。

治療は

 狭心症の治療は、発作を抑えて日常生活を生き生きと送れるようにすること、狭心症が進行して心筋梗塞になるのを防ぐことが目的です。
 心筋梗塞を起こしていればできるだけ早期に梗塞の広がりを防ぎ、とりわけ左心室の壁に異常を生じてポンプ機能が低下するのを予防します。
 治療は急性期(発症12時間以内)と慢性期(発症12時間以降)でことなります。急性期では冠動脈の血流を改善するために、後で述べる血行再建療法をおこなう場合があります。
 慢性期では生活習慣の改善、糖尿病・高血圧症・脂質異常症(高脂血症)・肥満など動脈硬化の原因になる病気(基礎疾患)を治療し、動脈硬化の進行を遅らせます。
 狭心症・心筋梗塞で心臓のポンプのはたらきが低下した場合は、心臓リハビリテーションをおこないます。

生活習慣の改善

 コレステロールの高い食品、とくに動物性脂肪を控えます。摂取量は1日300繒が目安です。カロリーを抑えて肥満をなくしましょう。
 たばこも本数が多いほど狭心症・心筋梗塞になる危険が高くなります。
 動脈硬化の進行を遅らせるには歩行、自転車など、全身を使った軽い運動が最適です。天候や体調が悪いとき、食事直後は控えます。狭心症の発作がたびたび起こる場合や、心筋梗塞の発作直後は運動禁止です。
 ストレスも血圧を上げたり、動脈硬化をすすめます。適度な休養、十分な睡眠をとるようにしましょう。

基礎疾患の治療

 高血圧症、脂質異常症、糖尿病、肥満をしっかりと治療し、コントロールすることがもっとも重要です。
 最近、狭心症や心筋梗塞を発症してカテーテルによる治療を受けた人は、これらの病気をしっかり治療しないと死亡率が下がらないという報告が出ました。内服治療、食事療法、運動療法を適切に続けましょう。

薬物療法

 薬には次のようなものがあります。
 即効性硝酸薬 狭心症の発作時に使う薬です。心臓の負担を軽くし、冠動脈を拡げ、血流をよくします(ニトログリセリン、硝酸イソソルビドなど)。
 持続性硝酸薬 日常的に服用する硝酸薬です。やはり心臓の負担を軽くして冠動脈を拡張します。
 カリウムチャンネル開口薬 硝酸薬と同様の働きと、血流不足への抵抗力を高める効果があるとされます。
 ベータ遮断薬 心臓の働きを抑え、心筋の酸素消費量を減らします。
 カルシウム拮抗薬 冠動脈を拡げて血流を増やすとともに、冠動脈のけいれんを予防します。血圧を下げて心臓の負担を軽くします。
 ACE阻害薬 心筋梗塞で壊死した範囲が大きいと、健康な心筋にも悪影響を及ぼして心不全になることがありますが、これを予防します。
 脂質異常症治療薬 動脈硬化の進行を抑え、とくにスタチン系と呼ばれる薬はこぶを小さくしたり、こぶ表面の膜が破れる事故を予防します。
 抗血小板薬 血液を固まりにくくすることで、血栓を予防します。

血行再建療法

 経皮的冠動脈形成術 風船つきの管を足の付け根または腕の 動脈から入れ、動脈硬化で狭まった冠動脈の中で風船を膨らませて血管を拡げます。最近では風船以外にステント(金属の輪)などを併用することもあります。 薬剤溶出ステント(表面に塗られた薬剤が徐々に溶け出し、狭窄を防ぐ)を使うこともあります。
 冠動脈バイパス手術 冠動脈の狭くなった部分より先の冠動脈と大動脈を別の血管を使ってつないだり、心臓近くの動脈を直接狭くなった部分より先の冠動脈につなげます。
 この手術は冠動脈の狭まった部分が左心室に血液を運ぶ左冠動脈の付け根だったり、経皮的冠動脈形成術が難しい場合、経皮的冠動脈形成術後も血管の狭窄を 繰り返したり急性冠閉塞(冠動脈が詰まる)を起こした場合などにおこないます。この手術には大伏在静脈(脚の内側のくるぶしから大腿部まで走っている静 脈)、 骨動脈(腕の動脈)、内胸動脈(鎖骨の下から枝分かれして胸壁の裏側を縦走する動脈)など、取り除いたり、一部はがしたりしても差し支えのない自 分の血管を使います。

心臓リハビリテーション

 運動で心臓に負荷をかけ、リハビリをおこないます。短時間のストレッチ体操と、エルゴメーター (自転車のようにこぐ器械)などを使った運動を週3~5回実施することで心臓の機能が改善します。当院の患者さんを見ていると、明るくなる方が多く、精神 的にもよい効果があるようです。

生活上で気をつけること

 冠れん縮型狭心症は禁煙と内服治療をしっかりおこなうことが重要です。
 労作性狭心症でカテーテルによる治療を受け、薬剤溶出ステントを留置した方は、抗血小板剤をしっかり内服する必要があります。
 また、先述の基礎疾患の治療をしっかりおこなってください。
 胸部の症状が出たらニトログリセリンを使うよう医師にいわれている方は迷わず使って安静にしましょう。
  さらに1年に1~2回は24時間ホルター心電図や運動負荷心電図の検査を受けましょう。

予防法

 10年ほど前までは狭心症・心筋梗塞の発症は男性60歳前後、女性70歳前後が中心でした。しかし最近は基礎疾患の治療が不十分な40歳前後からの発症が増えています。
 日常生活では血圧を上げない生活が重要です。塩分を制限し、十分に睡眠をとり、いらいらしない生活、毎日の適切な運動が必要です。
 高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満など狭心症や心筋梗塞の原因となる病気を早期に発見するために年1度は検診を受け、病気がわかったらしっかり治療することが大切です。
 さあ、今日からまず減塩を始めましょう!

いつでも元気 2009.12 No.218

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